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「で」
「うん」
別の日の昼休み。
すっかり小部屋に馴染んでしまったノイエ様は、
今日も今日とて購買部の人気メニュー、
カツサンドとカレーパンとチョコバナナクレープをガッついていた。
「今日もよく食べますね、ノイエ様」
「うん、ここでは思う存分食べられるから」
曰く、
「俺結構食べるんだよね」
とのこと。
ファンたちの『少食であってくれ』願望を裏切らないよう、今まではあまり昼には食べず、アーサーに食糧を調達してもらいこっそり夜に食べていたとのこと。
なんと涙ぐましい。
その方法だと昼に売り切れる人気メニューにはありつけないことになり、この小部屋に来てからというもの、ノイエ様は嬉しそうに人気メニュー制覇を楽しんでいるのである(食糧調達:アーサー様)。
「たくさん食べるっていいじゃないですか」
「いやー、物食ってるとビックリされるんだよ。
俺に霞でも食ってて欲しいのかね」
まあ確かに朝露とか飲んで生きてそうではある…
と、喉まで出かかったコメントは口に出すのはやめておいた。
今日のノイエ様も絶好調に自発光している。
「ところでこの時間、
アーサー様はどうしてるんですか?」
「なに、アーサーが気になるの?」
「いや気になるほど知りませんが」
なんとなく2人セットのイメージがあるので。
「アーサーはあの通り豪快なやつだし、
友達多いから大丈夫」
「ほう」
「ちなみに俺は友達ひとりもいない」
「いるじゃないですか」
「え」
「わたし」
ぱくぱくと、またオカメインコ化するノイエ様を見て内心笑う。
最近のセイシルは、このわんぱくで美しい人をからかうのが存外楽しいことに気づいてしまった。
悦かな悦かな。
「友達…」
ぼそりと呟いたノイエ様は一時停止して手元のチョコバナナクレープをじっと見つめると、うん、と何か納得したように頷いて一気に口に放り込んだ。
「セイシル」
「はい?」
「冬のホリデーは帰るんだろう?」
寄宿学校であるトランジア校は全ての学生が寮で暮らしている。
年に数回あるホリデーに併せ、多くの学生が帰省するのだ。
「私は帰りません」
「あれ、そうなの」
「ええ、諸事情ありまして、
卒業まで帰らないことになっていまして」
「そうなのか」
「ちなみに家族仲は良好ですのでご安心を」
「そうか」
あからさまにホッとしたノイエ様はやはり優しい。
「じゃあ寮で過ごすんだな」
「そうですね」
「休み明け、楽しみにしてろよ」
そう言って快活に笑うノイエ様が、
花の周りを飛び回るいたずらな精霊に見えて、
セイシルは目を細めた。
そしてホリデー明け。
すっかり寒くなりマフラーに顔を埋めるセイシルは、
小部屋の中で何故か仁王立ちするノイエ様を見上げた。
「…ん?ちょっと背伸びました?」
「なんだと!1ヶ月で3センチも伸びたんだぞ!」
「それは凄い、痛みません?」
「正直痛い、体中痛い」
はは、と笑うノイエ様に違和感を覚える。
身長じゃない…何かちょっと違う?
「あ、おでこ」
ノイエ様といえば目にかかる長い前髪、
そこから覗く水色の瞳がセクシーだったのだが、
それがセンターパートになりおでこが少し覗いているのである。
あら素敵!
「素敵ですよ、とっても」
「ありがとう」
照れくさそうに笑うノイエ様が、
ちょっと年相応の男の子に見えた。
『見まして?ノイエ様のおでこ!』
『もう直視できませんでしたわ、あそこ白色灯なのかしら?ってくらい輝いてましたもの』
『ちょっと背もお伸びになって…』
『なんだかちょっと…淋しいですわ…』