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憧れは遠く醜く

 アイリスは自身に魔法をかけ、ほぼ全ての魔物の魂の吸収を決行した。魔法陣は眩い光を放ち、そして残ったのはドロドロとした魔物の融合体だ。泥のような塊から、あらゆる魔物の手足や顔が突き出ていて気味が悪い。

 あまりの不気味さと醜さに、ラヴィーネは思わず後ずさりをした。化け物をまじまじと見つめ、偶然目が合ってしまった。

「何、これ…本当にこの世の生物なの?」

「ラヴィ剣を抜いて!」

ロゼットに言われ、ラヴィーネはハッとした。剣を抜かなければ死ぬ、と。学校の教室くらいの広さの空間で、化け物は無差別に大きな火の玉を放ってきた。そのうちの一つがラヴィーネに直撃しそうだ。

 ラヴィーネがレゾナンスで防御態勢をとるより前に、ロゼットはバリアーで火の玉を防いだ。火の玉はバリアーに当たり、火の粉は四方八方に飛び散る。

「ありがとう、ロゼ。助かったわ。」

「これくらいなんてこと無いよ。それより…次が来る。」

 間髪入れず、今度はドロドロの塊から五本の触手が出てきた。一本一本がそれぞれ、ロゼット達の動きに確実についてきている。リシュアは柔軟な動きで触手を躱しながら、必死そうに叫んだ。

「この化け物を倒すには…心臓を破壊する必要があるんですよね?まずはそれを探しましょうよ!」

「そうは、言ってもね!あんなデカい奴の…心臓を探すなんて、どうやれば良いんだい!」

リシュアは空中で舞うように触手を扇でスパスパと切り、リエーテが手裏剣でそれを援護した。触手からは緑色の血が流れ、あの化け物も魔物なんだと実感させられる。


 細切れになった触手とともに地面に着地し、周りを見渡すとルーダが触手に苦戦しているようだった。扇や剣では簡単に切れるが、鞭は叩くだけだ。どうしても大きさの違いで力負けする。

「ルーダくん、少し後ろに下がって!」

ルーダは受身の姿勢を取り、わざと触手によって壁側に吹き飛ばされた。リシュアは目にも止まらぬ速さで自身の間合いに入るまで触手に近づき、先端を十字形に切った。

「ぁ…ありがとうございます。」

「ルーダくん大丈夫?無理しないでいいから…」

「…ごめんなさい、こんな時なのに。でも、カイルさんを手にかける事が…怖いんです。」

 ルーダは弱気な声を出し、手が震えていた。当たり前のことだろう、相手は今は異形の化け物とは言え、ルーダの育ての親だ。リシュアはルーダの気持ちを汲んであげることにした。

「下がってて良いよ。ここは、私達が何とかするから。」

ルーダが見たリシュアの背中は、とても頼もしく優しいものだった。いつも彼女が見せる、ポコロ達を見つめるあの冷酷な瞳とは真反対だ。そんなリシュアの気遣いに、ルーダは頼らざるを得なかった。リシュアに礼をし、部屋のドアを開けて出ていった。

「そうだよね…家族が死ぬ所なんて、普通見たくないよね。」

リシュアはロゼットの肩を叩き、グイッと顔をこちらに向けさせた。

「ロゼットさん、体の中の透視とか出来ますか?」

「出来ないことはないよ。ラヴィに氷を出して足止めするよう言って。」

「了解です…頼みましたよ!」

 リシュアがラヴィーネにその旨を伝えると、ラヴィーネは黙って頷いた。レゾナンスを両手でしっかりと掴み、化け物の懐を目掛けて突撃した。彼女の行動を警戒し、化け物はラヴィーネに攻撃を集中させてくる。そこで、触手はリシュアとリエーテで対処し、魔法を使ってきた時はロゼットが片手間でバリアーを張って防いだ。ラヴィーネは限りなく無傷に近い状態でたどり着き、化け物の足を地面ごと凍らせた。

「これで良いのよね?早くして頂戴!」

「ナイス、ラヴィ。今心臓を探してる所だよ!」

ロゼットの言葉に安堵したのも束の間、化け物は先程よりも太く重みのある触手で応戦してきた。


 化け物はリシュア達の動きを学習し、キレのある攻撃をしてくるようになった。ロゼットの心臓探しはまだ終わらず、リシュア達は終わりが見えない触手の攻撃を前に疲弊してきていた。

「はぁはぁ…ロゼット、まだなのかい!?」

すると突然触手の先端が四つに割れ、そこからガスのようなものが噴出してきた。リエーテは咄嗟に口を塞いだが、ガスを吸ってしまった。体制を崩した隙に触手が左右から接近してきたため、リエーテは両手にそれぞれクナイを持って触手を刻んだ。そのまま近くにいたラヴィーネの援護に向かおうとしたが、体は思うように動かなかった。

「くっ…これ毒だったのかい!」

解毒する魔法はラヴィーネとロゼットが使えるが、二人の所に行くにはそれなりに距離がある。まともに走ることも出来ていないのに、化け物の攻撃を全て躱してそこにたどり着けるだろうか?

「詰んでる…だからって、諦めないけどね!」

リエーテはフラフラしながらもリシュアのもとに向かった。解毒剤やポーションなどの道具類の管理は彼女が行っているからだ。数回倒れながらも地面を這いつくばって移動した。それに気がついたリシュアは解毒剤をリエーテに向かって投げた。

「割ったらダメですよ、ちゃんと受け取ってください!えい!」

「ッ...!安心しな、ちゃんとキャッチしたよ。」

リエーテは解毒剤の入った小瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。

 絶望的な状況にも関わらず、ロゼットは先程から情報の一つもよこさない。ついに痺れを切らし、リシュアは憤りに似た感情でロゼットを問い詰めた。

「ロゼットさん、心臓は何処にあるんですか!?早くしてくださいよ!」

「リシュア…こいつ心臓が移動している。」

「はぁ?どういう…」

「何万体もの魔物と無理やり融合したから、生物の形を保てていないんだ!心臓は、あのドロドロとした部分を絶えず移動してるんだよ!」

ロゼットの言葉は部屋中に響き渡った。リシュアもリエーテも、その一瞬で絶望した表情に変わった。狙うべき心臓は、規則性もなく動いている。それに心臓を破壊するのではない、体から切り離さなくてはならないのだ。

「そんなの…無理じゃないですか。移動している、握り拳程度の大きさのものを狙うなんて。」

「折角、希望が見えてきたのにね…」

 その直後、ラヴィーネが壁に打ち付けられた音がした。化け物に近づいたせいで、彼女は今まで何本もの触手の猛攻に耐えていた。ダメージを負う度に治癒魔法で応急手当をしたが、その前にラヴィーネ自身のスタミナが持たなかったのだろう。剣で切断された触手が腕に噛みついていたが、ラヴィーネはそれを力技で引き千切った。皮膚が剥がれ、多量の血が流れる。

「流石に強いわね…打つ手なしって所かしら。」

ラヴィーネの珍しく弱気な言葉に、誰一人として言い返せなかった。それでも、化け物は攻撃をやめようとはしない、この場にいる全員が死に至る瞬間まで。

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