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5 夜会でダンスを踊っちゃいました

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 マリアベルの足掻きも虚しく、馬車は王宮のロータリーへ到着した。


「煌びやかですね」


 夜の闇にライトアップされた王宮が美しく輝いている。デビュタントもしていないマリアベルは登城したことが一度も無かった。それ故、マリアベルは初めて見る圧巻な風景に足が竦んでしまう。


 突然、ふわっと腰に腕が回され、反射的にビクッとした。隣を見上げれば、レオナルドがマリアベルを優しい笑顔で受け止める。


(なんて優しい笑顔・・・。先程の殺伐としたやり取りは何だったの!?)


 レオナルドは王子らしく優雅な振る舞いで彼女をエスコートし、迷いなく進んで行く。一方マリアベルは、豪華な室内に目を奪われ、つい、絵画や彫刻を眺めてしまう。まるで夢の中にいるような気分だった。


「マリーは美術品に興味があるのか?」


 前を向いたまま、レオナルドはマリアベルへ話し掛ける。


「はい、絵画を見るのが好きなんです。描くのは下手なのですけど」


「好きな画家は?」


「アル・ルノーやロード・ネモが特に好きです」


「インプレッション派か・・・、優しいあなたの雰囲気に合っている」


(また、褒めているのか貶しているのか分からないことをおっしゃるのね)


「ありがとうございます」


「近々、休みを取ろうと思う。一緒に美術館へ行こう」


「せっかく空いたお時間に私との予定を入れたら、結局、また、殿下のお休みが無くなってしまいませんか?」


「マリーとの時間はプライベートだ」


「そうですか」


 マリアベルは突然、一緒に出かけようと言い出したレオナルドに戸惑う。


(義務で婚約する相手に無理なんかしなくてもいいのに)


 大きな扉の前まで来るとレオナルドは立ち止まった。勿論、エスコートされているマリアベルも一緒に。


(多分、この先が夜会の会場よね。どうしよう・・・、こんなことになるなんて)


「殿下、私、夜会は初めてなんです。流儀も分かりません。ご迷惑をお掛けしてしまいそうです」


 マリアベルは、先にお詫びを告げる。


「大丈夫だ。俺の婚約者に文句など言わせない。その代わり、意図的に触れてしまう場面があるかも知れない。それだけは許してくれ」


(意図的に触れる?その意味さえ分からないのだけど、何か決まりでもあるのかしら?)


「はい、お任せします」


 二人の会話が終わったタイミングで、内側から扉が開かれた。


 中の大広間では着飾った多数の人々が、今日の主役であるレオナルド達を待ち構えている。


「マリー、左手をここに通して」


 レオナルドは自身の右肘をマリアベルの前へ差し出す。


(どうしたら良いのかをこんな風に教えてくれるのは助かるわ)


 マリアベルは左手をレオナルドの右肘に通して彼の腕を軽く掴んだ。


「名前を紹介されたら、前に進む。緊張しているのなら、時々立ち止まって休んでも構わない」


 彼はマリアベルの左耳にくちびるを寄せて、今後の手順を伝えた。と、そこで二人の様子を窺っていた会場内から騒めきが湧き上がる。


「ご静粛に!!」


 司会者が大きな声で注意を促すと、会場内は一気に静まった。


「第一王子レオナルド殿下とご婚約者である、マリアベル・レイ・モディアーノ公爵令嬢のご入場です」


 会場の水を打ったような静けさの中、レオナルドとマリアベルの姿を皆が見詰めている。二人は赤い絨毯の上をゆっくりと歩み、正面の階段上の玉座にいる国王の元へ向かった。


「玉座の手前で片膝を折って跪く。俺とタイミングを合わせればいい」


 マリアベルに何とか聞こえるくらいの小さな囁き声で、レオナルドはまた次の指示を出す。マリアベルは返事の代わりに繋いでいる腕に力を込めた。二人は国王の前まで進み出るとタイミングを合わせて同時に膝を折る。


(良かった。上手く出来たハズ・・・)


「顔を上げなさい」


 二人で顔を上げて、国王の方へ視線を向ける。


(あ、殿下とそっくり!?)


「レオナルド、マリアベル嬢、婚約おめでとう」


「国王陛下、温かいお言葉をありがとうございます。この度は良きご縁を賜り、感謝しております」


(なるほど、ご縁は国王陛下にいただいたという体なのね)


「マリアベル嬢、愚息をどうぞよろしく頼む」


(愚息なんて!!恐れ多い。何と答えたらいいの!?)


「はいと言えばいい」と、いいタイミングでレオナルドが囁く。


「はい」


「では、今夜集まってくれた貴族諸君、若い二人をどうぞ宜しく頼む。では、夜会を始めよう」


 国王は右手を大きく振り上げた。


 会場の左側でスタンバイしていた楽団の指揮者がタクトを上げる。


「行くぞ」


 レオナルドは半ば強引にマリアベルの手を掴んで立ち上がらせるとダンスを始める構えを取った。


(え!!嘘!?ダンスなんてしたこともないわ!!)


 マリアベルの顔から一気に血の気が引いて、真っ青になる。絶体絶命という言葉が彼女の頭の中でグルグルと回っていた。その様子を眺めていたレオナルドは、彼女の異変に気付く。彼はマリアベルの耳にくちびるを寄せて囁いた。


「俺がマリーの腰を持って上手く支える。力を抜いて身を任せてくれ」


 ここを乗り切るにはレオナルドに縋るしかないと判断し、マリアベルは大きく頷く。


 覚悟を決めてレオナルドを見上げたマリアベルの瞳は緊張からか、涙で潤んでいた。彼女の銀色の長いまつ毛が会場の光でキラキラと輝き、マリアベルの放つ美しさに磨きをかける。


 レオナルドは至近距離にいるダイアモンドのような輝きを放つ己の婚約者に微笑んだ。


 指揮者がタクトを振り下ろすと柔らかな曲が始まった。ゆっくりとレオナルドは横、縦、斜め後ろへとステップを進めていく。彼はマリアベルの足が少し浮くくらいの高さになるよう彼女の腰を片腕で抱えて上げて踊っているのだが、驚くべきことに表情のひとつも変えない。


(殿下、どれだけ力持ちなの!?でも、本当に助かったわ!!もう絶対無理だと思ったもの)


 心の安寧はマリアベルの表情を豊かにした。


 若いご子息方は、マリアベルのとろけるような笑顔に心を奪われる。そして、若いご令嬢方も、モディアーノ公爵家にあんなご令嬢がいたなんて!と驚きを隠せなかった。圧倒的な美貌を持つマリアベルの存在を彼女たちは今まで知らなかったのである。


 年長者達はと言えば、王子とその婚約者が二人で楽しそうにダンスを楽しみ、とても仲睦まじい雰囲気を醸し出している様子を温かい目で見守っていた。


 夕刻に本来の婚約者が他国へ出奔したことなど、知る由もない。


 また決戦の日に、メンディ公爵家が選ばれなかったことへ対する騒動は起こらなかった。それは勿論、レオナルドが綿密な指示を部下に出した賜物なのだが、マリアベルは気付いていない。


 しかしながら、モディアーノ公爵が会場内へいないことに気付いている者は当然いた。彼らは見たこともないご令嬢がこの場へ現れたことと、父親である公爵の不在には何か関係があるのではないだろうかと考える。ただ、すでに夜会は始まっており、何がどうしたのかを今すぐ確認する術がない。結果、今すぐにこの夜会で騒ぐネタには出来なかったのである。


 夜会当日というタイミングで発生した婚約者出奔事件は、レオナルドにとって幸運としか言いようがなかった。相手がマリアベルだったというのが必須条件ではあるが・・・。



 レオナルドとマリアベルは、無事にダンスを二曲踊り終えた。

 

「本当に、本当にありがとうございます」


 上手くダンスを乗り切って嬉しくなったマリアベルは、レオナルドの右の耳元へ背伸びをして、お礼を伝えた。レオナルドは、そんなマリアベルの頬を右手で優しく包み、左頬にキスをした。


 会場は再び、騒めきに包まれる。


 マリアベルは突然キスをされ、顔が熱くなった。慣れないことに動揺して、今、自分がどんな表情をしているのかも分からなかった。


 そこへ、ヒソヒソ声が聞こえてくる。


「あの、堅物のレオナルド殿下が!?」


「信じられないわよね」


「あんなに美しい婚約者なら、殿下も心が動くだろう」


(誰がそんなことを言っているのかしら?)


 マリアベルはつい話の主を見てみたくなり、声の聞こえて来た方向へ視線を動かした。しかし、直ぐにレオナルドが手でマリアベルの顔を元の位置に戻す。


「余計な話は聞かないのが一番だ」


「そうですか?」


「ああ、そうだ」


「殿下、心が動いちゃったんですか?」


 マリアベルが、覗き込みながら聞く姿が可愛くて、レオナルドはつい笑ってしまった。


 騒めきは、一気に大きくなる。


(殿下が笑うだけで、皆はこんなに喜ぶんだ!?)


「マリー、陛下に挨拶をして下がろう」


「もう下がってもいいのですね」


(良かった!思ったより早く帰れそう!!)


「ああ、充分お披露目は果たした」


 レオナルドはそう言うと、マリアベルの頭を優しく撫でた。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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