村を救っちゃいました
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
辺境にある漁師村ヘブン。
マリアベルはリアム・ロザリーからこの村の重要性を習った。リアム・ロザリーとは王都メリッサ商工会・広報部の責任者で、マリアベルに商学を教えている講師のことだ。
ヘブン村は二つの海流がぶつかり合う豊かな漁場の近くにあり、水揚げ量がとてつもなく多い。具体的にいうと、このネストリア王国の海産物の六割がここで水揚げされている。
漁師村というだけあって村民のほとんどが漁業に従事。それぞれの家庭が結構、稼いでいるものの辺境の地という場所柄、ここへ人が集まってきて発展するという可能性はなさそうだ。そして最近、この村では見過ごせない問題が出ているのだという。
今回のお忍び任務はその問題点を洗い出すということ。
「マリー、いい天気だ。水平線にぺスカ島が見えている」
レオナルドはカーキ色のフードを目深に被り、海の先を指差して、マリアベルへ語り掛ける。今回の視察はいつも通りのお忍びスタイル。王太子とその婚約者の非公式訪問である。
マリアベルは膝下のワンピースを纏った町娘スタイルで髪は両サイドでおさげにしている。その横には白いシャツにこげ茶のスラックス姿のマリアベル専属護衛ポルトス。そして、レオナルドの護衛として、商人風の三つ揃えスーツを身に纏った第一騎士団副団長ホーリー(アーデル小侯爵)が同行している。
「何で今回の護衛は俺とお前なの?」
ホーリーはポルトスに向かって文句を言う。
「――――何故と言われましても・・・」
騎士なのに知性派のポルトスはホーリーの軽口がどうやら苦手の様子。
「ホーリー、文句があるなら王都へ帰れ。別にお前がいなくても俺たちは困らない」
見かねたレオナルドは、ホーリーに釘を刺す。
(このやり取りをここへ来るまで何度見させられたことか・・・。アーデル小侯爵様は本当に女性が大好きなのね。――――女性騎士を連れて来なくて本当に良かったわ)
マリアベルは無意識のうちに軽蔑の視線をホーリーに投げかけていた。
「ひどい!!マリアベル嬢までそんな目で俺を・・・」
ホーリーの嘆きながら見悶える仕草が一人芝居のようにしか見えず、マリアベルは一度深呼吸をしてから、彼に喝を入れる。
「アーデル小侯爵様、しっかりして下さい。私達はここへ遊びに来たのではありません!!」
しかし、この言葉に反応したのはホーリーではなく・・・。
「えっ!?」
声を上げて驚いた表情を浮かべるレオナルド。マリアベルはもう一度、はぁ~とため息を吐く。
(レオ・・・、あなたここへ遊びに来たつもりだったのですね)
「レオナルド様!!この村で頻発している窃盗事件を解決しに来たことをお忘れですか!?しっかりしてください!!」
場の空気が悪い方へ流れそうになり、ポルトスは軌道修正をするため口を開く。
「――――商工会のロザリー氏の話によるとこの季節、漁師たちは夜中に船を出して明け方に戻るそうです。そして、その時間帯に窃盗事件が頻発しているとのこと。ご家族で漁業に従事していると考えると、そもそも夜間は家に人がいないのかも知れません」
「それは・・・取り放題ということか?」
今し方、怒られたことが無かったかのように、レオナルドが会話に入って来る。
「ええ、そういうことでしょう。見回り団などを置くだけで、かなり改善すると思います。しかし、この村は人口も少なく、そういう人員が確保出来るのかどうかが・・・」
「この村はこの国の食生活を支えている重要な場所だ。必要なら第一騎士団の分団を置いても構わない」
「えっ!?なんで第一騎士団!?」
ホーリーは慌てる。第一騎士団と言えば、団員のほとんどが伯爵家以上の上位貴族だ。こんな辺境の地に赴くのは彼らのプライドが許さないだろう。
「いい機会だ。大した仕事もしていない癖に第一などと名乗っているのが前から気になっていた。ここへ騎士団員を定期的に送って研鑽を積ませたら、少しは使えるようになるだろう」
久しぶりに悪魔王子の顔を見せるレオナルド。先程とは打って変わって、血の気が引いた顔をしているホーリー。
(ここで険悪になってどうするつもりかしら。まだ今からしないといけないことが多いのに・・・)
「レオナルド様、アーデル小侯爵様とここに居て下さい。私とポルトスは先に行きます」
マリアベルは淡々と告げる。――――ポルトスはまた何故、ここで俺を巻き込むんだと頭を抱えたくなった。
「マリー・・・。何故、ポルトスだけを連れて行くのだ。俺は要らないのか!?」
「レオナルド様とアーデル小侯爵様はここへ遊びに来たのでしょう?どうぞお二人はお好きなように。私達は問題を解決して来ます」
レオナルドは彼女から突き付けられた言葉がグサッと胸に刺さる。そして、今はホーリーと小競り合いをしている場合ではないと目が覚めた。
「俺は遊びに来たのでなく、仕事をしに来た!!だから、マリーと一緒に行く!!」
何というか・・・、こんなに必死な上司は見たくないなと思いつつ、ポルトスは話の流れが自分への嫉妬に進まなくて良かったと安堵した。
「では、行きますよ。先ずは村長さんのお家からです!!」
「はい!」と、勢い良く返すレオナルド。
「はい」と、いつも通りのポルトス。
「は~い」と、反省の色が見えないホーリー。
結局、マリアベル指揮の元、村人たちに聞き込み調査を進めた四人。
その結果、ポルトスの予想通り、夜間は村に人が殆ど居ないことと、家にカギを掛ける習慣がないため、流れ者の窃盗団に目をつけられていたということが判明。
窃盗団(八名)は速やかにレオナルドが指揮を執って捕縛し、王都へ送った。
そして、村長に施錠の習慣をつけさせるための講習を村民にするようにと命じ、今後は第一騎士団から三か月ごとに五名ずつ、研修という名目で村を見回る人員を送る。
――――のちに料理のおいしさと村人の人の良さが功を奏し、人気の研修先となったというのはまた別の話・・・。
――――――――
王都へ戻って数日。
「マリー、今日は中庭でバーベキューをしないか?」
「?」
「ヘブン村から、プレゼントが届いた」
「もしかして・・・、お魚!?」
「そうだ。活きの良い魚がどっさりと届いた。今夜は使用人たちも誘って、そのプレゼントを焼いて食べようと思うのだが・・・」
レオナルドはマリアベルの顔を窺う。
(獲れたての魚なんて最高だわ!!ヘブン村の皆様ありがとう~!!)
マリアベルは嬉しくなって、脳内で様々な魚を思い浮かべる。
「そう言えば・・・、バーベキューは初めてです!」
「なっ!そうだったのか。ならば、盛大にしよう!!楽しみにしておいてくれ!!」
レオナルドはマリアベルに一歩近づいて、軽く口づけをすると部屋を出て行った。
(カニとか海老とかも実はあまり食べたことがないのよね・・・。お姉様の逃げたお隣の国は王都が海に面していて海鮮料理が有名なのよね。お姉様・・・、元気にしているかしら・・・)
――――――――
夕日が沈む頃、王宮の中庭でバーベキューパーティーが始まった。
昼過ぎにレオナルドが来て、ヘブン村から魚が届いたと聞き、この会を楽しみにしていたマリアベルは想像以上に規模が大きいことに驚く。
いつもは厨房で食事を作っている料理人たちが調理台を庭に設置して、そこで料理をしていたからだ。
バーベキューというから網焼きだけだと思っていたら、鉄板、大鍋、簡易の石窯まで用意されていた。使用人たちも誘うと言っていた通り、侍女、女官、文官、警備兵などの制服を着た職員も食器を手にウロウロしている。
「マリー、来たか!人数が多くなったから、立食形式にした。気軽に好きなものを食べよう」
「レオ・・・、毒見は?」
「今日はなしだ。ハッハッハ・・」
(ええっ、そんなに油断していいの!?何かあったらどうするつもりなのかしら)
「毒見なしは危険です。私が先に食べます!」
「とんでもない!マリーに何かあったらどうする?それは認めない」
そこで、レオナルドは背後に控えていた護衛の方を振り返った。
「悪いが毒見役を引き受けてくれないか」
「はい、かしこまりました」
護衛は二つ返事で了解する。
「これで大丈夫だ!さて、カンパイの音頭を取った後は好きなものを食べよう!」
マリアベルの返事も聞かず、レオナルドは給仕からグラスを受け取ると声を上げた。
「皆、グラスを持っているか?」
周囲を見渡すレオナルド。マリアベルも一緒の使用人たちの手にグラスが行き届いているかを確認する。少し離れたところから、ポルトスが確認完了という合図の手を上げた。
「よし、今夜はヘブン村からのプレゼントを皆と分かち合いたいと思う。存分に楽しんでくれ。カンパイ!!」
「「「「カンパイ!!!」」」」
大きな声が中庭に響き渡る。
「マリー、それは白ブドウのジュースにしてもらっている。安心して飲んでいい」
こっそりとレオナルドが耳元へ囁き掛けて来た。
(ということは、私がまだお酒を飲めないと思われているのよね・・・)
マリアベルはグラスを口へ運ぶ。
「!?――――美味しい、美味しいですコレ!!」
「それは良かった。その白ワインジュースは俺の一押しだから」
「レオナルドは優しく微笑む」
その笑顔がとても素敵で、マリアベルはドキッとしてしまったのだが、本人には伝えない。
「え~っと、レオ。――――お魚を食べましょう!おすすめはありますか?」
「まずは生で食べられるカルパッチョはどうだろうか?」
「食べます!!」
レオナルドと一緒にマリアベルは鯛のカルパッチョ、エビの塩焼き、ブイヤベース、シーフードピザを次々と食べて行く。どれも一口サイズで用意されていて食べ易く、新鮮な魚介の身は弾力があってプリプリ。味もしっかりとしていた。
「何を食べても美味しいです!ただ、こんなに沢山のお魚を送ってくれたヘブン村の方々に何とお礼を言ったらいいのでしょう」
「それは逆だ。向こうはマリーに感謝しているのだと思う。だから、ありがとうと受け取っておけばいい」
「――――分かりました」
「マリー、少しいいか?」
ここでレオナルドはマリアベルの手に合ったグラスと皿を横に控えていた給仕へ渡す。そして、彼女の手を取り、建物の方へ歩き出した。
(どうしたのかしら、お食事はもう終わり???)
マリアベルはもう少し食べたいものがあったので、後ろ髪を引かれながら中庭を後にする。
辿り着いたのは、王宮内にある聖堂だった。
「マリー、突然連れて来てすまない。渡したいものがあったから」
レオナルドは胸元から小さな箱を取り出して、マリアベルの前に跪く。
「マリー、十七歳の誕生日おめでとう。これは俺からのプレゼントだ。受け取って欲しい」
彼はそう言うと小さな箱を開けて、中から虹色に輝く真珠の指輪を取り出した。
「綺麗・・・」
いつの間にか夜空に月が昇り、ステンドグラス越しに月明かりが降り注ぐ。
――――その光が丸い真珠を七色に輝かせていた。
「これはヘブン村の近くにある真珠の産地で採れたものだ。ここの真珠は世界一美しいと言われている」
「――――知っていたのですね。私の誕生日」
「当然だ。愛する人の誕生日は特別な日だからな」
マリアベルが差し出した手にレオナルドは真珠の指輪を嵌めて行く。静かな聖堂内に遠くの喧騒が聞こえて来る。使用人たちも今日はバーベキューパーティーを楽しんでいるようだ。
「ありがとうございます、レオ。大切にします!」
「ああ、おめでとう、マリー。今日から堂々と飲めるようになったな!」
下からマリアベルをニヤリと見つめるレオナルド。
「――――もしかして、バレていますか?」
「いや、何も知らない。マリーが白ワインを好きだということなど・・・」
レオナルドのわざとらしい一言で二人は笑う。
(なんて幸せな誕生日なの・・・。こんな風にお祝いして貰ったのは初めてだわ・・・)
感情が高まり、自然と涙が目じりから一滴、零れ落ちる。レオナルドは立ち上がって彼女を抱き寄せた。
「これからもマリーの誕生日は俺が祝う。毎年、楽しみにしておいてくれ」
「――――はい」
嬉しくて涙が出て、嬉しいから声が震える。マリアベルは幸せを噛みしめていた。この人と出会えて本当に良かったと。
目の前に居る彼女があまりに愛おしくて、もう待てなくなってしまったレオナルドは彼女の瞼や鼻筋、こめかみへと口づけを落としていく。
――――――――
――――二人の甘い時間を過ごして中庭へ戻ると使用人たちがマリアベルへ大きな誕生日ケーキを用意して待っていた。
それを見てマリアベルは嬉しさの余り号泣してしまう。
彼らを遠巻きに見ていたポルトスと侍女のアリーは顔を見合わせる。――――殿下、激しく嫉妬していますね・・・と。
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