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畏怖の仔  作者: 一兎
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遊暮

忙しない足音が近付いて来る、三毛か。

「遊暮!」

「どうかしたー?」

「どうもこうもない、引き受けたんだって?どうゆうつもりだよ」

眼下から此方を見上げ不満気な声を上げる、相変わらずお節介だな。

「どうゆうつもりもないよ、ただ俺がそうしたいだけ」

「…答えになってない」

「うん…」

三毛が呆れたように溜息を吐く、ごめんね、三毛。

「そんなにあの女が大事?命を抛ってまで守る価値あるの?」

「………三毛」

空気がヒリつく。

「ぁ…、ごめん…」

「彼女の事を悪く言うのはいくら三毛でも許さないよ、……自分勝手なのは分かってる」

その場に立ち上がり右脚を蹴った、御神木から地面へと降りる。藤色の瞳を真っ直ぐに見据えた。

「それでも彼女とあの子を守りたいんだ」

「ーッ」

動揺の色を見せる、不意に吹いた風に三毛の栗色の髪が踊った。俺の事を忘れて幸せになってほしい…、なんて身勝手な願いだ。

「………止める気はないんだな」

「うん」

後悔したくないからね。

「後悔しない?」

「うん」

幸せだったよ。

「もう…、俺に出来る事ない?」

「ううん」

十分だよ。

「………死なないで…遊暮」

「…」

ごめんね。有難う、三毛。


目を覚ますと満天の星空が広がっていた。

「ハァ…最悪…」

三俣稲荷神社の裏手にある塋六山、本来ならば此処が神域だった。何代目かの土橋家当主が麓の村に神を下ろしてしまった、あの時から山は死に今では死人も同然だ。

「こんな山でも星は綺麗だねぇ…」

古ぼけた鳥居の上から広い空を見上げる、背後からガサガサと木々を揺らす音がした。

「…今日も来たんだ」

「ギィィィ…ィィギィィィィ…」

奇妙な声と共に無数の目が闇の中で瞬いている、懲りないなぁ。鋭利な鉤爪を引っ付けた猿の様な何か、俺を殺そうと飛び掛かってきた。何度も見た光景だ。

「ハハッ、醜い」

唐傘の柄を捻る、露わになった刃先が月に反射し瞬いた。風に押し上げられ袂が空を舞う、伸ばしっぱなしのざんばら髪が視界を覆った。

何時死んでもいいと思っていた、それでも生きて仕舞うのは遊暮の呪いかはたまた祈りか。今の俺を見たらお前はどう思うだろうね、俺は上手く笑えてるかな。


「孝吉に余計な事言うとらんやろな」

「…本人に聞いてみたら?」

姿を見せたと思ったら直ぐこれだ、嫌味の強い姑みたいだな。相変わらず見窄らしい着流し着てるし…。

「あれ?着物ってそんな色味だった?」

「あぁ!?…あー、札付いたでな、もう着れん」

「孝吉君のパパ?」

「…そうや、人の一張羅を…やめや!思い出すと腹が煮えてくるわ!」

「アハハ、沸点低いなぁ、あーそれで上半身脱いでたんだ、腹筋自慢してるのかと思って敢えて触れなかったんだけど」

「あぁ!?勝手に変態にすんなやぁ!」

群がる狒々(ヒヒ)を薙ぎ倒し悠長に会話をしていられるのはこれが日課だから、遊暮が死んでからずっとこんな調子だ。

「クソ猿!コラァ!!」

「……」

福壽は口が悪いけど根は良いやつだ、福ちゃん達と用事が無い限り明け方まで狒々を蹴散らすのを手伝ってくれる、本当これでお行儀が良ければなぁ。

「三毛、孝吉にちよっかい出すなや」

「何で?嫉妬?」

「ちゃう!阿呆!あれは信用ならん、余計な知識入れてもうたら面倒やでな」

「そう…」

相変わらず人の見る目はないなー、って言ったら怒るだろうな。あの子、孝吉君はこっちが思ってる以上に悟い。自分が抱えている問題、これから起こるであろう事、何もかもを見透かしてる様な…。

「どっかで感じた事あったなぁ…」

「何か言うたか?」

「んー?何も」

皆、大ちゃんみたいに単純だったらいいのに、面倒だなぁ。遊暮、お前だったらどうしてた?

俺はもう死にたくて仕方がないよ。

短め、箸休め。

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