お仕事開始!
「このサビ剣、鞘がないんだけど」
「さっさと売っちゃいなさいよ」
「それは売ってはならん。
まあ持っておれ、そのうち使えるようになる」
「しゃーない腰に差しとくか」
オレたちがギルドに訪れると、受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。
「コテンパ......いやシンジさん、メルアさん、ベルさんいらっしゃい。
今日はついに初仕事かしら」
「そうなんすよお姉さん。
なんかオレたちにオススメの仕事ってあります。
できるだけ危険のない報酬のいいやつでお願いしゃーす。
そして好き」
「それは......
あっ! でもしてほしい仕事がひとつあるんです」
軽くスルーしてそう言うと、お姉さんは掲示板から一枚の紙を持ってきた。
「これは町の地下水路の掃除なんですけど、なんかつまってるらしくてどうですか?」
「えーー!
地下水路の掃除!?
なんかくらそう!
華麗な妖精のあたし向きじゃないわ」
「まあ、最初なのだ。
とりあえずやってみてから次に選ぼうではないか」
「そうだな。
一丁やってみっか!」
オレたちはこの仕事をうけた。
地下水路に向かうためブラシを借りて町を歩く。
「で結局冒険者ってなにすんの? そもそも冒険者ってなに?
こんな掃除が冒険なの?」
「違うわよバカね。
冒険者の仕事はアイテム採集やモンスター討伐、護衛や輸送とか、ありとあらゆるものがあるの」
「ほう、そうなのだな。
我の時代にはなかったが」
「へえ、あっ、ここだ、ここだ」
町外れのそこには地下へと降りる階段があった。
閉じてあった扉を借りた鍵であけ地下へとオレたちは降りていく。
そこは湿った空気のする薄暗い石の水路だった。
「で、掃除ってまさかこれ全部ブラシでこすらないよね」
「当たり前よ!
こんな広いとこ魔法で掃除するに決まってるじゃない」
そう言うとメルアは呪文をとなえた。
「水よ、その清浄なる力をもって全てを押し流せ! アクアウェーブ!」
すると、メルアの前に大きな水球がうまれ割れると、大きな波となって水路の壁や通路を流れる。
ついでにオレも流された。
「さすが妖精族だな。
かなりの魔力だ」
「当然よ!」
「ぷはっ! ふざけんな!
オレも流されてんだよ!」
流されたオレは水から上がった。
「あら、いたの。
つい汚れかと思って」
「誰が汚れだ!
くそっ! びしゃびしゃじゃねーか!
下水じゃなくてよかった」
メルアが魔法で流したところをオレはブラシで軽くこすっていく。
ベルは周囲を見ている。
「いや、ベルも手伝えよ!」
「我は魔力感知で周囲を見ておる。
ほれ、やってくるぞ」
そう指差す方から大きなコウモリが飛んでくる。
「ジャイアントバットね!」
「で、でけえ!」
「シンジ実戦にまさる鍛錬はない。
魔力を感知して戦ってみよ」
「そうよ、そんなザコさっさとボコんなさいよ」
勝手なことをいうメルアをほっといて、オレは魔力を薄く拡げ感知をした。
素早くとび回るコウモリをとらえている。
「わ、わ、位置はわかるけど、速いから魔力弾はあてらんない!」
「薄く伸ばすのではなく厚く魔力感知を強めよ。
さすれば魔力が飛ぶ方向にうっすら出ておるはず」
「そんな急に...... ぐわっ!」
「その程度かわしなさいよ! ノロマね!」
ジャイアントバットが何回もぶつかってくる。
(魔力を厚く...... よりコウモリの体が見えてきた!
確かに前に魔力が出てる!!)
オレは剣をかまえた。
「ってゆーか、よく考えたらこの剣サビてんだけど!!」
「その剣に魔力を込めよ」
ベルから言われて魔力を込めた。
すると剣が光り輝く。
「さあシンジ、動きをを先読みして振り抜け」
「よし! ここだ!」
オレが剣を振るとコウモリはギャッと声をあげ通路に落ちた。
「やった!」
「シンジその剣!?」
メルアにいわれて剣を見るとサビが落ち新品のように輝く刃がきらめく。
「これは!?」
「その剣グランドレインは魔力を吸収し、放出すると前に話したであろう。
お主の魔力を得て前の姿に戻ったのだ」
「ほー」
「ほー、じゃないわよ。
さっさと先に進むわよ。
さあ、早く」
「じゃあ魔力を防御力にして感知しながらいくか」
「まて、すぐ使わぬ場合は防御のみ必要最低限で抑えていけ」
「なんで? 急に襲われるかも知んないじゃん」
「相手も魔力感知ができる場合、こちらの位置を悟られる。
先制攻撃をうけるぞ。
感知されぬように魔力感知を薄く広く行う能力を身に付けよ」
「わかった。
じゃあ練習しながらいくか」
オレたちはコウモリ退治と掃除をしながら先に進む。
奥に進むにつれ水路の水位が増していることに気づいた。
「水かさが増してるな。
やっぱ奥になんかつまってんのか」
「みたいね......
でも、あたしもう掃除で魔力ないから、あとお願い」
メルアがフラフラとベルの頭に落ちた。
「シンジ、あそこに何か、おるようだ」
ベルに言われてみると、何かが水路の排出口にへばり付いて水の流れを一部せき止めてるようだった。
「なんだあれ? これが水せき止めてんのか......」
オレがそのへばり付いてるものに剣で突っつくと、ブニブニ弾力があった。
そしてそのブニブニは突然動き出す。
「そやつは、スライムだな」
「へえ、スライムなんてザコじゃん」
「バ、バカ! スライムは厄介なんだからね!」
「オレがズバッと斬ってやるよ」
オレは剣を振りかぶり斬り付ける。
だがその体に弾かれ水路に落ちた。
「ぷはっ! なんだ弾かれた!?」
「バカ! スライムに打撃は効果が薄いの!
魔法じゃないと......
でも、あたしもう魔法は使えないし、どうしたら......」
スライムはその身体から何本もの触手を打ち出してくる。
オレはそれを弾くしかなかった。
「どうすんだよこれ!!」
「仕方なかろうな......
シンジ、剣にグラントレインに魔力を込めよ。
だが、全力でこめてはならんぞ」
「剣に......」
オレはいわれるまま剣に魔力を込める。
剣は光り輝き始めた。
「よし、それをスライムを斬ったとき魔力を放出するのだ」
「いやどうやって!? くそ! やるしかない!」
スライムの触手を弾きながら近づくとオレは剣をふるう。
そして当たった時に魔力を放出してみた。
「おらあああああ!!」
すると剣がまぶしく輝くと、爆音が響きスライムは飛び散った。
「やった! やったじゃない! シンジ!!」
「やった...... でも、すげ~つかれた......」
「うむ、それが吸収した魔力を放出するグランブレイクだ」
「そうなのか、中二感はあるがかっこいいな......
なっ! 剣が......」
剣が刃が黒く変色している。
「魔力を使い果たしたのだ。
また魔力を加えれば回復する」
「そうか......
お前も頑張ったな......」
オレが剣にいいながら腰に差した。
「まずいな。
何か来ておる」
そうベルが言うと、排水口からジャイアントバットが迫ってきた。
「もう戦う体力なんてないぞ!」
「バカ! さっさと逃げるわよ!」
オレはコウモリに二、三回噛まれたが、何とか逃げ地下水路から出られた。