オアシス
オレが三日後ほっそほそからもとに戻る。
「シンジさんいきなり使わないでください。
死んでしまいますよ」
「さきに言えよ!
魔法力あげるだけであんなに吸われるなんて思うか!」
「元々魔力が多いメルアさん用だから仕方ないです」
「まあ、あたしに合わせたんじゃ、シンジにはきついわね。 ふふん」
嬉しそうにメルアが言う。
「くそっ! まあいい。
ベル、魔煌晶を壊すのに、どこにいけばいいんだ?」
「うむ、メルドーザ砂漠にある深淵の塔だ」
「話しは一応聞いたけど、ほっといたらだめなの?」
メルアがベルにいった。
「おそらくいま、あの魔煌晶は千年でかなりの魔力がためられておるのだ。
奪われたら大魔王クラスの完全復活が可能となろう。
我以外の大魔王が人を滅ぼそうとするとは考えづらいが、万にひとつ精神操作や融合などで体を奪われることはあり得る」
「なんでそんなものおいてんの!」
「そうよ! 壊しときなさいよ!」
「千年前、もしものときの保険だったのだがな」
「行くしかありませんね」
オレたちはメルドーザ砂漠へと向かった。
「あぢい~」
「あついー」
そうオレとメルアはうめく。
オレたちは砂漠をもう二日歩いていた。
照りつける太陽に肌をジリジリと焼かれる。
「さすがに暑いですね」
「うむ、我でも暑く感じるな」
「死ぬ~ 死んでしまう~」
「大きくなるんじゃなかった~
小さいままならあんたを日陰にできたのに~」
「なあメルアお前その体どうなってんの?
ずっとそのまんまなのか」
「なに? このままでいてほしい?」
「いや、別に、食う量もかわんねえしな」
「おらあ!」
オレはぶっとばされて砂地を何度も跳ね水に沈んだ。
「ぷはっ! なにもしてないのに殴るんじゃねーよ!
って水? 何ここ!」
それはオアシスだった。
「水だーー! 皆オアシスだぞ!」
「きゃーー! 水よ! 水!」
メルアもオアシスに飛び込んだ。
「ふむ、何とか助かったな」
「ですね。 ではボクも......」
「ちょっ! 何してんのリーゼル! 服脱いで!」
「な、なんだと!? 止めろ! メルア見えん! 目を隠すな!」
オレはメルアに両手で目を押さえられた。
「一応こんなのでもシンジは男なんだから隠しなさいよ!」
「平気ですメルアさん。
ボクシンジさんのこと、ナメクジ以上フナムシ以下だと思ってますから」
「どこの序列にいれとんじゃーー!
いやそんなことより見せろーー!」
「なんて力!? こいつこんな底力を!! いつもは非力なくせに!
仕方ない!」
メルアからほとばしる魔力の高まりを感じる。
「フェアリーナックル!!」
「ぐへほっ!!」
メルア殴られて天高く舞ったオレは砂地に落ちて刺さった。
キャッキャウフフとはしゃぐメルアとリーゼルの声が遠くに聞こえる。
オレは体力を回復するのに全力を注いでいた。
「何をしようとしておるシンジ、お主まだ動けんぞ」
「きまってるだろ! 覗くんだよ!」
「止めておけ。
さっき瀕死になったではないか」
「......いいかベル、人には絶対引いてはいけないときがあるんだ」
「カッコいいセリフでカッコ悪いことをしようとするでない。
さっきメルアになんて言われた」
「のぞいたら体貫通するぐらい殴るよって」
「死ぬぞ」
「ベル......
短い間だったが、お前とあえてよかった......
達者でな」
「そこまでか、ならばもうなにもいうまい」
オレはリブーストを使い上空へと飛んだ。
のちにベルはいった。
その姿はまるで届かぬ太陽へと舞う鳥のようだったと。
(上空から左右に高速バウンドしてメルアに攻撃を絞らせなければいい!!
リーゼルは攻撃してこないはずだ!
一瞬だ! 一瞬でいい! この目に焼き付けるのだ)
オレは空中で高速移動しながら、メルアたちの姿を追った。
「どこだ!? いない!? そんなバカな!!」
オレはオアシスに落ちた。
「いないはずは......」
後ろから信じられない殺気を感じる。
「のぞいたら体貫通するぐらい殴るっていったわよね......」
後ろを振り替える。
「誰もいない!」
オレはその瞬間、自らの愚かさを悔いる。
(リーゼルの透明......
のぞきた過ぎて忘れてた......)
そして風を斬る音が耳のそばで聞こえる。
「フエエエエアアアリイイイイイナアアアクウウウルウウウ!!」
その時メルアの地獄から響くような声を聞いた。
それは一瞬だったが、オレには永遠のように思えた。