ケルアイブ湖
「ここがケルアイブ湖か」
オレたちの前に巨大な湖が現れた。
「ここが墓のある場所か......
周囲に家も何もないけど、そもそもベルは千年も封印されてたんだろ。
子孫でもいんのか」
「墓? なにをいっておる? あやつがいる。
よく魔力感知をしてみろ」
「ん? 何だ湖から何かあがってくる! めちゃくちゃな魔力だ」
それは前に戦った魔王よりもはるかに高い魔力を持ったものが深い湖からあがってきていた。
その時水面が高く持ち上がると大きな波がこちらに襲ってきた。
「ぐぼぼぼ」
オレは波に飲まれて木にぶつかって止まった。
「ごはっ! いってえ! なんだ!?」
目を開けると湖に塔のように巨大な黒い影がそびえ立っていた。
「なんだ!? 首なが竜!! いや亀か!」
それは甲羅を背負った巨大な首を持つ亀のようだった。
「おお! お久しぶりにございますヴァルザベール様!
まさかまたお会いできるとは」
そう亀のモンスターは首をもたげて感慨深げに言った。
「うむ、久しいなビィアサーグ息災であったか」
「はっ! このように老いましたがな」
二人は笑っている。
「おい、ベルこの亀なんなの!?」
「我の四天王、(万知のビィアサーグ)だ」
「そういっていだけるのは感謝の言葉もありません。
が...... 私は四天王失格でしょう......
あの勇者カイに道をあけたのですから......」
「お主、やはりあの者を見逃したのか」
「大恩あるヴァルザベール様に任されていた守備の任でしたが、私の私的な感情で、おめおめとおすなど言葉もございません......」
「よい。
あの者を殺すなどお主には無理であった。
我も会ってそう思ったゆえ気にやむでない」
「ですが......
そのせいでヴァルザベールさまがお眠りなされたとのこと......」
「かまわぬ。
我とてお主と同じだ。
あやつに未来をみたのだからな」
「左様ですか......やはりあなた様もそう感じられましたか」
(未来? 勇者カイに倒されただけじゃなかったのか)
「今日きたのはそなたに一目会いにきたのと、聞きたきことがあるから参ったのだ」
「はっ!
私の知りえることならば何でもお聞きください」
「我が封印されたあとのこと、そして今の魔族のこと、魔煌晶のことだ」
「なるほど、まずヴァルザベール様封印後、人間たちとの停戦、講和が成立しました」
「ふむ、約定は守られたのだな......」
ベルはうなづく。
(約定? なんか約束してたのか)
「その後は、両者のはみ出しものたちの小競り合いはありましたが、比較的そのあとは交流なども進みます。
しかし十年まえ突如魔王ゼロというものがモンスターを率いて戦争を始めた時、魔族は人間の側について戦いました。
それゆえ健在の両者は貿易が可能なほどにはなっております」
「それはよかったが......
魔王ゼロ......
我が時代にいたか?」
「いいえ、私も聞き及んではおりませぬな」
「では、魔煌晶のことだ」
「何者も触れられませんゆえ、おそらくあの場所にあると思います」
「そうか......
そうだ、お主人形師という者を知っておるか?」
「人形師?
そういえば魔王ゼロの部下に三魔将という者がいて、確か人形師、召喚師、大錬金術師というとか、だがその人形師が同一の者かはわかりませんが」
「三魔将......
なるほど、よくわかった。
礼をいうビィアサーグ」
「いえ、ヴァルザベールさま。
私も微力ながら力になりとうございます。
何とぞ末席に加えていただきたい」
「よい。
お主はかつてからよく仕えてくれた。
もう残り少ない命大切に使うがよかろう」
「おいベル!
きていただこうじゃないの!
こんな強いのにもったいない!」
オレが必死に説得する。
「本来時代が変われば、新しきその時代の者が問題を解決しなければならぬ。
我は一応カイとの約定ゆえ力も貸しているがな。
この時代はこのものに託そうと思う」
「このゴブリンにですか」
怪訝な顔でビィアサーグはオレを見た。
「誰がゴブリンだ! 人間だわ!」
「わかりました。
確かにそうやも知れませぬ。
しかそ、何事かあれば遠慮なくお呼びくださいませ」
わかったとベルがいうと、ビィアサーグは湖に沈んでいった。
最後まで抵抗するオレを引きずりながら歩いていく。