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やり直しの大魔王の弟子  作者: 曇天
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大魔王との邂逅

「ここはどこだ? 」


 周囲が石でできた大きな柱が立ち並ぶ通路ような場所を歩いていた。

 なぜここにきたのかよく覚えてはいないが、目が覚めたらこの場所にいたのだ。

 起きたとき目の前に大きな椅子があったが誰もいないため、オレは歩いてまわっている。


「ここは神殿かなにかなのか......」

 

 通路をあるいていると、大きな扉のある部屋から明かりが漏れている。

 オレはその隙間から中を覗いた。


 薄暗い部屋からどてらをはおった人の後ろ姿が見える。


「あの、すみません。

 あの......」


「くぷぷっ! このビャクヤ様とコウガ様マジ尊し......」 


(マジ尊し? 声からすると女か)


 オレの呼び掛けに答えない。

 どうやらイヤホンでパソコンの画面を見ているようだ。


(この神殿に似つかわしくない格好と機器だな)


「あの! すみませーん!!

 ダメだ聞こえてない。 

 ノイズキャンセリングのイヤホンか......」


 目がなれてくると部屋が見えてきた。

 そこかしこにマンガ本やアニメのパッケージがおかれ、周囲の棚にはフィギュアが大量に飾られている

 

(完全にオタ部屋だな。

 一体何を見てるんだ......)


 パソコンを覗き込むとアニメが流れている。

 それをみながら女性はニヤニヤしている。


「ああこれ知ってる。

 少年マンガ原作のアニメか」

  

 仕方ないので女性の肩をとんとんと叩く。


「ぴぎゃああ!!」


 メガネの女性は奇声を発っしとびあがった。


「な、なんですか!?

 あなたは......

 何でこの秘密の部屋に!!」


「すみません。

 オレも何でここにいるかわからないんです。

 目が覚めたらこの神殿みたいな場所にいたんで......」


「ま、まさか!?」


 女性は部屋におかれた分厚い書物をめくると、ゆっくりと閉じメガネをはずし、どてらをぬぐとにこやかに話す。


「ここは天上界、わたしは女神リオリシエ」


「いやもう無理ですよ。

 そんな威厳だそうとしても、完全にオタですよね」


「うきゃあ! しまったー!

 今日一人来るの完全に忘れてたー」


 女神と名乗るオタクは部屋をゴロゴロと転げ回った。


「えっ? さっき天上界っていいました。

 それに女神......」


 オレは我に返った。

 オタ......女神はゆっくり立ち上がった。


「......そうです。

 あなた神宮じんぐう 真二しんじは十六才で残念ながら亡くなりました」


「えっ! 死んだ! なんで!?」


「車に跳ねられたんです。 子犬を......」


「そうか子犬をかばったのか......

 くっ! オレカッケェー!」


「いいえ、子犬をよけた車が歩道をだらだら歩いてたあなたを普通に跳ねただけです」


「嘘!? そんなあっけない死にかたなの!」


「そうです。 

 年齢を偽り巧みにエッチな雑誌をコンビニで買ってウキウキした帰りで、まさしく犬死にでした」


「............」


 信じられない沈黙が続いた。


「......で、でも親とか悲しんだろうな」


「そうですね......

 一週間でしたね。

 悲しんだの」


「い、一週間!? それで立ち直ったの!!」


「はい、前向きにならないとと......」


「そ、そうか悲しんでいても仕方ないからな......」


「ええ、あなたの保険金がおりるとふんでハワイに行きました」


「えっ!? ハワイで楽しんでんの!?」  


「いえ......」


「そうだよなあ、そんなすぐ楽しめないよな。

 悲しみを忘れるためにか......

 強がりやがって」


「いえ、今感染症はやっててマスクつけないといけないからですね。

 いまいち楽しめないと言っています」


「ふっざけんな! あいつら!

 オレが死んだってのに!

 枕元にたってやる!!」


 オレは地面をだんだん踏んだ。


「落ち着いて! フィギュアが落ちちゃう!

 壊れたらぶち殺しますよ!」


 女神は取り乱すと、ハッと気づいたのか、コホンと咳払いして冷静を装う。


「さてあなたは今後どうするか決めないと」


「どうするか? 死んだら終わりじゃないの?」


「いいえ、これから別の世界に転生するか、元の世界に転生するかできますけど」


「そうなの! うーん......

 正直元の世界もな......

 別にいいことないし、どうせ転生してももっとひどくなりそうだしな。

 別の世界ってどんなところですか」


「あなたの世界でいえば、まあファンタジー世界ですかね。

 剣と魔法の......」


「おお! 面白そう!」


「いや~でも難しいですよ。

 文明も中途半端ですから、マンガもアニメもゲームもないし、わたしならいやですけど」

 

 笑いながら女神がいう。


(そりゃアンタがオタクだからだろ)


「それにモンスターがいますからね。

 とても危険です」


「うーん、モンスターか、食べられるのはいやだな。

 やっぱり元の世界がいいかな......」


「一応あまりにもあなたの世界の方を選ぶ人間が多すぎて、魂のバランスが悪いので異世界にいったら特典がありますけど」


「えっ! なにかもらえるの!」


「えっと、今のまま転生できるのとその世界を案内する妖精プレゼンツですかね」


 女神は分厚い本をペラペラとめくり説明した。


「う~ん、なにもなしの元の世界と特典アリの異世界か......」


「よし! 異世界だな!」


 

 元の世界に転生してやり直したとしても、たいして希望がもてない。

 そして何より妖精という甘美な響きが、思春期のオレを動かしたのだった。



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