伯爵からの提案
3月になり卒業が来週に迫った今日、ウィルは急遽ブランドン伯爵に呼ばれた。今後について話し合いたい、とのことだった。
ブランドン邸の執務室には、伯爵とウィルの2人きりだ。
ウィルが伯爵と会うときは、いつでもアメリアが一緒にいたため、ウィルは、なんとなく居心地が悪い。
まだメルとは婚約の関係だけど、こんなに緊張して大丈夫だろうか? 将来に義理の親子になったときに、ちゃんとやっていけるだろうか?
メルか伯爵夫人が一緒にいたら、こんな変な感じにはならないのに、なんで今日は2人なんだろう。。。
「卒業を控えて忙しいだろうに、急に呼び出してすまないね。」
伯爵は、ウィルに会うと最初に詫びの言葉を述べた。
「実は、君にお願いがあるんだ。」
「君は、王都の警備兵に就くことになっていたね?」
伯爵の質問に、ウィルは頷いて答えた。
「もしよければ、ブランドン領の支城の城主になってもらえないか?」
伯爵の突然の提案に、ウィルは驚きで目を見開いた。
「ああ、これはお願いであって、断ってくれても構わないよ。君1人で決めてもいいし、アメリアと相談してくれてもいい。そのつもりで聞いて欲しい。」
伯爵の説明によると、
ブランドン領の北西部には『魔の森』と呼ばれる森が広がり、その向こうには赤茶けた山地になっている。その山には、『山の民』と呼んでいる一族が暮らしているそうだ。彼らは王国民ではなく、交流もないとのこと。
しかし、100年ほど前に彼らが山から出て来て、ブランドン領に戦いを挑んできたそうだ。数ヶ月で彼らを山地へと追い返すことができたが、今後の彼らの侵入に備えて森に近いところに城を作り、当時の領主の2番目の息子が城主になった。今も、その時の子孫が城主を務めているそうだ。
「ただ、彼には子供がいなくてね。彼に近い血筋の従兄弟の子か、領主である私の子を継嗣にするか、相談を受けたんだ。もし君にその気があるなら、行ってみるかい?」