プレゼント
年が明けて、ウィルが卒業するまで、残り2ヶ月ちょっとになった。
卒業に向けての試験も先週終わった。ウィルの成績は、いつも真ん中程度。今回のテストも、感触では、追試に引っかかりそうな教科はないだろう。
そこで、この週末、アメリアはウィルを買い物に連れ出した。
「メル、どこか行きたいところはありますか?」
大通りに着くと、ウィルがアメリアに聞いてきた。
(結局、アメリアはウィルから『メル』と呼ばれることになった。『可愛い子猫ちゃん』は、ウィルの激しい抵抗によって諦めるしかなかった。最初は残念に思っていたが、『メル』と呼ぶのはウィルだけなので、今では、その特別感が嬉しく思える。)
「あのね、ウィル。何か欲しいものはない? 卒業のお祝いに何か渡したいの。」
アメリアは去年、ウィルから卒業祝いに小さな石のついたペンダントをもらった。誕生日などで、ウィルからプレゼントをもらったことは何度もあったが、宝石がついた物は初めてだった。
婚約についての話をしていた時期でもあり、今までの幼なじみの関係から恋人としての関係に一歩進んだような気がして、とても嬉しかった。
今でもあのペンダントを見ると、あの時の、くすぐったい様な気恥ずかしい様な気持ちが思い出される。アメリアは、ウィルにも、そんな素敵な物を贈りたいのだ。
「そう言われましても。。。」
ウィルは、本当に欲しいものが思いつかない様で、首を傾げて真剣に考えている。
そんな困っているウィルの向こうに、雑貨店が見えた。その店は、なかなか洒落た品揃えで有名な店だ。他では見られない、他国から取り寄せた物なども扱っているので、アメリアもたまに買いに来る。
「とりあえず、あの店に入ってみる? 何か見つかるかもしれないわ。」
そう言って、アメリアはウィルを引っ張っていった。
店内を2人でぶらぶらしていると、ふと、アメリアの目に留まったものがあった。懐中時計だ。蓋にも文字盤にも、何も装飾がほどこされていない。でも、なぜだか目が惹きつけられる。
アメリアが見つめていると、ウィルも懐中時計に気がついた。ウィルもじっと見つめ、そして、綺麗ですね、と呟いた。
店員が2人に近づき、声をかけた。
「お客様、お目が高いですね。こちらは、ある時計職人が究極の美しさを求めて作った物です。針や文字盤などとの、色や大きさのバランスを突き詰めて、宝石や彫り物などの装飾には頼らない、シンプルゆえに美しい物になっています。」
時計から目を離さないウィルの横顔を見て、アメリアは、これだわ、と嬉しくなった。