婚約成立
アメリアは学園を卒業するとすぐに、ウィルと婚約を結ぶことにした。
そして今日は、アメリアの誕生日のパーティー兼、婚約披露のパーティーの日だ。
アメリアは、ウィルのエスコートでパーティー会場へ入場し、ファーストダンスもウィルと踊った。その間ずっと、そしてその後の参加者から挨拶を受ける間もずっと、幸せそうな笑みをうかべたままだ。
「アメリア、婚約おめでとう。」
「いつも『ウィルが好き』って言っていたものね。望みが叶って良かったわね!」
学園で仲の良かった友達が声をかけてきた。
「2人とも、ありがとう!」
アメリアは2人の肩に腕をまわし、抱きつきながら答えた。
「私、すごく幸せなの!」瞳にはうっすら涙まで浮かべている。
アメリアの異常に高いテンションに、2人は慣れっこのようだ。
「婚約でこれなら、結婚したらどうなっちゃうのかしら?」
「興奮のあまり倒れちゃって、結婚式を挙げられないかもよ?」
二人はクスクスと笑いながら、アメリアを揶揄う。
「なんだかヒドイ事を言われている気もするけど、今日はとっても嬉しいから気にならないわ! ああ、この幸せを皆んなにも分けてあげたい!!」
そう言って、また抱きつこうとするアメリアから、2人はスルリと体をかわす。やはり、アメリアの行動に慣れているらしい。
「それにしても、あなたとウィルが婚約するって言うから、もう少しイヤな感じも混ざるのかと思っていたけど、みんないい表情をしているのね。」
友達の一人が、会場をぐるりと見渡してから言う。
「えっ?どういうこと?」アメリアがキョトンとした顔で聞く。
「だって、貴族と平民って事でしょ? あまり聞かない組み合わせじゃない? 反対とかあるのかと思ったのよ。」
「なるほどね。」もう一人の友達が、同意する。
「代々続く伯爵家の令嬢が、一代限りの騎士爵の息子と婚約するなんて、本当に珍しいものね。まぁ、でも、アメリアならアリなんじゃないの?」
「私ならって、なんで?」やっぱり意味がわからないアメリアは、キョトンとした顔のままで聞く。
「だって、アメリアがウィルを好きなことは学園の皆が知っていたし、ブランドン伯爵が末っ子のアメリアを溺愛しているのは社交界ではよく知られていたじゃない。口を挟める雰囲気じゃないわよね〜。」
「それにアメリアって、貴族令嬢として規格外って感じだし。結婚して貴族夫人の役割を果たせるかって考えたら、、、政略結婚は無理だってなるわよ。」
「も〜!2人とも、それが友達に言うセリフなの?」
そう言ってアメリアは頬を膨らませたが、目は笑ったままだ。
3人は目を見合わせ、ほとんど同時にクスクスと笑い出した。
ウィルは会場の向かいで、友達と笑い合うアメリアを見ていた。
先ほどまでブランドン伯に連れられて、挨拶回りをしていたのだ。普段はほとんど接することのない高位貴族の人たちに会い、精神的にとても疲れた。
できれば今すぐに自室に帰り、ベッドへ倒れ込みたい気持ちだった。
しかし、アメリアの幸せいっぱいの笑顔を見て、少し疲れが取れた。
その笑顔は、自分との婚約が作り出しているということを思うと、自分の心にも、じんわりと幸せな気持ちが流れてくる気がした。