伯爵令嬢アメリア
アメリアは、前作「王子様との婚約って大変!」に出てくるステファニーの子孫にあたります。(正確にはステファニーの兄の子孫ですが)
前作から約200年後の世界になりますが、繋がりはありません。
ここは王都にあるブランドン伯爵邸の応接室。
上座に、主人である伯爵と伯爵夫人が隣り合って座っている。
下座である向かいには、伯爵の三女アメリアと幼馴染であるウィル。
伯爵夫人はにこにこと穏やかに微笑み、アメリアは満面の笑みだ。
一方で男性陣は硬い表情をしている。伯爵の目つきは鋭く正面を見据えているし、ウィルは無表情で顔面蒼白といった感じだ。
「それで、今日は何の用なんだい?」伯爵がぶっきらぼうに尋ねた。
「だからね、昨日も言ったけど、ウィルと結婚したいの!」伯爵の冷たい視線を全く気にせずに、アメリアが弾んだ声で答えた。
「昨日も言ったが、お前はまだ学園に通っているし、ウィルはさらに一つ下じゃないか。」伯爵の視線は冷たさを増した。
「でも私は、来月に卒業よ。」アメリアは伯爵の氷点下の視線をものともせず答える。「ウィルだって2ヶ月後に誕生日が来て、18歳よ。結婚できる歳になるわ。」
アメリアは、隣に座るウィルを見てニッコリと笑った。
その笑顔を見て、伯爵の冷たさがさらに増した。吹雪並みだ。
「おっ、お待ちください! アメリア様、いつの間に結婚の話になったのです?」父娘2人の会話に、焦った様子でウィルが口を挟んだ。「婚約者候補として考えて欲しいと、お願いするはずでは?」
先週、ウィルはアメリアと打ち合わせをした。アメリアが学園を卒業すれば、社交界にデビューもするし、婚約の申し込みがあるかもしれない。自分たち2人は互いに想い合っているが、婚約は家の事情も関わってくる。だからせめて、アメリアにはウィルという相手がいる事を示すために、婚約者候補にして欲しいと、今日はその話をするはずだった。それなのに、結婚???
アメリアが卒業しても、自分が騎士科を修めるのは、1年後だ。その上、日々の糧を得られるようになるのは、数年先だろう。結婚はそれまで待って欲しい、と自分はアメリアに言ったはず。アメリアだって、待ってくれると頷いたではないか。
ウィルの心の内を知らないアメリアは、困惑顔のウィルに向かって、コテンと首を傾げて見せた。
「だってあなたが卒業しても、最初の1年は騎士見習いでしょ? お給料だってほんの少しよ。あなたが騎士になって、それなりに稼げるようになるのを待っていたら、あと5年はかかるわ。だったら先に結婚しちゃえばいいって、昨日の朝に閃いたの。」アメリアの瞳は、名案でしょ!と得意げに笑っている。
お読みいただき、ありがとうございます。
投稿は週に3回程度を予定しています。