トラックで転生
ある日、学校に登校しようとした俺はトラックに轢かれ、死んでしまった。
そして目覚めるとそこには巨大な人間がいたのだ。
「……誰ですか?」
「…………」
どうやらでかすぎて耳が遠いのか、声が届いていないらしい。もう一度俺は声をあげる。
「誰ですか~!!」
「神です」
普通に返ってきた。巨人だからメガホンを通したようなバカでかい声かと思ったら普通の声だった。
「神ですか!!私は!!何で!!ここにいるんでしょうか!!」
「貴方の魂を異世界に送り出すためです、異世界では法則に縛られないイレギュラーな存在が必要なのです」
法則に縛られないイレギュラーな存在?俺はここにイレギュラーな存在っていうことで呼ばれたってことか?そういえばトラックにぶち当たったような記憶もある、俺は死んで魂だけの存在になってここに来たのかもしれないな。
「それで!私はどうすればいいのですか!」
「簡単です、強力な能力を授けるのでその異世界に棲む魔王を倒してくれればいいのです」
「成程!分かりま……魔王を倒すんですか!?」
「そうです、強力な能力があれば簡単です」
いくら強力な能力っていっても神が対処するレベルの魔王という存在を相手できるものか?中々の無茶ぶりというかなんというか、ただどう考えてもやるしかないという雰囲気がある。それに断ったりしたら押しつぶされそうだし。
「強力な能力とは!具体的に何なのですか!」
「それは……まあついてからのお楽しみということで」
ええ……いきなり呼ばれてしかも仕事内容が秘匿されている?
「いや!さすがに教えてほしいのですが!」
「ってお~い!聞いてる!いや聞いていますか~!」
ダメだ、完全に沈黙している。やはり神とかいう強大な存在は人間とは考え方が違うらしい。
「では異世界に送ります、それでは良き異世界ライフを」
「え、ちょっと待って……うわあああああああ!!」
足元に巨大な魔方陣が出現し、吸い込まれる。これから異世界につれていかれるのだ、最悪だ、といってもまあ流石に神が強力な能力を授けてくれるのだ。その点では安心だろう、安心だよね?そうだよね。
そう考えていると前方から生暖かいような不穏な風が吹いてくる、どうやら終点が近いらしい。
まともな場所だといいな、と考えていると急に地面が現れそこに叩きつけられる。
「へぶっ!」
ただ落下の衝撃は軽減されているようで何百メートルも落ち続けたような感覚とは裏腹に、そこまでの衝撃は無いようだ。しかしここはどこだ……何か体中ぬめぬめするし。
見渡すとそこは墓場だった。ぬかるんだ土地はしかし栄養を全く含んでいないようで雑草さえも生えておらず、枯れ木が幾つか侘し気に立っているのみ。墓はそこら辺の石や木を二本組み合わせた十字架で作られた粗末なもので、まともにこの墓地が運営されているかも怪しい。
しかし俺の目下の懸念点はそれどころではない、あ~あ泥まみれになっちまった。服とかどうしてくれんだよ、どう考えてもこの一着しかないし、この世界で使えるお金も持ってないんだぞ。墓場の異様な空気よりどっちかというと服の方が気になる、だって泥まみれって本当に気持ち悪いんだぜ、小学生の頃泥遊びした以来だよ。
くんくん、やっぱ臭いわ。ヘドロみたいな匂いがする。興味本位で嗅ぐべきじゃなかった、やべえ歩くたびにぼとぼと落ちるぞ、泥が。
墓の怖さはそれほどでもない、何故ならこの墓場はボロボロだが空には朝日がてんてんと光り輝いているからだ。お日様万歳!まあ夜になった時のことは考えないようにしよう、俺は大の怖がりなんだ。
しかしここは意外と暖かいな、寒冷な地方で無かっただけ良しとしよう。何故なら寒冷な地方は採れる作物が少ないからだ、温暖で湿気の多い地方はその分獲物も多い、日本なんかがそうだな。
まあここで考えていても仕方がない、次に進もう。まず現状確認とりあえずはあの巨神、顔が中性的で男か女か分からなかったあの巨神から貰った強力な能力とやらを見てみようか。
しかしどうやって見るのか……それが分からない。だって強力な能力っていうことしか聞いてないもんな~多分戦闘系の能力であることは確実だが。魔王を「倒せ」って言ってるんだもん。戦闘系の能力じゃなきゃ出来ないことだ。う~ん、かくなる上は。
「ステータスオープン!」
……やっぱ無理だわ、ステータスオープンとかは出来ないらしい。どうしろっていうんだよ、巨神全くの指針無しに魔王討伐に行くの無茶だって。墓場から抜け出すっていうことくらしかやる事ないし、それをやったところで外がどうなっているのかなあ、わかんないからなあ。
まあまず外に出てみましょう、まずはそれからですよ。生臭さが濃くなってきたしね、いや生臭さ濃くなってきた?それってどういう事?もしかして……後ろから聞こえる足音は。
「ア……グアア……グアアアアア!!」
「マジで!?ゾンビ!?」
後ろを振り返るとそこには腐乱死体が立っている、目は血走り、肉は腐り落ち全身から腐敗臭が漂う。吐き気を催すもゾンビは見た目に似合わぬ俊敏な動きでこちらを追ってくる。
「いやマジで!?こんないきなり戦闘っすか!?頭おかしいでしょ、本当に!」
泣き言を言っても始まらない、全力で逃げる。ゾンビが追いかけてくる。幸いにも相手は腐乱死体である、全力の人間の体とは勝負にならない、ただあちらと違ってこちらは生身である。最初こそ足の痛みも気にせずに走り続けることができたが、段々とスタミナが切れてくる。そりゃそうだ、だってこっちは根暗学生だぞ、運動なんて体育の授業くらいだ。
あ~やべえ、近くまで来てる。死にたくねえ、おしまいだぞ。あ、後ろから来ている。死んだわ、俺。ゾンビは近づくとこちらをじっと見つめる。
「ア……ア……ニン……ゲン……」
(あれ?襲ってこない?良いゾンビなのか?)
「ヤット……ガ……アアア……」
そしてそのゾンビは倒れ伏す、その体はさっきよりも黒く腐敗臭が増している。
「大丈夫ですか……ってうわああああ!」
駆け寄ろうとするとゾンビの体が光り輝き、蛍のような小さな光の粒となってこちらに飛んでくる。あまりのことに咄嗟に動けなくなるも、光の粒は俺の中に吸収されるように入って良きそして謎の声が響く。
【経験値取得を確認、レベル■→レベル1にレベルアップしました】
【ステータス開示能力を付与、世界機構に組み込みます】
いやどういうことだ、頭の中に声が響いて。というかステータス開示能力……?それにゾンビを倒したら……いやあれは本当にゾンビ、知能が無い動く死体だったのか?ニンゲンとか喋っていた気もするし。
何やら最初の予想よりもきな臭い展開が俺には待っていそうだな。