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8話 お店を開くことになりそうです



 広場の一角で堂々と着替えていると、後ろから声をかけられてしまった。ちょうど装備し終えたタイミングだったので、ぎりぎり見られてはいないはず。たぶん。


 わたしは恐る恐る背後を振り返り、話しかけてきた2人組を視界に収めた。


「アンタ、もしかしてスミスをやってるの?」


「ほぇ……」


 こちらがモノを言う前に言葉を畳みかけてきたのは、赤いツインテールを腰まで伸ばした燃える瞳の超絶的美少女だった。ゲームであるためにいくらでも設定できるとはいえ、そのスタイルのバランスや表情には不自然さが全くといって存在していない。


 わたしがその超常なる赤い剣士を前に呆気に取られていると、言葉の意味が理解できなかったと判断したのか、見かねたように2人目の女の子が補足をしてきた。


「スミスというのは鍛冶を専門に行うプレイヤーのことです。戦闘職ではなかなか上げられない生産スキルを用いて、様々な人と交流を持つ存在のことですよ」


「ほぁ……」


 こっちの蒼い瞳の魔導士も嘘みたいな美少女だ。水色のポニーテールを靡かせながら、その圧倒的な胸元をスタッフで隠している。


「あの~、聞こえてますか? ……ラグでも起きたのかな?」


「どうだか。せっかく見つけたと思ったのに、やっぱりまだスミスはいないのかもね」


 おっといけない、気を失っていたようだ。わたしと同じ年くらいなのに、あまりに容姿の差があって衝撃を受けていたらしい。

 話を元に戻そう。この赤と青の2人は生産スキルを持っているプレイヤーを探しているんだよね。


「生産スキルなら、さっき手に入れたばかりだよ? ここで装備を造ってたんだ」


「てことはスキルレベルは1か……、アタシ達と変わらないわね。せめてアダマンタイトさえ持ってればな」


「アダマンタイトなら5個持ってるよ」


「は!?」


「えっ、どうして!?」


 美少女2人が揃って目を見開くので、実際にアイテムボックスから取り出してみるとさらに驚かれた。


「ほんとにアダマンタイトが5個もある!」


「現状では亀の池のボスであるアダマンタートルを討伐するしかないのですよ!? ランカーでも今日やっと倒せたというのに、まさか、際奥での超レア採掘を5回成功させたとでも……」


「うん。採掘してたらけっこう取れたよ」


「どうしてですか! わたしなんて100箇所採掘しても全く出なかったのに……!」


「適当にピッケルを振るからだよ。ちゃんと見分ければ5回で取れるから」


「ご、5回で……。どうすれば見分けられるのですか……!」


「う~ん。目が合う、みたいな?」


 初めての採取でわかったことだけど、目が合うような感覚を覚えたモノはレア素材であることがほとんどなのである。四つ葉のクローバーがそうであるように、レア素材にも言葉にはできない見つけるコツがあるのかもしれない。


「ぜんぜんわかりません……」


 だよねー。わたしもわかんないもん。だから、地面に膝を突くほど落ち込むことなんてないんだよ?





「どうしようか。アダマンタイトを持ってる人なんて、この娘くらいだと思うけど」


「そうですね。早くランカーに追いつかないといけませんし、ここで決めちゃいましょうか」


 落ち込みから復帰するや相談を始めていた美少女2人は、揃ってわたしへと視線を注ぐ。


「改めて、わたしは魔導士のフィリオ。こちらは剣士のルピナスです」


「ランカーに追いつくために装備を強化してくれるスミスを探してたんだけど、アンタ、引き受けてくれない?」


 青い魔導士のフィリオと赤い剣士のルピナスに、装備の強化を依頼されてしまった。攻略最前線であるランカーに追いつきたかったところに、アダマンタイトを持ってるわたしに出会ったこの機会を逃したくないらしい。


 さてどうしたものか。別にわたしはスミスでもなんでもなく、ただ広場の真ん中で初めての生産をしていた素人なのだけど。


 そんなわたしが、上を目指して努力しているプレイヤーの装備を任されてよいものだろうか。


「失敗するかもしれないよ、それでもいいの?」


「そのときは、アタシの勝負運が無かったと諦めるわ。失敗を人のせいになんてしない」


 ルピナスの声には引き込まれるような魅力があり、力強く言い切った瞳はとても輝いていた。


 なにがあっても挫けない。そんな意志を感じてしまう。


「わかった、引き受けるよ」


「いいの……? ありがとう!」


 わたしの返答にホッとしたのかルピナスの赤い瞳が初めて和らいだ。笑うとすごくカワイイのに、人前では普段から気を張っているようで勿体ない。


「ほんとにありがとう。えっと……」


「わたしの名前はナツハだよー。よろしくねー」


「ナツハね、よろしく。さっそく依頼料を決めちゃいましょうか」


「依頼料なんていらないよ。ちゃんとしたスミスでもないんだし」


「なにを言ってるの! スミスとして生業を立てるつもりがなくても、引き受けた仕事には対価を求めなきゃダメ! そんなんじゃ他のスミスの立場が無いし、あとでトラブルになったりするんだから」


「ぁぅ、ごめんなさい……」


 わたしが無料で生産してくれると知ったら、他のスミスに依頼するプレイヤーが減ってしまうだろう。そうしたら生業としてスミスをがんばってる人には迷惑でしかない。


 このときは親切のつもりでも、知らないところで誰かの迷惑になるのなら、それはいけないと思う。


「わかった。依頼料は貰うことにする」


「素直でよろしい」


 誰かさんとは違ってね。とフィリオが微笑む。


「アダマンタイトがあるなら、スチールブレイドが+4に、もしくはアダマンブレイドを造れるはずだから……」


「今の相場なら10000Gあたりですね。素材としてアダマンタイトを貰う分を加えると、およそ30000Gでしょうか」


「3万ゴールド!? そんなに貰ってもいいの?」


「アダマンタイトが今は希少ですからね。ナツハちゃんが不満なら上乗せ交渉にも応じますけど」


 わお、所持金が1000Gからとんでもないことに。もしかしてスミスって儲かるのかな。値段交渉とかもプレイヤーと交流できるし面白そうだよね。


「ナツハ、もしかしてスミスの魅力に気づいた……?」


「えへへ、引き受けたからには真剣にやるよ。素材も奮発しちゃうぞー」


「「だから、無償で奮発しちゃダメ!」」


 ぁぅ、ごめんなさい……。



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