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7話 装備を造ろう



 キュリオスの住人になって2日目の午後。


 本日100往復目の採取を終えて街へ帰ってきたわたしは、広場のベンチに腰掛けて、街でしか開けない倉庫欄に手持ちのアイテムを移し替えていた。


「鑑定してー、倉庫にポイッ。鑑定してー、倉庫にポイッ」


 学校が休みであるのをいいことに朝から採取へと出かけて、手持ちのアイテムボックスが上限になる度にこの作業を繰り返している。採取するエリアを変えてみるだけで新しいモノを発見できるため、コレクターブックもかなり埋まってきたよ。


 βではエリアが制限されている分アイテムの種類も少ないのか所有率がどんどん増えていく。序盤は雑草や枝、砂を採取するだけでもカウントされていくから尚更だろう。


「そろそろ所有率50パーセントにはなると思うな」


 異世界の未知なアイテムを集めるのはとても楽しい。特にボムヤシを考えた運営さんは賞賛してあげるべきだと思う。頭に降ってきたヤシの実が爆発するとか面白すぎだよ。


「ボックスの整理も終わったし、コレクターブックを確認してみよう」


 きっとがんばって虫を採取した成果が出ているに違いない。ボムヤシで駆逐してから蜂の巣だって採取したのだから。


 自信と期待を持ってコレクターブックを開いてみる。


「やったー! 所有率51パーセントになってる!」


『【アイテムコレクター】スキルを獲得しました』


「……ん?」


 異世界の半分を知ったような感慨に浸っている間もなく、お知らせが視界の隅に現れて新しいスキルを獲得したことを告げてきた。

 変なタイミングでの表示に困惑しながらも、詳細を読むためにお知らせをタップ。


―――――


【アイテムコレクター】


■能力

アイテムボックス上限+10

罠系アイテム所持・設置数+10


■獲得条件

コレクターブックの50パーセントを埋める。


■次のレベルまで

コレクターブックを60パーセント埋める。


―――――


 わたしはこのスキルによって、アイテムを60種類まで持ち運べるようになり、罠系アイテムを同時に20個まで所持・設置できるようになった。スキルレベルを上げるとさらに数が増えていくらしい。


 なるほど、かなり採取向きのスキルだ。これで街に戻る回数も減ってくるだろう。罠系アイテムは所持数が他のアイテムより少なめに設定されているけど、これで上限が上がっていくのであれば、なにやらよからぬこともできそうだよね。


「持ち運べる種類が増えた分、遠くに行って採取するべきかな。となるとモンスターとの戦いも避けられないだろうし、ついに装備を整えるときが来たんだねぇ」


 何度も街を出て採取へと出かけているにも関わらず、わたしの装備は未だに初期のままだった。経験値を溜めるよりも採取に夢中になっていたからである。


 それに1度河辺のスライムと素手で戦ってみた際、ボコボコにされた挙げ句に這々の体で帰ってきた事情があるため、あんな恐ろしい怪物と戦わないようにモンスターを避けていたのも理由としては大きかった。


 相手の動きを読んだり間合いを調整したりなどという高等テクニックが、どんくさいことに定評があるわたしにできるはずもなかったのである。


「けど、装備さえ整えればステータスも上がるし、今度は華麗に勝ってみせるよ!」


 人の行き交う広場の真ん中で雄叫びを上げたわたしは、装備を手に入れるためにある場所へと歩き始めた。





「こんにちはー。やってるー?」


「いらっしゃい。お客さんならいつでも大歓迎さ」


 ここは街にあるNPC道具屋の1軒である。開いた扉の音に気づいて奥から現れたおばあちゃんは、とろけるような笑顔でわたしを出迎えてくれた。


「初めての娘だね。なにが欲しいのか言ってごらん」


「ほんとは装備が欲しいんだけど、鍛冶屋に行ってもお金が足りなかったんだ」


 武器や防具などの装備を手に入れるために鍛冶屋に行ったのだが、商品に一通り目を通しただけでなにもせずに引き返してきた。

 NPCが売っている安物の装備とはいえ、ゲーム開始時に支給された3000ゴールドだけでは、全身を揃えようにも全く足りなかったのである。


「ということで自分で造ろうと思ってね。道具屋なら携帯鍛冶セットを貸し出してくれるっていうから、それを貰いに来たの」


「簡単な鍛冶セットならあるけど、装備を造るには素材も必要だよ?」


「だいじょうぶ、素材だけならたくさんあるから」


 コレクターブック51パーセントは伊達じゃない。採取したモノも一切売ることなく倉庫に保管しているのだ。


「鍛冶セットの貸し出しは2000Gだよ。オマケでレシピもあげるから、それを使ってたくさん造っておいで」


「ありがとー。さっそく装備を造ってくるねー」


 さて、そう言って道具屋を出てきたものの、どこで装備を造ればいいのだろうか。……広場でいいや。





 鍛冶セットには『鍛冶釜・小槌・テーブル・風呂敷』が纏められていたので、それらを広場の一角に広げてみた。かなり場所を取っているので、広場を選んで正解だったように思う。


「ヘルプで説明を読む。ふむふむ、なるほど……」


 装備を造る工程としては、素材を釜に入れて、できあがったインゴットをテーブルで叩きまくればいいらしい。レシピに関しては簡単なモノしか存在していないので、上を目指すとなると自分で試行錯誤してみるか、ネットの掲示板で情報収集をするしかないようだ。


「レシピ貰っててよかった。初手で詰んじゃうとこだったよ」


 道具屋のおばあちゃんから貰ったレシピから、装備のカタログページを開いて目を通していく。戦闘系のイカツイ装備から、日常のオシャレなデザインまで様々で、どれにしようか迷ってしまうよ。


「わぁ~、これカワイイね。決めた」


 デザインの基本が決まったので、レシピに書かれている素材を鍛冶釜に投入し、最後に緑の色素材となる植物を加える。自動的に溶けてインゴットになったあとはそれをテーブルに出して、ひたすらに小槌で叩きまくるのだ。


「とん、ととん、ととん。ととんのとんとん、とととんとん。とととととんとん、とととんとん……」


 できた。


「じゃじゃーん。カエルさん雨具!」


 読んでそのまま、カエルのフードが付いた緑の雨具。前がボタンになってるから着脱も簡単で、左右にポケットがあるのも嬉しいところ。なんといってもぽけーっとしたカエルの顔がチャーミングで一目惚れなのだ。


 さっそく装備してみるとサイズも丁度よくて動きやすいし、なによりカワイイから造ってよかったよ。


「まんぞくまんぞく」


 続いて雨具に似合うようなズボンと手袋と長靴を造れば、わたしも装備が揃った立派なプレイヤーに見えるだろう。



 そうして夢中で生産していたわたしは気づかなかった。


 背後から忍び寄る、2人のプレイヤーの影に……。



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