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5話 モンスター現る



 ピッケルを打ちつける甲高い音が絶え間なく森に響いている。


「どれくらい打てば採取できるのかな。けっこう疲れてきたよ」


 ゲームでも疲れを感じるだなんて、運営はとんでもないシステムを組み込んでくれたものだ。

 疲れに関してはスキルが上がったりすればマシになっていくのだろうけど、ピッケルが鉱石の根元を外してしまうのは自分の感覚を磨いていくしかない。


 と、そのとき、ようやく鉱石が岩場から剥がされた。


「お……、採れた……」


 重厚感のある音を出して地面を転がる灰色の鉱石。トウモロコシくらいのサイズであるそれは重く、とてもではないがわたしに抱えられるモノではなかった。


 地面に出したアイテムボックスへ転がしながら入れて、大仕事を終えたと一息つく。


「ちょっと休憩。……ふうっ」


 先が欠けてしまったピッケルを消去してから手頃な岩に腰を下ろした。これで2個目のピッケルが光になって消えたわけだけど、残りの3個で新たな鉱石を採取するかは悩むところ。


「お弁当とか買ってくればよかったなぁ。周りにはだれもいないし、淋しい……、よ?」


「……グァ?」


 1人じゃなかったみたい。

 木陰が揺れたのでそちらに視線を向けてみると、『岩』がわたしに向かって歩いてきていた。


「岩? 鉱石かな? たぶんモンスター、だよね。……討伐してやろう」


「グェ……っ!?」


 アイテムボックスから取り出した新たなピッケルを構えると、あからさまに驚いた様子を示す岩(モンスター)。

 女の子だからピッケルは持ってないだろうって? モンスターのクセに甘すぎるよー。ぐははははー。


「グアァ……!」


「どこから鳴き声が……、って、もしかして、カメ?」


 わたしの腰の高さまである岩の下には、少しだけ手足や頭のように見える部分があり、カメと思えばカメにも見えるモンスター。

 観察を続けてもよくわからないからと目を窄めたとき、モンスターの上にデジタルな表が出現する。


―――――


■名称:ロックタートル Lv5


■種類:陸地小型モンスター


■詳細:???


―――――


「うん、モンスターを見ればわかるよ」


 全く役に立たない表だった。

 詳細の欄はおそらく初討伐を終えれば表記される仕組みなのだろう。


「さすがに弱点とかは初見で教えてくれないよね……」


 どんな相手でも簡単に弱点や攻略法を教えられては面白くない。自分たちで試行錯誤して1つずつ研究していくのもゲームの楽しみ方であるはずだ。


 それならばわたしも試行錯誤してみよう。

 弱点にも見える手足だけど甲には同じく岩が同化しているから、ピンポイントで突かないと攻撃は効きそうにないし、そもそも岩の甲羅が邪魔をしてなかなか突けそうにない。


 ならば。


「分厚い甲羅が無くなるまでピッケルしてあげるねー」


「グェグェグェ……!?」


 そうと決まれば実行だ。幸いにもわたしはピッケルを3個も携帯している。


「わたしのピッケルが尽きるか、君の甲羅が無くなるか、どっちが早いかの勝負だよ」


「…………グェ」


「あ、逃げた。……待て待てー」


 岩を背負っているだけあって、カメの走りは通常よりも遥かに遅い。少しずつ森の茂みを進んでいくカメを追いながら、わたしも歩いてピッケルを打っていく。


「的が大きいからよそ見してても当てられるよ」


「グッ……、グエェ……」


「もうスタミナ切れ? ちゃんと走ろうねー。トン! カン!」


 なんか採掘できた。拾うから待って。





「グァァ…………」


「……ふう、採掘終了。甲羅が無くなるとモンスターも消えるのか」


 ガラスの破片が散るようにポリゴンとなって消滅したカメ。体力とスタミナの消耗が酷かったのか、どこか解放された声が夕暮れ時の森を駆け抜けていった。


『レベルが上がりました。【採取】スキルが上がりました』


「わお。なんか強くなったみたい」


 やったよ! 初めてのレベルアップだ!

 ピッケルを放り出して早速ステータス画面を開いてみる。


「レベルが3になってる。それとステータスポイント? が20貯まったねー」


 アルファベットと数字に加えて、プラスとかマイナスの羅列。これがステータスを表しているらしいけど全く理解できない。

 ポイントはあとで振り分けてもいいそうだが、忘れてしまうのが目に見えているので、この場で全部決めてしまおう。


「がんばるぞぉ」


 同じ説明を何度も繰り返し読みながら、わたしなりのプレイスタイルを、よーく、ふかーく、考えてみる。


 STR……、MND……


 よーく、よーく。ふかーく、ふかーく。


 Zzz……、Zzz……





 寝てないよ。目を閉じて考えてたの。


 瞑想しながら一生懸命に『さいつよ』なスタイルを想像していたわたしは、1つの答えに辿り着くことに成功した。


 『攻撃力も防御力も、どっちも装備で上がるよね』と。


 完璧だ。反論の余地がない。すごいぞわたし。


「装備でステータスが上がるのに、わざわざポイントを使うなんて勿体ないよー。だから、ここと、ここだけでいいよねー」


 よし、なんとか数値を割り振って設定を終えることができたぞ。


 それがこちら


―――――


■名称:ナツハ Lv3


■ステータス


 HP 250

 MP 50


 STR 5(+3)

 VIT 5

 INT 5

 MND 5

 AGI 5


 DEX 15

 LUK 15

 CHA 5


■スキル


 AS 無し

 PS 【採取:Lv2】


―――――


 どやぁ。DEXとLUKにだけ振ってみたよー。


 装備でも上昇する7つは無視。テイムや【音楽】スキルに関わるCHA(カリスマ)もいらない。

 となると、あとは加工の成功率が上がるDEX(器用さ)と、モンスターや宝箱からのレアドロップが増えるLUK(運)の2つになる。


 加工とかは面白そうだし、レアドロップも重要なはずだ(たぶん)。


「こんな感じでいいよね。決定ボタン、ポチッとな」





 さて、もう夕食の時間だろうしログアウトしようかな。

 それにしてもピッケルでかなりの音が鳴ってたのに、他のモンスターが寄ってこなくてよかったね。


「…………? なんか、ノイズが酷く……、視界も……、ありゃりゃ?」



 あとで聞いた話では、これは強制ログアウトと呼ばれる現象で、リアルの方で接続が切れるなどの問題が要因で起きるそうだ。



 ……自室の床で目が覚めたわたしは、鬼の形相をしたママからいつしかの書き置きを突きつけられる。


 『旅に出ます、探さないでね』


 ママ、ほんとにゴメンナサイ。



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