48話 また会おうね
「勝った……、のか……」
デーモンが去り、天蓋から光が降り注ぐ。見上げればガラス張りとわかる天蓋からは青空が広がる様が映し出され、吸血鬼城を包み込んでいた闇が晴れていく。わたし達のいるボス部屋にも暖かい光が満たされていくことで、ついに、βボスを討伐したのだと皆が安堵した。
湧き上がる感情、迸る衝動。βクリアのアナウンスを上書きするように、勝鬨の声が世界に響き渡る。
「やったわね、ナツハ!」
「ルピナス!」
「ナツハちゃん、βクリアです!」
「フィリオ!」
鳴り止まない声のなか、わたしの下に友達の2人が駆けつけてくれた。その満面の笑顔を見て、わたしの中で何かが溢れ出してしまう。
「ちょ、ちょっと、どうして泣いてるのよ!?」
「ナツハちゃん……」
思えば、キュリオスの世界にやってきたのはほんの偶然の出会いからだった。それが新しい世界に一目で惹かれ、いろんな出会いをして、心躍る冒険までするなんて……
「これもぜんぶ……、みんながいてくれたからだね……。わたし、こんな風になにかをやり遂げたことなんて無かったから……、すごくうれしくて……。みんなに出会えたことが……、うれしくて……」
こんなに光輝く日々を送れたのは、ぜんぶみんなのおかげなんだよ。
「だから……、ありがとね……」
2人がわたしを抱きしめてくれる。そういえば、リアルでもこうしたことがあったよね。ほんとにうれしい。いまはただ、それしか言えないよ……
そうして抱きしめあうわたし達を、遠くで見つめる1人の女の子がいた。彼女の表情は達成感に満ちたようであり、好奇心に駆られるようであり……、どこか決意と覚悟を決めたような……
闇が晴れてすっかり元の衣装に戻ったキュリちゃんは、いままでの出会いで得た気持ちを振り返る。
一緒にいたいと思ってもそこには越えられない壁があり、それを無理やり乗り越えても、明日にはまた遠くにいってしまう。なのに自分から会いにいくこともできなくて、ずっと、寂しい思いをしていた……
「でも、わたしは1人じゃない。……そうですよね」
キュリちゃんの胸元を彩る3つのキーホルダー。これが、わたし達を再び出会わせてくれる。
『だいじょ~ぶ! だよー』
「ふふ。だいじょ~ぶ! ですよね!」
次は、わたしが歩き出す番です。
ず~っと、ぎゅ~っとしているわたし達3人を待ってくれたのか、他のみんなは少し離れた場所でなにやら盛り上がっている。どうも打ち上げの内容について話し合っているらしく、カエルが中心となってみんなを纏めていた。……ていうか、着ぐるみは脱がないんだね。気に入ったのかな?
「みなさん、よくぞわたしの魔改造悪魔を討伐しました! これでβクリアですね、おめでとうございます!」
お酒の種類について熱弁を振るっていたカエルを制止して、玉座から近づいてきたキュリちゃんが賞賛を贈る。
「……で・す・が、打ち上げの前に決めることがあるのではないですかー?」
しかしボスを討伐したのならまだやることがあるだろうと、みんなに向かってあるモノを掲げてみせた。
「βボスのドロップアイテム『思い出の繋がり』の所有権を決めるのです!」
再び上がる歓喜。それを一身に浴びてドヤ顔のキュリちゃん。
「さて、誰がこの超絶レアアイテムを手にするのですかー?」
そう、このアイテムは1つしか存在しないため、その所有権を決めなければいけないのだ。
ここは恒例のジャンケン大会になると予想を立てるものの、なぜかみんなは一様に、納得しているかのような暖かい目で1人の人物を見つめている。
「やっぱり、ブラームさんがもらうべきだよねー」
みんなをここまで導いてきたのは、他でもないブラームだ。彼がいなければ攻略組は纏まらなかったし、わたしがここに来ることもなかった。
「ブラームさん、もらってくれ」
「あんたのお陰で、楽しませてもらったよ」
「いままでの感謝の気持ちさ」
思いは、みんな同じ。
「おまえら……」
ブラームの下に歩み寄るキュリちゃん。
「まあ、みなさんの総意らしいですからね。どうぞ、ガチ剣さん」
小さな手から大きな手へと渡される、質量を持たない光の結晶。不思議な瞬きを見せるそれからは、言い知れない力が伝わってくる。
確かにこれを手に入れた者には、唯一無二の力が授けられるのだろう。
「……だが、これはオレのモノじゃない」
大きな手から再び小さな手へと帰される光。
「これは、この世界にいるみんなのモノだ!」
ブラームとて、周りのみんながいなければ、彼らに支えられなければ、この場にはいなかった。だからこれは、自分には受け取れない。
「はぁ……。ほんとに仕方ないのですから……」
そう呟いたキュリちゃんは、イタズラっぽい笑みを浮かべていた。
「誰が受け取ってもこうなるとわかっていましたよ。……これは、みんなへのプレゼントです!」
キュリちゃんが空へと投げた光の結晶は、数万の欠片となって世界に散りばめられる。
白昼に降り注ぐ光の雨。その1つが、わたしの手のひらに舞い落ちた。
『【アイテムマスター】スキルを獲得しました』
高校からの帰り道。わたしは、ぽけ~っと国立公園のなかを歩いている。
「そっか……、βテストが終わっちゃったんだね……」
「うん……」
最終日の出来事を友達であるスーミンに話していると、なんだか寂しさが込み上げてくる。
「ここ最近の七葉ちゃんはいつにも増して元気だったから、あたしもちょっと寂しいかな……」
「そっか……、そうだったのかもね……」
登下校のときも昼食のときも、スーミンにはゲームの話ばかりしちゃってたかも。
「……ん? スーミンって『あたし』呼びだったかな?」
「え、も、もとからだった気がする! べつに、イベント動画を見てルピナスさんに憧れたわけじゃないからね!」
「ふふ~ん、そ~なんだ~」
「そ、そ~なんだよ~」
目が泳ぐスーミンって、わかりやすいよねー。
「そういえば掲示板を見たんだけど、どう考えても七葉ちゃんの話としか思えない板があってね。会員制のファンクラブまであるみたいなんだけど、ほんと……、って、いないし」
「四つ葉のクローバー見つけたー。カワイイなー」
近くの草むらに四つ葉があったので思わず走り寄る。毎日見つけてるから別に珍しくもないんだけど……
何気ない出会いの大切さを知った、今日この頃なのですん。
「またいなくなってるし。ゲームの中でもそんなことしてないよね? ……どうしよう、簡単に想像できちゃうわ」
おっと、勝手にいなくなったら心配させちゃうね。わたしはちゃんと学習したんだよー。
スーミンが待ってるから、ここでバイバイだね。
また会おうねー。
【information】
これにて『ほのぼのアイテムマスター』は完結となります。いままで応援してくださった皆さま、大変ありがとうございました。
何気ない小さな出会いから始まった新たな生活。登場人物たちはそこでの更なる出会いによって成長していきました。ナツハは何気ない出会いの1つ1つがオリハルコンなのだと学んだことでしょう。
物語はこれで終わりますが、ナツハ達の冒険はまだまだ終わりそうにありませんね。きっと今もどこかで冒険しているのかな。
最後に皆さまへ、改めて本当にありがとうございました。感想や評価をもらうたびに励みになり、とっても嬉しかったです。
( ̄∇ ̄) ありがとうねー。




