47話 最後のとき
わたしのアイテムが封じられてしまい、絶体絶命のピンチが到来。武器が無い上にアイテムまで効かないのなら、わたしはどうやって戦えばいいのか。相手の容赦ない徹底ぶりに、攻略組にも動揺が走る。
この一瞬ばかりは誰もが狼狽えてしまうなか、ただ1人、『それ』だけは俯くことなく真っ直ぐに前を見ていた。
戦いへの不慣れゆえか、はたまた絶対なる自信ゆえか。
ナツハ隊に配属させられていた『それ』は、力強く歩み出る。
「くくく……、ここは僕の出番のようですね……」
まるで魔王の幹部が満を持して登場するような台詞であるが、いつまで経っても田舎小僧と呼ばれる所以である少年の声で全てが台無しとなっている。それも、身に着けている装備が着ぐるみとなれば尚更だ。
「カエルだ……」
「そういえば連れてきてたんだっけ……」
「ごめん、忘れてた……」
「あんたら散々な言い様してくれますねえ!? せっかく高ぶった気持ちも崩落ですよ!!」
寝ているのか起きているのかわからない瞳で、手足をワタワタさせながら抗議しているカエルの着ぐるみ。かわいい。
「もういい、僕が1人でも戦ってみせようじゃないですか! ……この完成したカエルさん装備でねえ!」
カエルさんが見事なポージングを決める。もう何をしてもカワイイ、何を言ってもカワイイ。ああカワイイ、あはぁカワイイ。
「行きますよ! でやあ!」
クラウチングスタートで巨大なデーモンへ向けて走っていくカエルカワイイ。ピョコピョコと特殊な足音で軽快な走りを見せるカエルカワイイ――
「ナツハ、見とれてる場合じゃないわよ! 指示を出してあげなきゃ、あっという間に潰されちゃうわ!」
「え、それは大変だ!」
わたしが見とれている間に、デーモンが攻撃体勢に入っている。
「カエルさん、思い切り踏み込んで!」
「は!? こ、こうですか――ぎやああぁぁぁ!!!」
足下を爆発させたカエルはその衝撃を推進力に変えて、戦斧はおろかデーモンの膝までひとっ飛び。なんと、器用なことに体に回転まで掛けて体当たりを決めた。
「吹っ飛んだだけなんじゃ……」
気にしないで説明しよう!
カエルさん装備には両手両足にディスクアイテムを仕込んでおり、対象に押しつけるだけで作動できるのである。それは試作型からの改良によってディスクの変換を可能とし、自らのアイテムによるダメージを無効化することに成功していた。
「カエルさん! そのまま膝に攻撃しちゃえ!」
体当たりからデーモンの膝裏にしがみついていたカエルが、その全身に力を込める。
「へへ、皿を割っちまうなんてマスター失格ですかねぇ……。くらえぃ……!!」
大爆発! 4つのボムが同時に爆発し、デーモンの膝裏にそれなりのダメージを与えることができた。しかも体勢を崩したデーモンは、そのまま片膝を地面に突く。
『膝かっくん』だ!!
これもVRMMOならではの挙動ということか。まさかの発見ではあるが、現場には更なる好機が訪れている。
「頭を下げている今がチャンスだ! カエルに続けえぇぇ!!」
デーモンが膝を突いたことにより頭が下がり、最大の弱点である額が隙だらけになっていた。その好機に勢いづく現場であるが、攻略組に希望を齎してくれた英雄はどこに……
「ゲコォ~~~!!!」
自分が起こした爆発の衝撃で、遥か彼方まで飛ばされていた。
「カエルさあぁぁぁん!!!」
くそぅ、よくもカエルさんを……っ! カエルさんの勇気は無駄にしないからね!!
戦斧を振り下ろせば軸足を狙い、それ以外では膝裏をピンポイント狙撃。前衛と後衛の連携、復帰する度に爆風に飛んでいくカエル。そして……
「1割のダメージしか与えられないなら、10個のアイテムを使えばいい。キラリン☆ いけっ、10枚投擲! シュシュシュ……!!」
デーモンは地面から生えた土槍に足の小指をぶつけ、よろけた先の氷床で滑り、尻餅を突けば絶対零度の風が体を鈍らせ、足首に巻きつく電気の網に悶絶し、ようやく起き上がれば膝裏が爆発する。
「ナツハさんのアイテム無双だぁ!」
「相変わらず鬼畜だぜぇ!」
「よ、さすが悪魔!」
「てめぇら、相槌する暇があるなら攻撃しろ!」
わたしのアイテム投擲も合わさった怒涛の攻撃により、デーモンのHPは着実に減少していった。
「そ、そんな……、膝かっくんのような子どものイタズラに、わたしのデーモンが……、負けるというのですか……!?」
ダメージが蓄積されたデーモンは、ついに四肢を地面に伏す。
「ブラームさん、いまだよー」
「ブラーム、アンタが留めを差しなさい!」
「ブラームさん、留めを!」
「「「いけぇ! ブラームさん!!」」」
「うおおあぁぁぁ!!!」
大剣の一閃。みんなの思いが重なる一撃を受けたデーモンは、その巨体をポリゴンに変えて、空へ煌めいていった。
終わった。
βボスを倒した。
これで、VRMMOキュリオス、βテストはクリアされたのだ。




