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45話 βボス降臨





 VRMMOキュリオス





 βテスト









 最終日









 夏休み前の1カ月におよぶβテストは、ついに今日、終わりを迎える。


 そんな特別な日とあって、βテスターであるプレイヤー達は各々に最後のときを楽しんでいた。

 思い出深い街並みを目に焼きつける者。屈辱を覚えた森に己の成長を刻みつける者。この世界で出会った友と一緒に語り合う者。皆がこの日を特別にしようと楽しんでいるのである。


 そして闇深き朽ち果てた森にも、最後のケジメを果たそうとする者たちが。彼らが見据えるのは雷鳴轟く吸血鬼城、そして、己の全てを記すために集った、



 攻略組、総勢29名の姿である。



「……みんな、よく集まってくれた。世間ではβでの思い出を噛み締めるように、最終日のムードが漂ってる。思えばこの集団も始めのころには纏まりが無くて『どこが攻略組だ』、なんて鼻で笑ってたこともあったな……」


 心当たりがあるのか、広場からは笑いが零れる。


「経緯は割愛するが、こんな集団の指揮を執れと頼まれたときは、意味がわからなくて頭の中が真っ白さ。なんとか片手間で相手をしていたが、それが伝わったのか誰も言うことを聞いてくれなくて……、初めの犠牲者が出て……、次々と後を追うように……、ここを離れたヤツもいた……、オレのせいで」


 心当たりがあるのか、広場には沈黙が落ちる。


「覚えてるか? 初めてみんなでダンジョンボスを倒せたとき、オレ1人が号泣したんだ。……それからだ。みんながオレの言うことを聞いてくれるようになったのは。だからオレも、それに応えようと思うことができた」


 …………


「なにもかもが手探りで、みんなに助けてもらってばかり。自分でもとんだ指揮官だと思う」


 …………


「初めて言うかもしれないな。……みんな、こんなオレを支えてくれてありがとう。こんなオレの周りを囲んでくれて、ありがとう」


 …………


「これからオレ達は最後の攻略へ向かうことになる。聳える壁は高く、かつてない困難が待ち受けているだろう。だが、この光の見えない闇の中でも、オレ達は輝く」


 …………


「ときは来た! 我々の真価を世界に記すときが! これまで数多の困難を共に乗り越えし勇者たちの、栄光の一閃である!」


 …………


「いくぞ!!」


「「「おおぉぉぉ!!!」」」





 吸血鬼城、最深部、ボス部屋前。見上げる扉は変わらずわたし達に見えない圧力を与えてくる。しかしわたし達は攻略組、勇者なのだ。ここで怯む者はもはや誰一人として存在しない。


 皆の意志が1つになったとき、ブラームが漆黒の扉へと手を掛けた。



 ――閃光――



 床から膨れ上がった光がわたし達を包み込み、視界を白く染め上げる。これは何度も体験した感覚……、ワープが始まったのだ。


「総員、武器を取れ! 四方警戒態勢だ!」


 やはり扉には仕掛けが施されていた。事前に打ち合わせていた対策を叫ぶ声が響くと共に、体が一時的に世界から切り離されて無重力空間に放り出される。

 白い光に色が差し始め、わたしという存在が新たに形成されていくと、重さが、圧迫感が、粟立つ寒さが、1つずつ心に突き刺された。


 ワープが完了したのだと目蓋を開けるも、そこは尚暗く、遥か高い天井、見渡せど霞んでしまうような広大な部屋。



 ボス部屋だ。



 そう察したわたしは周りの陣形を把握しつつ、外へ向くように武器――は持っていないので、ファイティングポーズを取る。


「第1小隊、揃いました」

「第2小隊、揃いました」

 ・

 ・

 ・

「ナツハ隊、揃ってるわよ」


「了解。各小隊、そのまま警戒態勢を継続せよ。尚、ターゲットを確認した者は――」


 ブラームの声が途切れる。何事かと各小隊長が振り返るも、また一様に声を途切らせてしまう。


 いったい何が起きているのか。指示に背くことにはなるが、この緊迫した空気に堪えかねて、一行はブラームを、硬直する彼の視線の先を目に留めた。



 屈強な四肢、蝙蝠の翼、夜闇の蒼い肌、捻くれた角……。目測約3メートルの玉座に腰掛け、うなだれる巨体の持ち主。あれこそが吸血鬼城の主、βエリアにおけるラスボス。



「あの悪魔がラスボス……、ざっと5メートルはありそうだな……」


「見ろよ、玉座の後ろ。同じくらいの戦斧が壁に掛けられてんぞ……」


「……マジかよ」


 あれほどの存在と戦うなど予想をしていても想像はできなかった。実際に目にしてみればゲームや絵物語で見るのとはわけが違う。


 本能が訴えてくるのだ、


 こんな巨大な悪魔には勝てない、と。


 しかし背後を振り返っても、扉は鎖で固く閉ざされていて、もう後戻りはできないという恐怖を与えてくるばかりだった……。



「すごいねー、ほんとに悪魔がいるよー」


「お、おい……、ナツハちゃん……」


「あんなに強そうなら、相当なレア素材を落としてくれそう!」


「相当な……、レア素材……?」


「……倒したもの勝ち、だよね!」



 99パーセントを記すコレクターブックには、あと1つの空欄が残されている。わたしという人物が素材を見落とすなんてありえないので、最後の素材はラスボスがドロップするモノで間違いない。



 最後の1つ。絶対に手に入れてやるんだから。



「ちょっとナツハ、アタシだって欲しいんだからね!」


「悪いですが、ラスボスの素材はわたしがもらいます!」


「みんなはどう? いらないの?」


 βテスト最終日、ラスボスが素材を落とす。それが何を意味しているのか、わからないゲーマーはいないだろう。



 『正式サービスに引き継がれる』



 もしもあのレア素材を手に入れたならば、正式サービス開始と同時に大きなアドバンテージを得ることになり、誰よりも強くなれるのだ。これが欲しくないプレイヤーなど、存在しない。


「オレが勝ち取るに決まってんだろ!」

「いいや、誰にも渡さねえぞ!」

「早いもん勝ちだあ!!」


 再び轟く雄叫び。士気を取り戻した勇者たちはブラームを先頭に、目の前に聳える悪魔へと立ち向かった。


 これだけの勇者が集まっているのだ、負けるはずが無い。最後の攻略、最後の討伐、必ず成し遂げてみせる。



「そうはさせませんよ!」



 突如として、冷たい大部屋に木霊した幼い声。


 いったい誰の声だと辺りを見渡すも、それは我ら攻略組から発せられたモノではない。


 正面、玉座の麓……、そこにいるのは……



「……キュリちゃん……」



 3つのキーホルダーを首飾りにし、吸血鬼コスに身を包むキュリちゃんの姿がそこにあった。



「ふ、ふ、ふ……。このわたしが、皆さんに最後のサプライズを仕掛けてあげましょう!」



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