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4話 初めての採取とスキル獲得



 左右に門番が構えた大きな門を潜ると、目の前には街道が伸びる草原が広がっている。


 青い空に白い雲。のんびりとしたその景色の下では……、数人のプレイヤーが駆けっこをしていた。


「唸りを上げろ! オレのスタミナゲージ!!」


 そう叫んだ人物がダントツのビリで市壁にタッチする。


「な……なんでまたビリなんだよ……。AGIは全員初期値なんだから、走る速さも同じになるはずだろう……」


「だって、なぁ。走り方が下手くそなんだよ。いくら力や速さの数値が同じでも、プレイヤー個人の技量とか経験によっては差が出て当然なんだ。……だからそろそろ諦めて、オレ達も狩りに行こうぜ?」


 意外に重要な話を聞けた気はするけど、きっとこのパーティーは1日を駆けっこで潰すんだろうな。そう確信しながらわたしは街道を歩き出した。


 リアルのステータスか……。いいなぁ……。





 森に入り始めるとプレイヤーの姿も多くなる。モンスターの他にも採取アイテムを拾うには、森へ行くのが基本だと知っているからだ。


 わたしが森に来たのは偶然だけどねー。


「おーし、お前らよく見とけ! 今から『漢鑑定』を行う!!」


 地面が均された森の道を歩いていると、また可笑しなプレイヤーと遭遇した。モンスターは1体も見てないのに。


 お祭り騒ぎの気配を察したのかざわざわと集まりだすギャラリーに向けて、中央に立つショッキングピンクのモヒカン男、いや、漢は1つのキノコを掲げた。


「街に戻らなければ鑑定できないのは皆が知ってのとおり。そこで勇者であるオレは、今からこのキノコの効能を身を以て鑑定したいと思う!!」


「よ! 漢の中の漢!」

「これぞMMO名物!」

「お前こそ真の勇者だ!」


 話を聞く限り漢鑑定というのは、詳細が不明であるアイテムをその身を持って鑑定し、漢らしさをアピールするMMO名物らしい。

 ゲームではお約束の光景なのか周囲の反応は意外にも寛容で、ここぞとばかりに盛り上がっている。


「いくぞ! ……3! ……2! ……1! ……むぐっ。……………………」


 黒に黄の斑模様が浮かんだ『なぞのキノコ』を口に頬張った漢は、飲み込みもせずに顔を青ざめさせていく。


「お、おい、どうした? なにかステータスに変化はあったか?」


「…………ゴクッ。…………バタッ」


 あ、倒れた。


 仰向けで倒れた漢は、大の字に開いたまま硬直してしまい動けなくなったようだ。


「麻痺になるのか。参考になったよ、またな」

「見た目のとおりだったな」

「意外性に欠ける」


 麻痺キノコの危険性を証明してくれた勇者に対して心無い言葉をかけたギャラリー達は、なにも無かったかのように日常へと戻っていく。


「おーい、誰か麻痺を治してくれよー。置いてくなよー」


 可哀想な勇者。そのモヒカンは完全に萎れていた。


「麻痺になっても話せるんだね」


「そこの嬢ちゃん、助けてくれるのか……、ありがてぇ……」


 足下で身を屈めたわたしに対して顔を向けたモヒカンは、麻痺治しが欲しいと口を空けている。


「んーん。ごめんね、わたしも麻痺治しは持ってないんだー。この辺りはモンスターも出るだろうから、食べられないように気をつけてねー。……じゃ」


「『じゃ』じゃねぇよ! 置いてくなよ! せめて食べられるかもとかフラグ立てて行くなよーー!!」





 森の奥にやってきたわたしは、そろそろ採取をしてみようかと深みの方へと入っていた。土の匂いや瑞々しい草の匂いに感心しながら枝を掻き分けていてふと気づく。


 この辺の草って、全部が採取アイテムなのだろうか。


 手当たり次第にアイテムボックスに入れていって、街で鑑定してみれば全てが『雑草』とか言われたらヘコんじゃうよ。設定ではどうなっているんだろうね。この枝もすぐに折って採取できそうだけど。


「まあいいや。種類別に1つずつ採取してみればいいよね」


 あまり深く考えるのは得意ではないので、とりあえず行動に移してみることにする。

 たぶんこの中のどれかが薬草なんだろうけど、パッと見では全くわからない。


「まず1つ目。ポイッと」


『【採取】スキルを獲得しました』


「うわ、なんかメッセージ出た」


 よく確認しようとしたらメッセージが消えてしまったので、メニュー画面を開いてメッセージ履歴を読んでいく。


「スキル獲得か。採取って、そのままだね」


 詳細はあとにして、採取続行だ。木の実や捲れそうな木の皮も次々と採取していく。虫はいらない。


 ポイッとポイッとポイッと……、これ、モヒカンキノコだ。いちおう採取しとこ。



 そうして採取しているうちに、わたしはあるモノに手が伸びるようになっていた。



 見た目は草の仲間だけど、なんとなく採取をしていた方がいいと思える。

 まるで四つ葉のクローバーと目が合うような感覚で、見つけた途端に嬉しくて駆け寄ってしまうのだ。出会う数が少ないというのもあるかもしれない。


「また見つけたよー。ゲームだから遠慮なく採取しちゃうねー」


 無我夢中で森を歩き回りワールドマップをミミズのように描いていると、正面に土が剥き出しになった崖へと辿り着いた。


 その崖に埋まるようにしてキラリと光る物体。間違いなく鉱石の類だと思われる。


「アイテムボックスにピッケルが何個かあったし、採取してみようかな」


 ピッケルを手にしたわたしは気づいていなかった。


 背後でもなにかがキラリと光っていたことに。



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