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38話 ファングッズ販売



 午後1時の鐘が鳴る。いよいよ自主企画イベント『ファングッズ販売』の始まりだ。


 少し高い台座の上に構えられた販売ブースの前に立って、集まってくれたみんなにマイクを使ってあいさつする。


「来てくれてありがとねー。……えっと、いっぱい買ってねー」


 よし、ちゃんと言えた。広場からも雄叫びが上がってるし、役割は果たせたよね。



「ナツハがストレートすぎる……」

「良くも悪くも、裏表が無いですからね……」



 これだけのお客さんにグッズが行き渡るかは不安だけど、もしものときは後ろで生産すればいいかな。あとは列がなくなるまで、売って売って売りまくるよー。


 わたしが自分のグッズが並んだテーブルまで下がると、最前列にいたお客さんが端の方からゆっくりと階段を上がってきた。


 お客さんには、まずわたしのテーブルを見てから、ルピナス、フィリオと続く直線を歩いてもらう。こうすることによって、商売や接客についてはマニュアルしか知らない2人に、手本を見せられるのだ。


 初めのお客さんが来る。


「いらっしゃーい。全部1つずつ買う?」


「え!? いや、さすがにそれは、ちょっと……」


 わたしの言葉を受けた男性は早くもコンプリートを拒んでしまった。設営の時間から先頭に並んでいた人だから期待してたんだけど。


「チラシの番号にチェックを入れているので、それをいただければ……」


「そっか、チラシを配ってたんだっけ」


 コンプリートを断念した男性は、わたしのグッズが記されたチラシを差し出した。

 これはお客さんを円滑に回すための工夫になると、マスターがアドバイスしてくれたもので、あらかじめ配布していたチラシを見て、欲しいと思った商品の番号にチェックを入れておいてもらっている。あとはわたし達がそれを確認して、倉庫メニューから該当する商品を取り出して渡すだけ。


「追加でほしいやつがあったら言ってねー」


 テーブルの上にディスプレイされた見本グッズを示して、追加で買ってくれないかと催促してみる。現物を見てから欲しくなることもあるもん。


「このぬいぐるみはどう? 1200ゴールドでお得だよー。あとはこのキーホルダーとか、装備に付けてみたら?」


「キーホルダーか……、意外に高いな……」


 絵を描いたあとは自動生産できるとはいえ、素材にはまだまだ希少なハピネスストーンが使われてるからね。


「それじゃあ、キーホルダーを1つ追加で」


「ありがとー。ばいばーい」


 追加購入をしてくれたお客さんは、キーホルダーを満足気に受け取って次のルピナスブースへと向かった。


「……いらっしゃい。全部1つずつ買うのよね?」


「え!? いや、だから――」


「全部、買うのよね……(ギロリ)」


「あ、いえ、あのぉ……」


 うむうむ。きちんとわたしの接客をルピナスも学んでくれたみたいだ。さっそく実践してくれて嬉しいよ。

 そうしてルピナスの成長をしみじみと眺めていると、さらに奥からは物申す声が。


「ちょっとルピナス、わたしのブースへ来る前に巻き上げないでくださいよ。売り上げが落ちるじゃないですか」


「そうね……、アタシも売り上げが欲しいけど、ほどほどにしてあげるわ」


 2人とも、裏表が無いね。巻き上げる宣告を受けたお客さんが怯えているよ。


 何はともあれ、諭されたルピナスは言葉どおりの押し売りに留め、お客さんを次に送り出した。


「いらっしゃいませ。先程はルピナスが大変な失礼をして、すみませんでした。……随分と散財させられたようですが、どうぞわたしのグッズも買っていただけると幸いです」


「……ぁ、ぁの、……」


 辿々しくフィリオのブースへとやってきたお客さんは、なぜか掠れた声で返事をする。もしやルピナスへの怯えが消えていないのかと思ったけど、そわそわと視線を合わせようとしない男性からは、なにやら違った雰囲気を感じた。


「どうかしましたか……?」


「……ぁ、ぇっと」


 フィリオに間近から見上げられた男性は、顔を真っ赤にして言葉を振り絞る。


「ぜ……、全部ください……!!」


「は……、はぃ……?」


 なんと、男性がまさかのコンプリート宣言。わたしとルピナスのときは断ったくせに、フィリオのために資金を隠し持っていやがったのだ。ああ羨ましい。


 まるで告白でもしたかのように固まる男性を見て、フィリオもただただ眉を下げて困惑しているよう。


「ほんとに、全部でよろしいのですか……?」


「はい……! あ、あと……、握手をしてください……!!」


 口に出したからにはもう引けないと、追加でとんでもない注文を飛ばしてくる。とんだ欲深野郎だ。


「握手は、その……、さすがに……」


 フィリオは丁重に断りを入れているが、男性の様子では握手をするまで帰ってくれそうにない。マニュアルにない事態に戸惑うフィリオは、キョロキョロと助けを求めるように視線を動かすなかで、近づいてきた『あれ』に目を留めた。


「全品購入ありがとうゲコ~。入金は終わったゲコか?」


「え、あ、いま済ませました。あとは握手を――」


「お触り厳禁、渋滞緩和、お帰りはあちらゲコ。それとも、ログイン地点に送ってあげようゲコか~?」


 おお、見事な話し合い(脅迫)。お客さんは素直にカエル。


「お買い上げありがとうございましたゲコ~」



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― 新着の感想 ―
[一言] お前ら正直だな! カエル、大活躍だな。
[一言] 脅迫って言っちゃっているよ、この人。
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