27話 イベント開始
澄み渡る青空。風に踊る草原。
いかにも長閑な風景が広がる丘には、その場を埋め尽くさんばかりのプレイヤー達が集まっていた。
然りとて彼らはピクニックへ来ているわけではないようで、誰もが色とりどりの鎧やローブに身を包み、その表情も硬く強張らせている者もいれば緊張に震えていたりと物々しい雰囲気が漂っている。
そんな彼らはしかし、ただ1つの地点、丘の頂を見つめているのだった。
期待と不安が一帯を満たし、ついに弾けんと膨れ上がったとき、空を覆い尽くす魔法陣が起動する。
いかづち。
まさに創造主の力が宿った荒れ狂う稲光が頂に落ちたその刹那、光の軌跡を辿るように一基の塔が出現した。
煉瓦造りらしい大きな石の塔。見上げてもまだ見通せない塔には適度な間隔に窓らしき空洞があり、その先に漆黒を覗かせている。
『ようこそ皆さんお集まりいただきました!』
塔の半ば上空に現れた大型モニターから、聞き馴染みのある声が降り注いできた。
『VRMMOキュリオスのβテストが始まってから早半月のときが過ぎ、ようやく初のイベントがやってきました。会場となるのはお察しのとおり、目の前に聳え立つ創造主の塔。参加する4万人の皆さんにはこの中で生き残りを賭けたバトルロワイヤルを行ってもらいます!』
ここまでは事前のお知らせにあったね。
『そ・し・て。大会の実況を務めますはこのわたし、お耳の恋人ことガイドAIのキュリちゃんです! オイタする悪い子はBANしちゃうぞ!(はあと)』
会場の至る所にあるモニターから、白い美少女の不器用なウインクが炸裂。両目を瞑ってしまうかわいさに一部の者からは歓声が上がったが、戦を前に士気を高ぶらせた武人たちには効果が無かったらしい。
『……反応が薄かったことにはヘコみますが、ルール説明いきまーす』
バトルロワイヤルのルールは以下のとおり。
・制限時間は2時間
・勝敗を決めるのはポイント式
・各プレイヤーが所持するポイントを奪っていき、最後のポイントによって順位が決定
・プレイヤーのスタート位置、蘇生位置はランダム
・アイテムの持ち込み種類・個数は『5』に制限する。(スキルによる増減は許可)
他にも細かいルールがあるけど、むつかしくてわかんないから割愛。なお、参加賞がある他、上位100位には追加報酬、トップ10に入れば順位に応じた報奨が贈られるとのこと。
『まあ、姑息だろうが賢しかろうが、各々が立てた戦略を駆使しつつ他のプレイヤーを倒しまくってください。ポイントを多く所持しているプレイヤーを倒せば一発逆転のチャンスもありますよ』
あとは時間が来るまで好きにしてねとルール説明が終わるや、この手のイベントに慣れたプレイヤー達は装備やアイテムボックスの最終確認を始めだしていた。一部では数人の仲間を組んで挑むつもりなのか、作戦会議をしている姿もある。
その切り替えの早さと周到さにわたしは圧倒されるばかり。これが戦場を日夜駆け回るゲーマーの、熱気。
「ナツハ」
背の高い鎧の集団に埋もれてあたふたしていると、そばから暖かい優しさを感じる呼び声が聞こえた。
「ルピナス! フィリオも!」
「アンタ、またメッセを無視したわね。会場には一緒に行こうって言ったのに」
「ルピナスったら、ナツハちゃんが迷子になるかもって心配していたのですよ」
「あぅ、ごめんね……」
おかしいなぁ、新着メッセなんて……、あ……。
「んもう、ナツハはこんなときでもマイペースなんだから。忘れ物はない? ちゃんと装備はメンテした? もう1度いっしょにルールを確認しておこうか?」
「相変わらずルピナスは心配性なんだから、わたしだって1人でも大丈夫だもん」
あまりにも子ども扱いされるので「むんすっ」と膨れていると、会場の準備が整ったのかアナウンスが流れてきた。
「ついに始まるわね。絶対にトップの座に輝いてみせるんだから!」
「それはどうでしょう。少なくともルピナスの戦闘を知り尽くしているわたしがいる限り、トップは譲りませんよ」
「わたしもがんばるよー。入賞してレアアイテムをいっぱいもらうんだー」
わたし達、狙うは1位、トップの座のみ。必ず優勝してみせるのだ。
『それでは参加する皆さんが塔の内部へ一斉にワープされますので、観覧の皆さんは外周特設ステージにて世界に生配信される映像と共にご覧ください』
「ワープだって」
「いよいよ塔に入るみたいね」
「それからは、生き残りを賭けたバトルロワイヤルですよ」
わたし達はお互いに敵同士か。よし、やるぞ!
「「「目指すはトップ! みんな、健闘を祈るよ!!」」」
ワープ特有の粒子が煌めきだすと、会場はプレイヤー達による鬨の声に満たされる。
VRMMOキュリオス、初のPvPバトルロワイヤルが始まった。
それから3分後。塔の内部にテレポートしたわたしは……
「ここ……、どこ……?」
迷子になってました。てへ。