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23話 捜索? いえ、ハイキングです



「わたしは情報を漏らしたりなんてしませんよ! 運営のイヌに成り下がったつもりはありませんからね!」


 キュリちゃんもこう言ってるし、大丈夫だよね。うん。


「そうだジョージさん、せっかくだしナツハさん達にバグの修繕を手伝ってもらいましょうよ」


「な、ば、だからバグなんて起きて――」


「それなら、1人でどうにかできるのですか? 2日目にしてまだ3頭しか捕まえられてませんし、このままでは4日掛かっても無理だと思いますが」


「う……」


「昨日は徹夜、そして今日も徹夜でしょう、さらに明日、明後日……」


「わかったよ! 手伝ってもらえばいいんだろ! くそぅ、始末書が増えていく……」


 ジョージはキュリちゃんの管理役ではないのだろうか、まるで立場が逆転しているようにしか見えないけど。




「キュリちゃん、だったかしら。どういうことか説明してくれる?」


「バグが発生しているのは間違いないのですよね?」


「ほわぁ! ルピナス姉さまとフィリオお姉ちゃんがわたしに話し掛けてくれた!! よろこんで説明させていただきますとも!!」


「元気だねー」


 バグの対処を手伝うことになったので話を伺おうとすると、キュリちゃんは声を一段高くしながら教えてくれた。


 始まりは一昨日の深夜、運営がシステムのアップデートをしていたときになる。


 いつもどおりに世界が上書きされていくのを眺めていたキュリちゃんは、とあるエリアに歪みが生じたことに気づいたそうだ。さっそく運営に警告を出したのだが返答は無く、その間にも空間は不安定になっていき、付近にあった牧場からヒツジが転送されてしまったという。


 幸いにも転送先は隣接した森であったのだが、時間が経ってヒツジの場所情報が変更・固定されてしまい、自力で牧場まで連れ戻すしかなくなったのだそうな。


 そのときの担当者がジョージであり、当時は夜勤に耐えかねて眠りこけていたそうで、朝になってようやく警告を確認、昨日はいろいろあって現在に至るのである。


「ジョージさんのせいなのです」


「って、キュリオスが送信先を間違っていたからでしょう! 僕の携帯に送ったところで警告音も鳴りませんよ!」


「そうなの、キュリちゃん?」


「まあ、あの日はネットを用いた情報収集に忙しかったというか……」


「ネットサーフィンの片手間で警告を出しちゃったと」


 ジョージもキュリちゃんも人のことは言えないようだ。わたし達としても何と言葉を返せばよいのやら。


「とりあえず、ヒツジを捜し出して牧場に連れていけばいいんだねー」


「ああ。空間の補修はさっきのザッピングで終えたはずだから、あとは残り6頭のヒツジを隣の牧場に返してくれればいい。首輪に鈴が付いてるのが特徴だから……、その……、よろしくお願いします」




 ヒツジの大捜索が始まった。キュリちゃんナビによると一定の範囲を移動しているらしいので、手分けして1人1頭を迎えに行く。


「手分けしてって言われたのに、どうしてキュリちゃんが一緒にいるの?」


「わたし達は背も低くて大変ですので、2人で仲良く2頭を連れ帰りましょう」


 木漏れ日に照らされるキュリちゃんに頷いて、わたし達は1頭目のヒツジがいるであろう場所を目指した。緑に溢れる森の中は足下が不安定になっているのだけど、キュリちゃんはそこを迂回するように案内してくれている。


「ナツハさん、ゲームでは上手くやれていますか? 何か困ったことがあればわたしが――あれ! いない!?」


 キノコ~キノコ~。エレキネットを作るのに痺れ茸はあった方がいいもんね~。そういえば、モヒカン漢は元気でやれてるのかな?


「ナツハさん、何をしているのですか?」


「ん? キノコを見つけたから採取してるんだよー。いろんな種類があって便利だからねー」


「そうなのですか……。わたしなら、あらゆるアイテムを生成することができますよ。必要なモノがあるなら――」


「キュリちゃんもやってみる? 楽しいよー」


「……楽しい、ですか。……やってみたいです!」


 ガイドAIであるキュリちゃんは、対象を認識しただけで採取できるスキルが使えるようで、次々と採取物を収納してしまう。確かに便利なスキルだとは思うけど、それでは採取の醍醐味を味わえないのではなかろうか。


「そうじゃなくてね、手を使って採取してみて」


「え、でも、こちらの方が効率的ですよ?」


「キュリちゃんはすごいよ。でもね、それだと楽しみを逃してもったいないの」


「もったいないのですか……?」


「うん。わたしのマネをしてみてねー」


 キノコや薬草、鉱石だってそうだ。1つを採取するにもコツがあって、そのモノの特徴を知りながら工夫していくのはすごく楽しい。それを、キュリちゃんにも知ってもらえたらいいな。


「こう、ですか?」


「いいね。その調子でいろんなモノに触れてみよー」


 キュリちゃんも都会っ子のようで自然にはあまり触れたことがなかったらしく、あちこちを駆け回ってはわたしに発見報告をして、一緒に採取をしようと誘ってくれる。


 AIならば全く同じ動作を繰り返すこともできるはずだけど、キュリちゃんは採取を続けるうちにその手つきが下手になっていった。きっと、システムの力に頼ることを止めようとしているのかもしれない。


「どう、楽しい?」


「はい! すごく楽しいです!」


 ヒツジの捜索も程々に、わたし達は採取に勤しみだしてしまった。こうしてキュリちゃんに取り方を教えていると本当に楽しくて、ついつい夢中になっちゃうね。


 キュリちゃんも楽しそうだし、よかったー。



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[一言] AIに面白いことさせるな
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