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22話 BANしますよ!(はあと)



 モリワカに引き摺られる形で茂みから姿を見せたのは、金髪でおしゃんてぃなウェーブを描く青年だ。自然の中では違和感しかない白のスーツを纏った青年は、幼い顔立ちを必死で歪めながら抵抗している。


「だから! 僕には仕事があるんですってば!」


「残念ながらこれも私の仕事だ。運営の者である君には公衆の面前で失態を曝してもらうぞ」


 モリワカの手によって青年がわたし達の前に差し出されるが、運営であるこの人をどうしろと言うのか。とりあえず腕を組んでみる。


「コイツは本当に運営の人? まあ、見た目からしてそれっぽいけど」


「私とも面識がある者だよ。運営本部に乗り込んではいつも対応してくるのがこのジョージだ」


「ふ~ん。良くやったモリワカよ、下がってよし」


「御意……。……?」


 さて、せっかく運営と話せる機会を得たのだから、ジョージさんとやらにいろいろと聞いてみようではないか。裏技とか、隠しダンジョンとか、隠しスキルとか……、うへへへへ。


「ぼ、僕を捕らえてどうしようというのですか! 場合によってはアカウントの停止では済みませんよ!」


「おっと、確かに。危ないところだったわ」


 根掘り葉掘り聞き出すのは辛うじて止められたけど、尻餅を突くジョージを取り囲むようにしているこの状況、すでにアウトではなかろうか。


「それなら本題についてだけを聞きましょう。この辺りでバグの発生があったようですが、お話しいただけませんか?」


「な、なな、なんのことやら、さっぱりですね! バグなんて起きてもいませんし、ましてや空間が捻れているだなんて……、あっ」


 なるほど、バグの正体は空間の捻れであり、それが原因でザッピングが鳴っていたらしい。この男、つついていけばさらに情報を漏らしてくれそうだ。


 フィリオが視線を合わせて追撃に出る。


「ジョージさん、詳しく話してくださいませんか? このままでは不特定多数のプレイヤーに危険が及ぶかもしれないのですよ」


「僕を惑わそうだなんて……、そうは……、いきませんよ……」


 超絶的美少女の瞳に間近で見つめられたからか、ジョージは己の心に抗うように顔を背けた。……目線だけは逸らせていないし、それもフィリオの顔より少し下を見ている気がするけど、もしものときは抜刀済みで鬼の形相をしているルピナスが斬り倒してくれるだろう。


「とにかく、バグなんてありませんから! これ以上の邪魔をするのなら、僕も手段を取らせてもらいます!」


 そう叫んだジョージは金の縁取りがされたタブレットから運営用メニューを開き、なにやら操作を始めてしまった。


 先程の宣言どおりアカウントを停止されてしまうのか、はたまたそれを超える処分が……。この場に集うプレイヤーには抵抗が許されないまま、ジョージは最後のタップを終える。


「出でよ、運営がしもべ! 我を遮る愚か者に裁きの鉄槌を下すのだ!」


 その瞬間、タブレットから飛び出した光がわたし達との間に立ち塞がり、プレイヤー権限を統べる世界の管理者が召喚された。


 …………


 …………カタカタカタカタ…………


 …………カタカタカタカタ……カタカタカタカタ…………


「……すごい速さでタイピングしていますよ」

「……この娘、どこかで見たことあるわね」


 光の中から目の前に現れた少女は、何を思ってか一心不乱にキーボードを叩いている。


「……ちょ、ちょっとキュリオス、何をしているんだい? 早くこの人たちを――」


「うるさいですね、キュリちゃんは毎秒100文字のタイピングに忙しいのですよ。……わぁ、すごい映像を入手しちゃいました! さっそくファンクラブのみんなに教えてあげないと。カタカタカタカタ」


「ちょっとキュリオス――」


「うるさいですよジョージさん。それにわたしのことはキュリちゃんと呼んでくださいと言いましたよね、BANしますよ!」


「いや、その……」


 わたし達の前に正座をしながら空間のキーボードを叩いている少女は、アバター作成でお世話になり、このキュリオスという世界で初めて出会った人物であるガイドAIのキュリちゃんだ。


 俯きがちに肩へと白い髪を流すキュリちゃんは、誰の言葉も耳に入らないのか、すごい勢いで画面を操作していく。


「キュリちゃん、久しぶりだねー」


「うる――うん? このどこか間の抜けた声は……、まさか……!」


「元気にしてたー?」


「ナツハさん! どわあ、こんなところで会えるなんて奇跡、いえ、運命ですね!!」


 わたしの顔を見るや飛び上がって歓喜してくれるキュリちゃんは、デジタルキーボードを消し去って抱きついてくる。


「どうしてこんなところに!? うはあ、ホンモノですぅ!!」


「バグを探しに来たらジョージさんに会ってねー。そしたらキュリちゃんを呼び出してくれたんだよ」


「ジョージさん……? あれ、尻餅を突いて何をしているんですかね?」


 未だに尻餅を突いてるジョージは、わたしとやけに親しい様子のキュリちゃんを見て困惑気味だ。自分の助けとするべく呼び出したのに、これでは相手側のようである。


「まさかキュリオス、その娘と親しくなったのでは……。あれほどプレイヤーに優劣を付けてはいけないと言ったのに」


「だってナツハさんは49983人のプレイヤーの中で、唯一、キュリちゃんに外の世界をお話ししてくれたのですよ。ナツハさんとキュリちゃんの間には、それはそれは深ぁ~い友情があるのです。ねー」


「ねー」


 わたしとキュリちゃんがニコニコと微笑みあっていると、周囲からはなぜか呆れの込められた視線が浴びせられる。


 ルピナス曰わく、運営と常に繋がりを持つガイドAIは謂わば運営の耳でもあり、すぐにネットワークを介して情報を収集されてしまうのだとか。つまりアバター作成のときに話していたプライベート情報は、とっくに運営へと伝わっている可能性があるらしい。


 ほとんどがスーミンの話だったけど、キュリちゃんはそんな悪いことしないから大丈夫だよ。





 ごめんね、スーミン。



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