21話 まいごのまいごの
負けた。また負けた。ほんとに運が無いよね、わたしって。
ドロップアイテムの分配が終わったのでザッピング探しの続きへ……、と行きたいけど、まずはガイコツの処理を済ませておかないと気が済まない。
皮の装備を纏うガイコツはわたし達の圧力に屈したのか、深茶の七三を伏せて地面に膝を丸めているが、全くカワイくないのでサラッと事情だけ聞いておくことにした。
「で、アンタはどうしてこんな場所にいるのよ。しかも初期装備で」
「このエリアは初心者が来れるところではありません。武器が特別強いわけでもないようですし、お連れの方でもいらしたのでしょう」
「い、いや、私は1人だ、……ずっとね。このエリアに来た理由は執念とでも言うのだろうか、全てのモンスターを避けながら歩いていたのだよ」
ふむふむ、モンスターを避けるのは攻略の基本だよね。わたしも慣れたもんだよ。
「こんな辺境までモンスターに1度も見つからないわけないでしょ。バカじゃないの?」
あ、あぅ。流れ弾ならぬ、流れバカを受けてしまった……。
「ふっ、やろうとすれば何だってできるものだよ。やる前にできないと決めつける方がバカだろうに」
「……結局はモンスタートレインしてたくせに」
「ぐっ……」
ルピナスの鋭い指摘に『ぐっ』の音しか出せない評論家だが、初期装備しか所持していないことからもモンスターを避けて来たのは本当らしい。これでは碌に所持金も得ていないであろうから、慰謝料を請求するのは不可能ではないか。とんだガイコツだ。
「あなたの顔はどこかで見たことがあるのですが、評論家の……、えっと……、その……」
「杜若だ! これでも評論家としては――で、――な、――であるからして、」
評論家こと杜若はプレイヤーネームもモリワカだった。まだ本人による自己紹介が続いているけど、チンプンカンプンなので全部割愛でいいだろう。
その後、ルピナスが睨みを利かせてからの穏便な話し合いによる結果、モリワカにはザッピング探しに付き合ってもらうことになった。モンスターに食べられるとわかっていて、1人で帰すのもあれなので。
「モリワカさんもバグを探しに来てたんだって?」
「ああ。この場で運営が失態した証拠を手に入れて、ネットに流してやろうと思ったのだよ」
「ネチネチしてるね。もしかしてキュリオスにいるのも?」
「VRMMOの醜態を探るためさ。今回のバグを見つけ出せれば、全国を回ってβテスターに選ばれるくじを引きまくった苦労も報われるというもの」
「徹底してるね。わたしもくじに当選したんだよ、1回でねー」
「ぐほっ……」
どうしたの? お腹痛いの?
ルピナスとフィリオは前衛で引き続きザッピングを探り、モリワカは周囲の警戒、わたしはモリワカの見張りを担当して森を進み始めた。
オジサンの見張りなんて暇なだけなので、レアアイテムを見つけるために採取へ行こうとしているのだけど、その度にモリワカが「はぐれるな」と邪魔をしてくる。
「君のような幼い子どもが1人になってはいけない」
「むう、わたしも一応は女子高生だよ! 子どもじゃないよ!」
このガイコツは毒舌評論家として問題になっているだけあって、さっきから失礼なことばかりを口に出しては感情を逆撫でしてくる。もはや天性からの才能としか思えない。
しかしそんな少ない内容でも言葉を交わしているうちに、慣れてきたのかまともな会話もできるようになっていた。このガイコツ、賢いね。
「このMMOにはモンスターも現れるが、攻撃を受けると痛覚が刺激されるのだろう? 怖くはないのかね?」
「まあ、ゲームだからねー」
そんな難しいことを聞かれてもわかんないよ。ゲームは楽しむためにあるものなんだから。
「……ふむ。……そんなものか」
「そんなもんだよー」
この大人は難しいことを考えすぎだと思う。ゲームをしているはずなのに、常に視点がどこか遠くに行っているようだ。
「……君は、ゲームが好きか?」
「キュリオスが初めてだったけど、ゲームは好きになったよ」
このゲームを始めてから、いろんなモノに触れたし、新しいこともたくさん覚えた。ルピナスやフィリオにも出会えたし、お店の常連さんとの話も面白い。
毎日が新鮮な刺激に溢れているこの世界を、わたしは『好き』の言葉以外では表せないよ。
「そうか……。ならば、いまを存分に楽しむといい」
「番組とは違うことを言うんだね」
「ああ。友達との触れ合いは楽しいだろうが、『いま』は『いま』にしか存在しない。失ってから気づいたのでは遅すぎるのだよ」
「う~ん? わかんないや……」
「そうか、いまはわからないか。私もそうだったよ……。友達を失わないようにだけは気をつけなさい。……もちろん、勉強も大事だぞ」
空間が破れるような音が辺りに響き渡る。ついにザッピングを捉えることができたのだ。みんなで手分けして付近の探索へと向かい、時間が来ると集合場所に戻っていく。
「……アタシはハズレ。フィリオの収穫は?」
「わたしもありませんでした……。ナツハちゃんは?」
「鉱石が4つと、結晶が……、って、これは違うよね。ゴメン」
ザッピングが発生したのは間違いなく近くなのだけど、いくら見渡してもその原因を突き止めることができなかった。そもそも何を目印にザッピングと特定していいかもわかっていないので、かなり無謀な挑戦をしているのだと自覚する結果に終わる。
「あ、モリワカがいないよー?」
「そういえば。もう、どこを彷徨ってるのよ!」
「……あそこです。帰って来れたみたいですよ」
茂みがざわめき、そこからモリワカの頭が現れる。モンスターに襲われていなくてホッとしたのも束の間、なにやら騒々しいやりとりをしているようであった。
「それならばこの場で証言しても構わないだろうがね!」
「勘弁してくださいよ杜若さん。僕には暇なんて無いんですよ……」
……だれ?
「キュリオスの運営をしている者を見つけたので、連れてきたぞ」
ザッピングを探しに行ったのに、運営を連れてきちゃった……。