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19話 噂の森へ



 噂とは奇妙なモノである。善い噂ほど広まりづらく、悪い噂ほど広まりやすいという性質を持っているのだ。善と悪、それらが同じ1つの現象から生じたモノであっても変わりはしない。



 わたしが入手したこの噂も、そんなうちの1つであった。



 はいそこ、入手方法が悪だとか言わなーい。




「バグ報告か」


「うん、それがこの辺りであったんだってさ」


 お客様との等価交換によって齎された噂によると、牧場に面した森の中でバグらしきザッピングが発生していたそうだ。なにかが破れるようなその音は付近の街道まで鳴り響いたとのこと。


 もしもそれが事実であれば大変な事態だ。一刻も早く原因を突き止めねばならない。


「仕方ないわね~。バグ報告があったのなら確認しないといけないじゃな~い(にこにこ)」


「だねー。誰かが巻き込まれたら危ないもーん(にまにま)」


「それで、わたし達は運営でもないのですが。本当に巻き込まれても知りませんからね(ためいき)」


 フィリオが今更ヒヨッた発言をしているが、きちんと昨日の解散前に話し合った際には全員一致で即決したではないか。バグなんてβだからこそ見られるモノであるから、イベントよりも貴重な体験ができるだろうと。……バグ素材が見つかるかもしれないし。


「キュリオス、それすなわち好奇心。このタイトルに惹かれし者、なんぴとの邪魔も受けること無し! いざ行かん、バグ探しの旅へ!!」


「皆のもの! 出陣じゃあーー!!」


「野次馬根性が凄まじいですね……」




 青空に煌めく木の葉の下、わたし達は山を登りつつ耳を澄ませる。報告ではかなりの範囲にザッピングが聞こえたのだから、いつ届いてきてもおかしくはないのだ。


「バグ報告があったのは2日前になりますし、さすがにもう運営が対処しているかもしれませんよ?」


「ちょっと静かにしなさいよ。聞き逃しちゃうでしょ」


「耳を澄ませるのは構いませんが、目は閉じる必要ないですよね? どうして魔導士のわたしが2人を引っ張っているのですか」


「集中してるからだよー。フィリオの手って、暖かいねー」


「はぁ。転けても助けませんからね……」


 転けそうになったときはフィリオに抱きつくから大丈夫。きっといいクッションとなってくれるだろう。


 心置きなく耳に全神経を集中させながら足を運んでいくものの、聞こえてくるのは葉摺れと囀りばかり。ザッピングは疎かモンスターの気配まで聞こえないとなると、なんだか眠たくなってしまう。


「モンスターの気配が無い? よく考えたらおかしいわよね」


「そうですね。戦いが醍醐味のVRMMOにおいてモンスターが出現しない場所なんて、観光地か街の中くらいなのですが」


「ここは観光地じゃないよね。前に来たときにはモンスターがいたよ?」


「なんだか不穏な感じ。もしかしたら、まだバグは修正されてないのかしら」


 修正されていては困るのだけど、ここまで普段の様子と変化していると不安になってきたと2人は言う。わたしはワクワクが止まらないけども。



 心なしか3人の距離を詰めながら歩いていると、そのとき、長閑な森には似つかわしくない異質な音が辺りに響き渡った。



「聞こえた……!?」


「はい!」


「これが……、ザッピングなの……?」


 確かに音は聞こえたのだが、それはどちらかというと現実味のある響きであり、噂にあった何かが破れるような音という部分とは異なる気がする。


 わたし達に疑問を落としたその音は、答えを記す間もなく去っていった。


「なににしろ明らかな手掛かりよ。これを逃すわけはない」


「かなり遠くから聞こえてきましたね。あちらでしょうか」


「ザッピングってあんな感じなんだね。モンスターの断末魔みたい」


「「…………」」


 あれ、みんな行かないの? 早く行こうよー。




 気を取り直した一行は茂みを掻き分けながら音のした方へと歩んでいく。邪魔な蔦を切り落とし、木の根を踏み越え、ミスリルを拾いながら((どこ!? ミスリルはどこにあるの!?))進むにつれて、例の音は断続的に聞こえてくるように。




『―――――!!』


 まだ遠い。




『――――ァ!!』


 それとなく方向が変わっているようだ。




『――ミスリルめっけ』


 これは違う。




『―――アァ!!』


 やはりわたしの断末魔という喩えが相応しく思えてくる。




 そうして幾度も道を変えて彷徨うなか、広い獣道に出てきたところで、ついに、音の根源と遭遇した。



『アアアァァァ!!!』



「なによこの音。ほんとに断末魔みたい……」


「それに、なんだか地響きが起きてませんか? ……すごく近くで」


「いやな予感がするねー」


 バグの一部と思われたザッピング。いざそれを認識してみるとどこか絶叫にも似ていて、さらには大きな地響きが起きているのか体全体を震わせてくる。


 嫌な予感。


 もはやこれをザッピングなどと思っている人物は、わたし達の中には存在していなかった。



「ぎぃやあああ!! そこの君たち! 助けてくれたまええぇぇ!!」



 山肌を転がるようにして迫り来る男。その後ろには、地響きの元凶たる大量のモンスターが追随している。



(((ああ、モンスタートレインだ……)))



 野次馬根性を出したわたし達は、面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんだトレインか。 すごく面白いです!
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