16話 ユニーク装備を造ろう
モグラの討伐を終えたあとはドロップアイテムの分配作業。【廃坑の採掘者】という名に相応しく色とりどりの鉱石を散りばめてくれたモグラには感謝だ。
「かなりの数を落としてくれたわね。ダンジョンボスだから当然と言えるけど」
「いつもどおり同種のモノは均等に分配して、余ったらジャンケン順ということで」
「攻略組のみんなは、討伐のあとにいつもジャンケンしてるの?」
最前線はもっと殺伐としているイメージだったけど、そこはゲームとして平和に終わるようになっているらしい。ガタイのいい鎧戦士たちが固まってジャンケンをするなんて、ちょっと面白いね。
「これが最前線の特権であり、MMO名物なのよ」
「勝っても負けても文句無し。天に運を任せた……、どうしてでしょう、いきなり勝てる気がしなくなりました……」
「アタシも……」
2人とも、どうしたのかな? もっと楽しそうにしようよー。ジャンケンしようよー。
ジャン・ケン・ポン!
「あれ、アタシが勝った!」
「次にわたしですか」
「む~、負けた~」
ほんと、わたしって運が無いよねー。
分配したアイテムの中にはなんとハピネスストーンの姿が。どうもモグラのレアドロップだったようで、その2つはジャンケンの勝者である2人が貰うことに。
その後は疲れを癒やすためにも解散とする案が出たのだけど、あっという間に退けられて引き続きハピネスストーンの採掘へ。
結果としてはルピナスとフィリオが5つずつで、装備の分は確保できたようす。今日の遠足は皆が満足する結果となった。
わたしの採掘結果? えへへ、ひみつだよ~ん。
「いらっしゃーい。さっそく来たねー」
翌日、約束どおりに工房にやってきた2人をカウンターで出迎える。いよいよ『ユニーク装備』の製作を行うということで、とても夢に満ちた表情の3人が揃っていた。
「2人とも、宿題の絵は描いてきた?」
「ええ、わたしはバッチリですよ。ルピナスは?」
「アタシは……」
ユニークアイテムを製作するには見た目を決めるために絵を描かなければならない。昨日のうちに話して宿題を出していたのだけど、いつもは元気なルピナスが気まずそうに言葉を窄めてしまった。
「絵を見せてよー。もしかして、忘れちゃった?」
「忘れてない。……けど、見せたくない」
どうも絵はきちんと持ってきているらしいのに、その絵を頑なに見せようとしてくれない。彼女は嘘が嫌いなタイプだから、忘れたのを誤魔化しているわけではないはずだけど、絵に問題でもあったのかな。
そうしてしばらくそっぽを向くルピナスの視線に割り込み続けていると、なにが面白かったのかフィリオがくすりと笑みを零す。
「ルピナスは『画伯』ですからね。相当な絵が完成したはずです」
「……ん? もしかして、ルピナスは絵がヘタッピなの?」
「ヘタッピじゃないわよ! ただ、アタシのセンスに世間が追い付かないだけ!」
「それを世間ではヘタッピと言うのですよ。いいから見せてください」
「ああっ……!」
後ろ手に持っていた紙をフィリオに頂戴されて焦るルピナス。しかしさすがに観念したのか、仕方なく絵を拝見する許可を出してくれた。
「こ、これは、また……」
「……ゴブリン?」
「ヒトよ! どう見ても剣士でしょうが!!」
いいえ、これは屑鉄を貼り付けたゴブリンです。ヒトの目はこんなにギョロついていません。
「ナツハちゃん、こんな絵でもAIは読み取ってくれるでしょうか?」
「まあ、剣士風とかのジャンルを打ち込んでいけば大丈夫……だと思う……ような気がする……?」
「補正をしておきましょうか」
「だねー」
「……もう、なにも言い返せない」
ルピナスが思い描くイメージを箇条書きにしてから、改めてわたしが絵に起こしていくことになった。絵はヘタッピなくせに何度も要求される修正に従っていくと、かなりの力作が完成する。
「これよ! これを描きたかったのよ!」
「原作とは似ても似つきませんね」
ふむふむ。これもいいけど、あとでチョコッと弄りたいなー。
「ナツハちゃん、苦行のあとで申し訳ありませんが、わたしのローブも修正してみたいです」
「いいねー。どうせなら、とことんこだわってみよー」
そうしてみんなでわいわい盛り上がるのはすごく楽しく、あっという間に時間は過ぎてゆき、ようやく製作へと取りかかる段階に。
ユニーク装備はスロットに素材を設定することで様々な効果を発動できるという特徴があるから悩みどころだろう。
「わたしの生産レベルが3だから、装備ごとに設定できるスロットは1つずつ。ステータスを上下させる素材を加えてもいいし、なにかちょっとしたスキルを身に付ける素材でもいいよ。自分のスタイルに合わせて組み合わせてみてね」
「武器と防具では設定できる素材が違うのよね?」
「武器は主に戦闘に関するスキルや攻撃力に関わるステータス変化なのに対して、防具は常時発動型スキルとその他ステータス変化を設定できます」
「昨日に聞いたとおりね。それなら予め決めていたままでいいわよ」
「製作後は変更できないよ。後悔しないならさっそく造っちゃうね」
お店の奥にある鍛冶釜にハピネスストーンとスロット素材を投入、そして装備の見た目となる絵を読み込ませていく。
出てきたインゴットを叩いていけば、この世で1つしか存在しないユニーク装備のできあがりだ。
それではさっそく、 装 着 !
「ゲコゲコ。わたしはカエルさん雨具だよ」
「って、色も形も変わってないじゃない」
「そんなことないもん。カエルさんの目が線になって『のへ~』って感じなの」
ゆるい。カワイイ。それが正義。
「ルピナスはどう? かなり手を加えてたけど気に入ってくれた?」
「そうね……。大体は絵に描いたとおりだけど……、こんなに深くスリットを入れた記憶は無いわ」
本人のAGI特化という要望に従って鉄板系を最低限に留めたことにより、赤系統の革を用いて全体的にスラリとした印象の装備が完成した。
しかしルピナスがジト目で見下ろす先には、真っ赤なロングスカートのスリットから惜しみなく曝される美脚が。白いブーツと相まってかなりのクールビューティーに仕上がっている。
「ルピナスはモデルさんみたいだから、それが強調されるように『AIが補正してくれた』んじゃないかな~?」
「ふ~ん。まあ、動きやすくて構わないけど。……それで、フィリオはどうして隠れてるのかしら」
溜め息をついたもののあっさりと受け入れてくれたルピナスは、次の御披露目人である青い魔導士を探してテーブルの裏に視線を向ける。
そこにいたのは、蒼玉の瞳を潤ませたカワイイ生き物であった。
「だ、だって、こんな装備を依頼した覚えなんて無いんですよぉ……」
「ふふん。さあ、観念して出て来なさい!」
「いやあ!」
絵をバカにした腹癒せをされるように、フィリオはテーブルの裏から引き摺り出される。
全身を纏う青いローブには裏地に能力を付与するための魔法陣が描かれており、表にも魔力を循環させる線がいくつも走っていた。その金色にも見える線がどこか気品を漂わせる雰囲気で全体を統一してくれている。
さて、これのどこに問題があろうか。
その答えは、フィリオが必死で腕を組んでいることにある。
「ふむふむ。ハイに締めたベルトが『いい仕事』をしてるね」
「ほんとにアンタって……。羨ましい(ぼそっ)」
「こんなの、恥ずかしくて外を歩けませんよおぉぉ!!」
いやぁ、まさかAIがこんな補正をしてくるなんてねー(横目)。