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14話 廃坑の採掘者



 闇に染められた通路の向こうからは、はっきりとした気配が近づいている。それもかなり大きな気配だ。


「ルピナスが不用意な発言をするからですよ」


「あちゃー。まるで呼び寄せたみたいだねー」


「いや、だからアタシが悪いの!? 納得いかないんだけど!!」


 ルピナスがいくら嘆こうとも後悔しようとも、モンスターが現れていることに変わりはない。わたしはなにもフラグというものを信じてはいないのだけど、歴としたこの事実をルピナスがどう受け止めるのかはまた別の話だと思う。


「あーあー、悪かったわよ! アタシが悪かったんでしょ! だから2人とも、そんな目をしてる暇があるならモンスターと向き合いなさい!」


 こうして遊んでいる間にもモンスターの気配は近く強くなっていく。わたしは1度体験しているけど、初めての遭遇となる2人はそのあまりの気配に表情を改めさせた。


「このようなモンスター……、情報にはありませんよ……」


「そうね、アタシですらプレッシャーを感じるわ。これはもしかすると、最前線のダンジョンボスと同等以上よ」


 むむむ、プレッシャーセンサー起動。


 ぴよぴよピヨピヨ……


 わたしはなにも感じられないみたいだ……。ざんねん。


「ふざけてる場合じゃないわよ。この距離ではもう逃げることもできない。……ここまできたら、少しでもモンスターの情報を持ち帰ってやるんだから」


「……来ます!」


 鞘を鳴らして抜刀したルピナスの背後に、スタッフを構えて呪文をホールドさせたフィリオが並び立つ。2人の漂わせる空気が変わり、一瞬にして隙を無くしてみせた。これが真に攻略組と呼ばれるに相応しい素質なのだろう。


 そうして2人が闇を見据えること早10秒。然りとてモンスターの姿は一向に現れはしない。


「…………気配はあるのに、どこにも見えない」


「ハイドスキル……? いえ、なにかが違うような……」


 戦い慣れているだろう彼女たちですらモンスターの位置を把握できずにいるらしい。頻りに視線を彷徨わせているその最中にも、モンスターはこちらに爪を向けているというのに。


「後ろだよー」


「えっ!?」


「しまった、地面の中か!!」


 木霊する地割れの音と共に地中から姿を現したのは、身の丈2メートルの上半身を出している巨大なモグラだ。


 硬い地盤を易々と穿つ鋭い爪は薄暗い通路でも鈍く煌めき、縄張りに侵入した獲物であるわたし達を求めている。そしてなにより、わたしが注目してほしいポイントがいつになくその存在を主張していた。


「どうどう? このモグラさん、頭のヘルメットとつぶらな瞳がすごくカワイイよねぇ!」


 安全第一と書かれた黄色いヘルメット。茶色い毛に埋もれるような小さい瞳。そんなゆるいマスコットに代表される黄金比率のボディーに見とれていたからか、モグラのステータスが視界の端に表示される。


―――――


■名称:【廃坑の採掘者】モグラン Lv18


■種類:陸地大型ダンジョンボスモンスター


■詳細:???


―――――


 もぐるのにモグランって言うんだね、ぷぷぷ。そのまんまマスコットだし、しかもレベル18って、わたしよりも『5』高いよ。すごいねー。


「もしかして、めちゃんこつおい?」


「ナツハ危ない!!」


「ふわわぁ」


 甘えるような黒目でわたしを見つめていたモグラは、見上げる程の寸胴な体を回転させて攻撃を仕掛けてくる。伸ばされた鎌の爪が大気を切り裂きながら迫るなか、ルピナスの警告のお陰で間一髪逃れられた。


 余波を浴びて尻餅を突いたわたしを見下ろしたモグラは、まんぞくするや再び地中へと潜っていく。


「ナツハちゃん大丈夫……? 怪我はない?」


「うん、ありがとう。あのモフモフボディーに抱きついてみたかったけど、さすがにムリだろうねー。えへへ」


「まったくアンタは……。すぐにもう一度現れるわよ、早く体勢を立て直して」


 戦闘状態になったからには油断は許されないと、モグラの奇襲に警戒しながら立ち上がる。今は運よく避けられたけど、出てくる瞬間のスタンプ攻撃、その後の回転攻撃は範囲も広くて厄介なので、早急に対応も練らないといけない。


「どうしますか。相手はレベル18、わたし達より『3』も高いですよ」


「しかも大型ダンジョンボス。レイドを組まないと厳しいわね。……仕方ない。ここは撤退を――」


「また来るよー。あそこからだねー」


 やっぱりわたし達の背後を狙って現れるようだ。早く逃げておかないと。


「警告ありがとう。それじゃ……って、どうしてモグラの出現位置がわかるのよ!」


「え? ……なんとなく?」


「また『なんとなく』ですか。……ナツハちゃんのことだから正しいのでしょうけど、位置がわかっただけではどうにも」


 フィリオの言うとおり、いくら出現位置がわかっても先の対応ができなければあまり意味はない。どうしようか、なにかいい手があれば……。


「そうだ。あれを使ってみよー」


 どう聞いても危険な雰囲気しかないだろう発言をしたわたしは、2人の制止の声が届くなかヒビ割れ始めた地面へと近づいていった。



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