11話 ユニークアイテム
大通りに構えるわたしのお店『ナツハ工房』に戻ってきた3人を出迎えたのは表に並んだプレイヤーの行列だった。皆がそれぞれの得物を手にして開店のときを待ってくれているのである。
「相変わらずの繁盛ぶりね。すっかりレアアイテムが揃ってることで有名になっちゃったか」
「これだけのお客様を捌いてもレアアイテムが尽きないというのも驚きですが……」
「でも、どうして行列になってるのかな。ちゃんと留守の看板は出してるのに」
「たぶんナツハが帰ってきたことがわかったんじゃない」
「人通りの多いワープポータルに立っていたところを見たのでしょう。かなり目立っていましたし」
むむ。目立っていたのはわたしじゃなくて、アイドル並みにカワイイ2人の方だと思うんだけどな。
「今日は2人との約束があるし、予約をしてなかったお客さんには連絡先を渡して帰ってもらうよ」
「なんだかナツハちゃんを先取りしたようで申し訳ないですね」
「いいよいいよ、実際にそうなんだし。なんなら握手して回ってくれたら――」
「「それはイヤ」」
予約が入っていたお客さんの依頼が終わり、ようやく店が静けさを取り戻す。新しいお客さんが来ないうちに貸切の看板を立ててから、2人の装備について話を聞くことになった。
「ルピナスもフィリオも、新しい装備を造りたいんだっけ」
「そうよ。強化を重ねただけの装備じゃ、最近の攻略では限界を感じるのよね」
「ということで、いっそのこと装備一式を新調しようと決めたんです」
2人の装備についてはこの間強化したばかりなのだけど、攻略ステージが上がったのか、それではもう最前線では通用しなくなったのだそう。それは他のランカー達も同じらしく、今は装備をどうするかで話が持ちきりらしい。
「資金の方は大丈夫なの? 新調するならかなり掛かっちゃうけど」
「今の装備を中層のプレイヤーに売ればなんとかなるかと。……ですが、このペースが続いてしまうと……」
「資金が尽きるわね。一応は効率のいいクエストを周回してるんだけど、どこまで通用するやら」
いくらコスパのいいクエストであろうとも、装備を新調できるほどの資金が簡単に稼げるわけではない。それだけの資金を稼ぐとなれば気が遠くなるような周回が必要となり、攻略組から落とされる程度には時間を浪費してしまうのである。
「じゃあ攻略組を維持できるように、滅多に新調しなくて済む装備が欲しいと」
ふむふむとわたしが早くも要点の1つをメモしていると、腕を組んでいたルピナスが呆れたような溜め息をついた。
「新調する必要がない装備なんて造れるわけないでしょ。そんなの、他のゲームで言うところのユニーク装備よ」
「さすがのナツハちゃんでも、ユニーク装備なんて造れるはずが――」
「うん。ユニーク装備を造ってあげる」
「「……。へ?」」
「だからね。2人のために、わたしが、ユニーク装備を造ってあげるの」
「……冗談、よね?」
「……ユニーク装備なんて、プレイヤーが造れるものでは」
「むうっ。造れるようになったもん。ウソじゃないもん」
せっかく提案してあげたのに2人がいつまでも気の抜けた顔をしているので、わたしは懇切丁寧にこのゲームのユニーク装備とも言える存在について説明してあげる。
このキュリオスというVRMMOには、コレクターブックやレシピに載っている『オリジナルアイテム』の他に、どこにも生産方法が書かれていないアイテムが存在しているのだ。それが『ユニークアイテム』と呼ばれる、プレイヤー独自のアイデアを採用して造られるモノ。
生産レベルが3以上になると造れるようになる調合セットや鍛冶セットには、プレイヤーが描いた絵を読み込む機能があり、自分が欲しい効能を有している素材を組み合わせることで、ユニークアイテムとして生産できるようになっている。どんなにヘタッピな絵でもAIの自動補正を使えば、誰でも簡単にユニークアイテムが造れるのだ。
「ようするに、自分の好きなアイテムを造れるんだよー」
「そんな機能、あったっけ……?」
「確かに今思えば、読破したヘルプにもユニークを匂わすような記述がありましたね。かなり小さく書かれていたので、そこまで意識に留めていませんでした。不覚です」
「生産レベルやチョイスする素材によって限界はあるみたいだけど、わたしもまだ造ったことがないからわかんないや」
「じゃあナツハ、装備のステータスを変更したりもできる? 例えばVITを0にする代わりに、AGIを最大にするとか」
「さすがに0にはできないけど、そんな感じである程度なら弄れるよ」
「やった! それならアタシ、AGI特化の装備が欲しい!」
「あ、あの。もしかして、装備に任意の能力を付与することも?」
「できるよ。その分、ステータスを上げる素材を減らさないとだけどね」
「なるほど、夢が広がります!」
ユニークアイテムは確かに夢と可能性に溢れたモノだ。プレイヤーのアイデア次第では無限の戦闘スタイルが存在しているし、デザインに挑戦してみればどんなネタ装備だって造れてしまう。装備でなくても、体力回復アイテムと魔力回復アイテムを組み合わせてアイテムボックスに空きを作ることもできるのだ。
「……まあ、生産には特別なレアアイテムが必要になるんだけどねー」
「「え?」」
「え?」
「「「え?」」」