表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の卵  作者: よもつひらさか
14/29

佳代子の繭

 主様がいなくなってもう七日も経った。

今まで、こんなことは無かったのだ。主様が私に黙ってどこかへ行ってしまった。


 このよく利く鼻を頼りに、くまなく探しても見つからなかった。

主様の気配が完全にこの世界から消えた。佳代子は悲しくて毎日泣いた。

佳代子は主様がいたからこそ、生きて行けた。主様にお仕えすることこそが生きがいであったというのに。


 主様がいなくては、ごはんを食べても意味がない。

食べて産んで、また食べて産んで。そうすることで、主様が喜んでくれれば幸せだった。

今日も世の中には穢れがあふれているというのに、全く食欲がない。

穢れを食べて、主様に卵を捧げる。

主様は、卵を産むたびに、上等なのを産んだねと褒めてくれる。


 幼い佳代子の体は、食べることをやめてしまったので、どんどんやせ衰えて骨と皮のようになってしまった。

そして、毎日泣き暮らして、とうとう床に臥せてしまった。


 ある夜、佳代子はとても気分が悪くなり、気持ちが悪くなって、吐いてしまった。胃の中は空っぽだから何も出るはずもないにも関わらず吐き続けた。それは、玉虫色の糸だった。佳代子は糸を吐き続けて、三日三晩糸は吐き出されたそして、その糸は、美しい玉虫色の繭になった。


「きれい」

佳代子は糸を吐き続けて、弱った体を横たえてもなお、その美しさにうっとりした。

そして、繭は七日後に、変化した。中からまばゆい光を放ち、その繭はあやしく玉虫色に光ったかと思うと、上の方からするすると、解けていった。その美しい玉虫色の繭からは、佳代子が待ち続けた人の姿が現れた。


「主様!」

「ただいま、佳代子。お前が強く望んでくれたから、私は、またこの世界に紡がれたんだよ。ありがとうね、佳代子。」


佳代子は優しく頭を撫でられた。

佳代子はワンワン泣いた。


「次元の狭間人と名乗る小娘に、解かれてしまったんだよ。矢田の一族の娘さ。ヤタガラスの末裔の刺客さ。黄泉の国への案内人だから、私と似たようなことをしているくせにね。」


佳代子はまだ幼いから、難しいことはよくわからないが、主様さえ帰ってくればそれでよかった。

佳代子は、これからも、永遠に、主様の僕。

主様のために、穢れを食べ続ける蟲として生きるのだ。

そして、主様のために、たくさんの夜の卵を産む。


佳代子にはそれがすべてなのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白かったら→のランキングバナーをポチっとお願いします。 cont_access.php?citi_cont_id=752269012&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ