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序章 第一話 朝比奈・市蔵


 この世界はまるでゲームの様だ。


 奇跡と魔法が存在し、中には特殊なスキルと呼ばれる能力や、鍛え上げた肉体によって超人の様な運動能力を持つ者もいる。

 人間種族以外にも、多種多様な異種族や、凶暴な魔物が実在して、時には異種族は思想や宗教の違いから人間を襲い、魔物はエサや縄張りを求めて暴れまわる。

 悪魔や天使、精霊の様な人間を超えた高次の生命も存在しており、時に人に災厄をばらまき、時に人に恩恵を与える。


 そうした世界の中で、俺たち人間種族は比較的平和な土地に群れて国家を作り、技術を高め知識を深めることで文明を築き上げ、強力な異種族や魔物と相対していた。

 異種族と戦う者の中には、冒険者という未知の世界に挑む命知らずな根無し草や、騎士として国や主人に仕えて戦う高潔な戦士もおり、まさしく剣と魔法の世界を体現していた。


 と。


 こう聞けば、まるでデジタルゲーム的に経験値を高めてレベルアップを行い、ステータスを確認してスキルや魔法を使えるようになるRPGを想像しがちだが、この世界ではそういう便利なことは起こらない。


 何故なら、この世界はゲームはゲームでも、TRPGのアナログゲームの世界だ。


 魔法や奇跡には使える上限があり、運の要素によっては格下の魔物にもあっさりと負けて死ぬ。


 死者蘇生の魔法はあるが、基本は死ねばそれまで。しかも、設定的には毒や怪我だけでなく、病気にまでもちゃんとした設定がある為、例え回復用の魔術や奇跡を使っても、使用する魔術や奇跡が間違っていれば、回復することなく死ぬこともある。


 ゴブリンやスライムと言った雑魚モンスターでさえ、上位の白金等級の冒険者や騎士の最高位である自由騎士を殺すことがある。


 そんな世界の中で俺達は今、トカゲ型のモンスターであるサラマンダーやアンフィスバエナ、蛇型のモンスターであるバジリスク、サーペントと言った亜竜と呼ばれるタイプの魔物や、巨大な蜘蛛型モンスターであるアトランチュラやダークウィドウなどの虫型の魔物と言った、分類上亜竜と呼ばれる強力なモンスターが無数に棲息し、本物の魔龍であるラプラスの棲む激甚級ダンジョン『深淵の大洞窟』に取り残されていた。


 単なる人間種族では、例え白金等級の冒険者であっても五体満足に帰れれば御の字と言える程に強大で、広大で、恐ろしい天然の罠が張り巡らされた鍾乳洞のその中で、俺は……。




「おっしゃ!今日も魚ゲットおおおおお!!!これで今日の夕飯は確保だぜええええええ!!!!」




 ふんどし一丁で魚型の巨大モンスターであるガルルクを手にした黒晶石のモリで突き殺していた。


 地底湖の真ん中で絶叫を上げる俺の声は辺りに何度もこだまして、その声に驚いた蝙蝠たちが天井付近を飛び交うのはもう見慣れた光景だ。ついでに何匹かガルルクから毟り採った鱗を投げ当てて落とす。


 ガルルクは外見は完全にアリゲーターガーの形をした魚型モンスターである。

 だがそれ以外は魔法生物とはさもありなんという強力な能力ばかりを兼ね備えたまさしくモンスターである。

 大きさは少なく見積もっても俺の身長の三倍は優に存在しており、下手すれば口だけで俺の身長ほどもある。

 硬い鱗はうっすらと青く輝きながらも黒い光沢を帯び、物理攻撃どころか魔術に対する抵抗力も高く、傷ひとつつけるのだって容易ではない。

 本物の鰐を思わせる不揃いながらも白く鋭い牙は、ダイヤモンド並の高度を持つ黒晶石でさえも切り裂き、背びれや尾びれは刃物の様に鋭い切れ味を誇る。

 その一方で、水生生物に特有の流水操作に長けた特殊な魔術能力を持ち、主に水中に水流を起こすことで水面に落ちた陸棲の魔物や動物を自分の縄張りに引きずり込んで殺したり、水流を強力な水鉄砲やウォーターカッターの様に操って陸棲の動物を撃ち抜くなどの凶悪で厄介な特性を持つ。

 恐らく人間と水中で戦った場合はほぼ無敗では無かろうか。


 そんな怪物を俺は黒晶石とトレントの木材でできたモリ一本で狩ッていた


 はっきり言って俺TUEEEである。単なるチートである。TRPG風に言うなら、マンチカンだろうか。

 ぶっちゃけこんなタイトな世界に来てそんな世界観崩れることしてどうなの?とか思わなくも無いが、別にタイトな世界で死にたいわけでもないし、楽して強く成れるならそっちの方がいいに決まっている。


 鍾乳洞に特有の冷たく澄んだ水の中を泳ぎながら今しがた狩ったばかりのモンスターを引いて岸に上がると、岸辺に置いていた着物と袴を着込み、置いていた刀を腰に差す。 


 この世界に来た当初は慣れない着物を着るのに手間取っていたが、今では慣れたものである。


 侍姿になった俺は、引き上げたガルルクを背負って拠点にしている場所に戻ろうと歩き出したが、そこに一匹の魔物が現れ出した。


 それは巨大な蛇の身体に蝙蝠の翼を生やし、頭にヤギの様に曲がりくねった角を生やした魔物だ。


 この世界では蛇竜じゃりゅう種という分類がされているドラゴン系の魔物であるアンピプテラだ。


 魔物のランクで言えば白銀級シルバー三重装等トリオクラス。つまりは、白銀級冒険者パーティー三組分の強さを誇る魔物というわけだ。


 俺はそんな強大な魔物を見ながら口元を軽くゆがませて腰元の刀に手を置くと、そのまま襲い掛かって来るアンピプテラの頭に向けて居合の一閃を斬り放つ。


 瞬間、アンピプテラの頭はそのまま唐竹割りに両断され、俺は降り注ぐ血飛沫を浴びながら、静かに一閃した刀を納刀する。


「……うへえ。折角洗いものしたばっかなのに、またうねねに怒られちまう」


 とは言え、今日の晩飯は大量だ。狩りの成果としては上々だろう。ガルルクに蝙蝠にアンピプテラ。肉類ばかりで多少辟易するが、それでも食う物に困らない。ということは本当にありがたい。

 ダンジョンの最悪なところは魔物やらモンスターやらが大量に出現するところだが、ダンジョンの最高なところは魔物やらモンスターやらが大量に出現する事でもある。


 ただでさえ薄暗くて狭苦しいところなのに、これで食料が何もない状況を考えると本当に絶望してしまう。


 転生した当初こそ余りにも詰み過ぎた状況に絶望していたが、今となっては幸運の部類だったんだろうな。

 少なくとも今は今日と明日と明後日のことくらいは考えられるこの状況は、まあ良いと言っても過言ではないだろう。


 俺は、頭を唐竹割りにされて絶命した蛇竜を解体しようと腰元の刀をその場に置き……






 その時だった。






 不意に左に分かれたアンピプテラの半身がのたうち回りながら首をもち上げ、そのまま半分にされた頭を振り回しつつ俺に向かって襲い掛かった。

 

 俺は咄嗟にその攻撃を躱したが、その際にどうしても刀とは逆側に飛びざるを得ず、俺は丸腰でこの巨大な蛇竜と戦うことになった。

 完全に油断した。まさか完全には死にきっていなかったとは予想外だ。爬虫類の生命力を舐めすぎてた。


 別に刀が無くなったくらいでこの程度の魔物を相手に狼狽えるようなことを無いが、それでも厄介な状況であることは間違いない。

 俺はどうしたらいいのかを考えながら目の前で最後の悪あがきを続けるアンピプテラを眺めながら、それでも徐々にゆっくりとした歩幅で地面に置いた刀の元へとにじり寄っていく。


 そうして俺が瀕死の蛇竜と睨み合いを続けていたが、



「ふむ。どうやら、調子は良いようだな」


 

 その緊迫感溢れる状況に、不意に凛とした調子の涼やかな女性の声が響いた。






 

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