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プロローグ

この作品は、過去いくつもの新人賞に応募してきました。しかし、どれもいい評価はいただけませんでした。次に評価していただくのはあなたです。

 プロローグ


 そこには果てしない闇しか存在していなかった。全ての光を吸い込もうとする、邪悪で禍々しいフィールドが張り巡らせされている。その世界は一点の光もなく全てを黒一色に染め上げ、何者の侵入も拒み弊害をも与える絶対的な支配者。

 凛とした空気を漂わせながら、冷静にこの時に味わう安らぎを感じつつ規則正しい呼吸を繰り返す。

 コツ コツ

 静寂という絶対の力を誇示する中に突如闖入する不協和音。一定の律を掻き乱し、徐々に進行していく負の力。その力は反響を繰り返し、無数に降り注ぐ雨音のように空間を埋め尽くしていく。

「ふぅ、この学園は謎が多すぎる。一体、これまで何部屋に侵入したことか……」

「えぇっとですね〜、もう、15部屋になりますぅ〜」

 足音よりも存在感のある二つの声。

 一つは、澄んだ空気のような清潔感ある心地いいもの。もう一つは夏場の素肌に張り付く汗のような、ジトッとした不快感を与えるゆったりとした口調の声。

「二人とも、口を慎むんだ。僕達は何の目的を持って行動しているんだ?」

 ここで戒めの言葉を掛けるオクターブの低い声。その声を受けて、他の音色の違う声は発声を一端止める。それは、自分よりも地位の高い者に従順に従っているようである。

「分かっているリッド。自分達の目的ぐらい承知してる」

「マリー達の目的は、とっても危険な魔術の記されたレポートを見つけることですぅ〜」

「その通り。僕達は、そのレポートを手にするため行動をしている。学園の関係者に気づかれることなく隠密に。例え、闇に閉ざされた室内だろうと完全に人気がなかろうと、慎重に冷静な判断をしなければならない。そのことは、常に頭に置いていて欲しい」

 オクターブ低い男の声は諭すと、暗闇の中で手の平を差し伸べ手の平にピンポンほどの大きさの発光体を浮かべる。

「うわぁ、とっても明るいですぅ〜。みんなの顔が見えますぅ〜」

 発光体の放つ温かな明かりの中に浮かび上がる三人の若者の顔。発光体を浮かべた青年は、鼻筋の整った欧米人で金色に煌めく髪に、グリーンの色素が定着した瞳は完全に黄色人種ではない。両脇のカールが特徴な少女は、セミロングで栗毛色の艶やかな髪を光に晒しながら、円らな碧眼の瞳で浮かぶ発光体を見つめる。そして、唯一の日本人である彼女は、美の象徴であるかのように長い黒髪を伸ばし、自分の感情を表に出させないよう左目を前髪で隠している。

 三人は発光体を囲むかのように床の上で体勢を低くしている。他の侵入者に気づかれぬよう配慮しているものの、暗闇に閉ざされた室内を何らかの発光するものがあっただけですぐに見つかってしまう。誰も来ないという低確率の博打を打ちながら、彼らはあるものを求めていた。

「よし、手早く捜索に移ろう。いつ何時、誰かが入ってくるか分からない」

「いい加減、探すのにも飽きた」

「そうですかぁ〜? マリーはいろんな面白いものを発見できて楽しいですよぉ〜」

 互いの声が聞こえ、互いの顔を伺い知れる距離の中、三人は行動に移ろうとしていた。

そこへ、

「……先生、この部屋なのか?」

「はっ、はい、間違いないと存じます」

 不意に聞こえてくる上下関係の明白な二つの声。一人は重々しく年輪を重ねた男の声で、

もう一つは媚びへつらう腰の低い男の声である。暗闇に紛れ、こそこそと行動をしてる人物の目的は一つ。関係者に気づかれては困るようなことをこれからするのだろう。

「和鍋先生、厚かましいことかもしれませんが、この学園にそのようなレポートが存在なさると御思いなのですか?」

 言葉の端々に、控えている男に対しての畏怖がありありと浮き彫りになっている。そのように思うまで、敬服している男は偉大な人物なのだろうか。

「何を寝ぼけたことを。私は、この場所にあると信じているからこそ、何十年も間勤務しているのだ。何が楽しくて餓鬼達に教鞭を揮わねばならぬのだ? あのレポートが存在してるという確信があるからこそ、私は探している」

 人を見下し配下に置くように、和鍋という人物に乗った男ははっきりと断言する。

「でっ、ですが、もう何十部屋と地下の研究室を捜索したじゃないですか。最近、教師達の間でも風当たりが悪くなる一方ですし、成果の出ない捜索なんてするだけ無駄です」

「何だと! 貴様、私の恩情を裏切るつもりか! 私がこれまでお前にどんな利得を与えてきたと思っている。私がいなければ、貴様など一生生徒よりも劣る存在だったはず。それを、わたしが拾い上げ一端の教員に育てたというのに、恩を仇で返すとはな」

 言葉の圧力で腰の低い男を窮地に追いやる。それはまるで権力を笠に着て弱者を圧制する者のように、自分の思い通りにならない人物に圧力を掛ける。

「そっ、そんな、滅相も無い。ぼっ、僕が言いたいのは、更に慎重に行動をしなければいけないということです。このような行為が学園長の耳にでも入ったら、即解雇処分にされてしまいます」

「フン、あの老いぼれに何が出来る。役職は偉いが、魔力なら私のほうが遥かに上回る。いざとなれは、脅しでも何でもすればいいこと。さっ、無駄話は終わりだ。探すぞ」

 ここまでのやり取りを物陰に隠れ聞いていたリッド達。自分たちと共通するものを探していると同時に、まだ探しあぐねていることを理解する。

「和鍋か……あいつも探しているとなると、一刻を争うな」

「あいつの手に渡ると、どうなるか分からない」

「マリー、あの先生嫌いですぅ〜」

 暗闇の中、互いの気配だけを察知して言葉を交わす。

 自分達の他に探している者達の存在を確認したリッド達。それは、同時に見つかるのは時間の問題であることを物語っている。

「……必ず、僕らで探し当てるんだ」


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