第一話
この世界というものはなんて退屈なんだろう。皆卑屈で長いものに巻かれ、集団に個を埋没させ、声の大きいものを信頼する。
学校なんてその典型だ。なんなんだあいつらは。ブス女と付き合ってるくらいで調子こきやがって。自分らが青春を謳歌している特別な存在とでも言いたいのか??…と言いたいところだが、こんなことを言っても負け惜しみにしかならない。これは悲しいが学校というものは社会の縮図だ。あのリア充共は将来どうなるかはわからないが、俺は十中八九つまらない人生を送るだろう。オタクの癖になんの芸もないクズ人間だからな。
キーンコーンカーンコーン
「おい!購買行こうぜ!!」
「抹茶オレ入荷だって!」
クラスの面々が購買に向かう。俺は元々スーパーで買った安売りのパンを食べる。この献立は何回目かな?栄養バランスは壊滅的だろう。
どんどんクラスメイトが教室から出ていく中で、最後に残されたのは俺と女子生徒の二人だけだ。
陰キャラとしては辛い場面だ。なんでそれも女子と。一人の至福の時間をぶち壊された気分だぜ。
女子は俺の方を見ている。
なんだってんだ!おれと二人っきりなのがそんなに嫌なのか?俺に出てってほしいのか!?クソッ!!
すると女は微笑んだ。
こちらに向かってくる。
「ねぇ?隣良いかしら?」
はぁ?なんで俺の隣なんかに来るんだ!?
俺は脳裏に焼き付いた言葉とは正反対のことを口から発した。
「えェ…ドウゾ…」
「ありがとう…ねぇ竹林くん!」
「ハイ…竹林です…」
「私のこと知ってる?」
「ソソ…そりゃあ…もちろん。榎本さんですよね??」
「覚えてくれて嬉しいわ…ねぇ…竹林くんって、映画…好きでしょ?」
凄く複雑な質問だ。好きか嫌いかは聞かれたら大半の人間は好きと答えるのではないか?
「ま、まぁ好きですけど…」
「なんの監督が好きとかあるの?」
「あの…黒澤明…とか…」
おもわず適当に言葉が出る
「うーん私は、スピルバーグが好きかなぁ、スピルバーグ、夢があるからね」
榎本は髪を撫でながら俺に横顔を見せた。それに対し愛らしさを覚えたのか俺は衝動的にか
「あっあぁ…俺も好きだ…」と言ってしまった。非常に悔しい!俺が三次元の女に発情するなど…
「竹林くん、放課後に体育館裏に来てくれない?一緒に行ってほしいところがあるから」
「は…はいィ…ゼヒトモ…」
まったく、女に声をかけられるのなんて何ヶ月ぶりだ?何があるのか怪しさが凄いのに受諾してしまったぞ!まぁ嫌な気はしないんだがな…
授業が終わり、なんともまぁ悲しい秋の風が吹いている あの女は本当に放課後裏に来るのか?まさか告白とか?まぁ顔は良いから言われたら断ることはないけど、けど俺に惚れる要素なんて何もないぞ?もしかしてアレか?ダメ男は母性本能をくすぐるとかいう…
「竹林くん…待ってた…来ないかと思ったけど、」
「で…で御用とはなんですか?」
「うん、あのね竹林くんにやって欲しいことがあるの。」
彼女の答えが俺の期待したものとは異なっていたことに、俺は少しばかり脱力感を覚えた。
「やっ…やってほしいこととは?」
「うん、私とね。一緒に映画を見に行ってほしいの。」
前言撤回だ。脱力感は抜きだ。つまりデートということだな。
「だから、一緒に来てくれる?」
「も…も…ももちろん!」
しかし一つ頭に疑問がよぎる。それは何故俺を選んだのかということだ。
「しかし…なんで俺なんだ??俺以外にもいっぱいいるだろう??俺なんてスポーツも勉強もできないし、榎本さんと会話をしたのも今日初めてじゃないか!」
「うん、それはね、竹林くんに特別な力があると思ったからなの。」
はぁ?なんだそれ、アニメか?一気に拍子抜けだ。デートじゃないのかよ。まったく、つまらない中二病茶番につきあわされるほど俺は暇じゃないぞ。
「私ね。見えたの。前竹林くんが理科の授業中、実験の菜箸でハエを掴んだでしょ…?それもコバエ!そのときにこの人は何があるって感じたの。」
あぁあの時のか。俺はギネスレベルのことをしたと思うのだが、誰の目にも触れなければなんの意味もないと思ってた。
「え!俺以外にも見ていた人がいたなんて感激だなぁ」
「うん!あれベスト・キッドのオマージュよね?その時に余程の映画好きと超能力を兼ね備えていると実感したの。この人しかいないって。」
「そ…そうだね。あれはベスト・キッドの情景が頭に浮かんだんだ。それで、突発的にね」
な…なるほど!!あの記録は伊達ではなかった!ベスト・キッド、ジャッキー・チェンの映画か!よくわからんがあの時の菜箸は無駄ではなかった!つまりそれで俺と一緒に映画デートがしたいと感じたのか!!
「じゃあ、一緒に行きましょう!映画館!」
「え!!今から!?流石に日程を決めたほうが良いんじゃないか!?」
「ううん、私の家がね、映画館経営してるの。だから私の家に来て?」
はぁ??なんてことだ