表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋ではなく

作者: belgdol

 お嬢様はヘンデル王国四侯爵のうちの一つ、メーデル家の嫡子だ。

なぜ女性なのに嫡子なのか、といえば旦那様と奥方様が御年を召してからの唯一のお子様で。

それ以上の御子を見込めまい…という事情からだ。


「あんどりゅー、あんどりゅー。あのね、ないしょのおはなしがあるの」

「何でしょうかお嬢様」

「あのね……わたしおおきくなったらあんどりゅーのおよめさんになるのよ」

「そうですか。それは嬉しゅうございます」

「うれしい?ほんとうに?」

「はい。それはもう。感激のあまり胸が張り裂けそうなほどです」

「うふふ!やくそくよ!」


 無邪気に笑うお嬢様。

えくぼの浮かぶ可愛らしいお顔は砂糖菓子のようで、甘やか。

何かとメイドではなく私を頼ってくるお嬢様は、本当に愛らしく、愛おしい。


 だが私は一介の従卒。

お嬢様が戯れに発する結婚の約束も、受け流さなければならない。


「ねえアンドリュー。私との約束を覚えている?」

「はて……今度の週末に城下で評判の甘味を買ってくるという……」

「もう、それではなくて……私がもっと小さいころの……」

「申し訳ありませんお嬢様。お嬢様が小さいころのお約束となると少し記憶が」

「……そう」


 寂し気なお嬢様のかんばせ。

私はそれに気づかないふりをする。

お嬢様は、そろそろ社交界にデビューする御年。

古い約束など忘れて頂かなくては。


「アンドリュー、アンドリュー」

「はい、どうなさいましたお嬢様」

「あのね、舞踏会でお父様にデルツ家の次男様と引き合わされたの」


 ちらり、ちらりと私の反応を伺うお嬢様。

ああ、愛おしい。

でもそれは駄目なのです。


「素敵な方でしたか?」

「そうね……整った容姿に紳士的な態度で……一緒に居てとても安心できるお方だったわ」

「このアンドリューと居るよりもですか?」

「それは……アンドリューの方が」


 雪のような頬を染めていうお嬢様。

ああ、愛おしい。

でも違うのですお嬢様。


「僭越ながら私はお嬢様の兄のような立場でいさせて頂きましたからね。次男様と御目通りするたびにこの私めより、その安心は大きくなっていくと思いますよ」

「なんで、そんなことをいうのアンドリュー」

「はっきりと言わせていただきます。私もお嬢様をお慕いしております」

「なら、なんで私の想いを打ち砕くような言い方をするの?」

「私は「家族」としてお嬢様をお慕いしているのです。不敬ですが、一人の女性としては対象外なのです」

「……バカ!」


 それからしばらくお嬢様は私をお傍に召しませんでした。

ですが時が経つにつれて自然と私を以前の様に連れまわすようになり。


「アンドリュー。なんだか貴方の気持ちが解ってきたわ」

「私の気持ち、とは?」

「恋をするのではなく、ただそこに居てくれるだけで心が安らぐ。そういうことなのね」


 微笑むお嬢様。


「はい。そういった気持ちでございます」

「なら、いいわ」


 お嬢様は、来年の春にはデルツ家から婿を取る。

私も従卒から家令見習いとしての勉強を本格的に始めるつもりだ。

恋ではなく、愛なのです。

お嬢様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ