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誰が駒鳥殺したの?

「ごめんね」


 寝ていたと思った彼女から、突然呟かれる。彼は驚いた様子もなく、ただ寝言かどうか確認する為スマホから彼女の背中に目を移した。


「どうした?」


 彼女が特に動いたわけでもないが、彼は確かに彼女が起きていると確信して話しを聞いた。彼からの優しい問いに、ようやく彼女は動きを見せる。薄い掛け布団を肩までかけ直す、拒否にも似た仕草。


「芝居……続けたかったよね」


 思いもよらない事だったのか、彼女の真剣なトーンとは裏腹に、彼の口から笑いが漏れる。


「なんで?」

「だって」


 彼女が勢い良く寝返りをうつ。一瞬だけ目線が混じり合う。暗くても互いの気持ちを読み取るのに十分な光量だった。すぐに彼女は目を逸した。


「あんなに、才能あるのに」

「無いよ。そうやって言うの、君だけだよ」


 どれほど彼女が伝えても彼は否定するばかりだった。彼が初めて舞台に立った後に伝えてから、ずっと。


「そんなに言うなら、君だって作家にならなくて良かったの?」

「それは……」


 趣味で出来るから。と、言おうとして、彼女は口籠る。どうしよう。これ以上この話題を続けたくない。

 気付いてしまった。台本作家という夢をなら、ネットでいい。演出したいわけじゃない。『台本を貸して下さい』の一言で満たされる。

 でも舞台俳優が夢なら。

 舞台俳優とドラマ俳優の区別もつかない人が殆どで、劇団どころか舞台すらない、こんな田舎で何が出来る?

 地元で高卒で就職してしまった彼女が今更都会に行って何が出来る?

 彼の才能を応援するなら、別れが必要だ。


「不安になった?」


 ふいに髪を撫でられ、彼女は彼を見上げた。


「マリッジブルーってやつ?」


 心地良さに目を瞑り、罪悪感を深くに押し込んだ。


「……そうかも」

「大丈夫。明日は世界で一番幸せにしてあげる」

「明日だけ?」

「明日から。ずっと」


 笑い声をあげながら彼は掛け布団ごと彼女を抱きしめた。

 強く強く。


「だからもう寝よ。主役の花嫁が隈作ってたら駄目でしょ」

「そうだね。……ありがとね。旦那さま」

 

 そうだね。ごめんね。旦那さま。


 

 

 

 

 

  


誰が駒鳥殺したの?

それは私とスズメが言った

私の弓で 私の矢羽で

私が駒鳥殺したの

 

 

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