フォトショップで加工していますね
「フォトショップで加工していますね」
日曜日の終わり際を惜しんでいた沖野祥太朗のアカウントに、いわれのないリプライが飛んできた。
そもそもどこをどう見たら、加工しているように見えるのだろうか。
放置することもできたが、無視する前にきちんと訂正しようと返信を書き始めた。
「こんばんは。@antnvlst0220さん。フォトショップで加工しているとのことでしたが、ぼくはそんなことしておりません。そもそもフォトショップで加工する必要性や意味を僕が理解できておりません。どこを見てフォトショップで加工したものだと感じたのでしょうか。教えていただけるとうれしいかぎりです」
穏便に、穏便に。沖野は揉め事が好きなタイプではなく、どんな言いがかりに対してもやや低めのゆるやかな優しいボールを投げ返すようにしている。
向こうもずっと張り付いているのか、返信はすぐに返ってきた。
「いや、フォトショップで加工していますね?」
沖野は頭を抱える。
子どものころ、こんな感じの言い合いをしたことがある。このままだとおなじ話の繰り返しになる。唯一ちがうと言えば、こんどは疑問符が付いたことぐらいだろう。
どう答えていいものかわからず、沖野は似たような話をすることにした。
「@antnvlst0220さん、僕はとてもミステリーな気分です。これまで十年以上も作品を作り続けてきましたが、フォトショップで加工していると言われたのは@antnvlst0220さんが初めてで、僕はすこし動揺しております(続)」
「(承)ほんとうにフォトショップで加工していないし、どうしてフォトショップで加工していると感じられたのかも不思議です。フォトショップで加工するメリットが、僕にはありません。それは別に僕に限ったことではなく、他のかたの作品もおなじだと思います」
書いているうちに勢い余って、ふたつも返事をしてしまった。
情報を分断するのはあまり気持ちよい返信ではない。
失礼か失礼ではないかと言えば、沖野にとってそれは失礼に思えた。
「いや沖野さん大抵のプロはフォトショップで加工しているもんなんですよ。わかりますか。ゆえに沖野さんもフォトショップ罪確定ですね」
沖野はいわれのないフォトショップ罪に確定されてしまった。
これ以上、マウントポジションで言われ続けるのは我慢ならないと判断し、沖野は、ふだん絶対に言いたくないことばを打ち込んで、返信をした。
「いいか、フォトショップだかなんだか知らないが、俺は小説家だぞ!」