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第1話『世界という白いキャンパスで』

 ―世界という白いキャンパスで―



 人にはその人の色というものがある。

 熱い奴なら『赤』、冷めた奴なら『青』こんな感じだ。

 なら俺は何色になるんだろう。

 俺のことを色に例えるとするなら『白』だ。

 無色、無個性。これが俺につけられた色。この白いキャンパスのような世界で誰にも気づかれないで他人の色にただ埋もれていくだけの人間。


 四月、入学式の日の朝こんなことを考えながら電車に揺られていた。

 周りに同じ制服の生徒はいない、理由は寝坊し式には間に合うがHRには確実に間に合わない時間の電車に乗ってしまっていたためだ。

 電車から降りて学校まで軽く走って向かう、学校までは歩いて五分で式まではまだ三十分もあるのでそんなに全力で走る必要もない。

 校門の前に着き中に入ろうとすると金髪の少女が出てきた。

 彼女の髪色はギャルっぽいとかそういった印象を与えない、まるで元から金髪だったようなきれいな色だった。

 歩いてくる彼女の眼から涙が落ちるのが見えた。

「あんたも新入生だろ、式には出ないのかよ。」

 下を向いていた彼女は俺の顔を見て少し驚いたような顔をして少し間をあけて答える。

「・・・・・・私は・・・・・・この学校に通う意味はないから。」 

 帰ろうとする彼女を引き留めなければ、そういった感情が出てくる。

「学校なんてそんなもんだろ。意味なんて通っている間に分かってくるんじゃないのか?」

「・・・・・・そうかもしれないわね、でも私はもう決めたから」

「そうか、あんたがそう決めたんなら仕方がないな」

「それじゃあ、一人でもこの高校で知り合いができてよかった。それじゃあまたいつかどこかで」

 彼女はそう言って泣き顔を無理やりしまい込んで笑顔を俺に見せて帰って行った。

「『白』・・・・・・」

 彼女はとても『白』かった。

 そんなに長い会話をしたわけではないがなんとなくそう思った。しかも俺とは似ても非なる『白』だった。

 彼女の『白』は、この白い世界でもしっかりとわかる、穢れを知らない純白、誰にも邪魔のできないそんな『白』だった。

 去っていく彼女の背中を見つめているとHR終了の時刻かチャイムが鳴ったので自分のクラスを確認し教室まで走る。

 式が始まる直前に間に合ったが、式の最中は隣の空席と彼女のことで頭がいっぱいだった。



 五月、朝のHRの前、新しくできた友人とたわいもない会話をしている中チャイムが鳴った。

「はーい、席に座れー」

 担任が教室に入ってくると一斉に女子たちはひそひそと話し出した。

「ったく、一ヵ月たって顔なんて見慣れてるのにお前の兄貴の人気はまだまだ冷めませんね。今じゃうちの学年のほとんどの女子が『渡辺先生ファンクラブ』の会員らしいぜ」

 俺の斜め前の席の男子、野田恭介が話しかけてきた。

 こいつとは席が近く、高校に入って初めてできた友人だ。

 野田の色はチャラいのとやたら明るい性格が『黄色』だ。

「そうだな、昔から周りに好かれる奴だからな」

「星次も普通にかっこいいけど渡辺にはかなわないからなぁ、お前も髪の毛とかちゃんとセットして女子と仲良くしてれば全然勝てるだろ」

「別にモテたいとかあんま興味ないし」

「相変わらず冷めてんなだな」

「そこーHR中だから静かに」

 怒られてしまった。まぁどうでもいい。あちらも気にせずにHRを続ける。

「今日の欠席も・・・・・・羽島と吉岡か、んじゃあHR終わり今日もがんばれよ」

 HRが終わりクラスのみんなが一斉に散らばる。

 再び野田が話しかけてきた。

「今日も来ねぇなこの二人」

「だな」

 俺の隣の席の羽島雛と、前の席の吉岡寛人とか言ったかな、この二人は入学式の日からずっといない、いわゆる不登校というやつだ。

 他のクラスには入学式の日には欠席がいなかったので、あの日会った金髪の彼女はおそらく俺の隣の席の羽島雛だ。

「もう俺の隣は星次みたいな感じあるしな」

 うちの学校の授業はやたらと隣の奴と一緒に考えろというのでいつも隣のいない俺と野田は席を移動して隣になることが多くよく話すようになった。

「っていうかこの二人って学校こなくて大丈夫なのか?」

 さすがに一ヵ月丸々来なくて進級できるのだろうか、すると一人の女子が話しかけてきた。

「うちの学校って各教科のテストの点がそれぞれ上位三位に入ると入った教科は授業の欠席を免除されるんだって、それでこの二人はこの前の新入生テスト全教科一位と二位をとってるんだよ」

 このふたり新入生テストどこかで受けてたのか。っていうかその制度初耳なんだけど。

「そうなんだ、教えてくれてサンキューな」

 その女子は顔を赤らめてどこかへ去って行ってしまった今の女子は『桃色』って感じだな。青春してそうなザ・女子高生って感じだった。

「やっぱりイケメンですなぁ星次君は」

「なんでそうなんだよ、ってか今の奴名前なんだっけ?」

「そろそろクラスの奴の名前くらい覚えろよ」

 野田が呆れた顔をして手帳を出す。

「今のは出席番号十三番の立花咲菜ちゃんうちのクラスでかわいい子ランキング四位学年ランキングだと十六位の美少女だ、ちなみに噂によると星次のことが気になっているらしい」

 その手帳に何かいてあるんだよ。

「お前もう全員の名前覚えてんのかよ、っていうかかわいいランキングってなんだよお前の独断と偏見か?」

「まぁクラスの奴は全員覚えてるし学年も女子は全員覚えてるよ、クラスのかわいいランキングは男子のクラスラインで作ってたじゃん学年は俺の独断と偏見」

 そんなんやってたのかうるさいから通知オフにして既読だけつけて終わった気がする。

「そういえば羽島さんのもランキングあるのか?」

「ないよ、多分星次しかちゃんと顔を見てないんじゃないか?恋愛とか興味ないとか言ってるくせに羽島さんに夢中なんだから」

「そんなんじゃねえよ」

「だってそうじゃん、入学式終わって教室帰ってきた瞬間に羽島さんのこと俺に聞いてきただろうが」

「確かにそうだったけど、別に恋とかじゃない、ただ・・・・・・」

「ただなんだよ?」

「彼女と俺は、似ている気がしたんだ、それだけだよ」

「立花みたいに可愛い子に好意を寄せられてなんとも思わないのかよ?」

「別に恋愛に興味がないだけで、可愛いとかは思うぞ」

 立花だって別に可愛くないとは思はないむしろ可愛い方だとは思うが付き合いたいとかは思はない。

「正常な男子高校生ならあんなに可愛い女の子に言い寄られたら少しは気になったりすると思うんだけどな、やっぱ星次って女慣れしてるの?」

「まぁ義妹もいるし慣れてないわけじゃないかな」

「星次って妹なんていたの?」

「義理だけどな、仲悪いけど話さないとかじゃないし、女子と話すのは全然苦手じゃないよ」

 高校に入ってからもさっきみたいな必要最低限の会話はしてるはずなんだけどな。

「なるほどな、でも星次そんなに女子と話さないじゃん」

「男子と話してる方が面白いからな」

「星次ってやっぱり男が好きなの!?」

「んなわけあるか」

 そんなくだらない会話をしている間に一時間目の開始のチャイムがなったので各席に着いたのだが、始まってすぐに野田の隣に移らされてしまった、いい加減来てくんねぇかな、野田の隣は話しかけてきてまったく授業に集中できない。

 

 放課後のHRでテスト明けに行く遠足の話をされた。

「もうすぐ中間かよ。この前新入生テストやったばっかじゃん。」

 野田が嘆いていた。

「まぁテスト終わったら遠足もあるし、ゴールデンウィークもあるしいいじゃん。」

「その遠足も問題なんだよ。」

「なんで?」

「貼り出されてあった遠足の班みてないのかよ。お前の兄ちゃんが班考えるのめんどくさいからって席で近い四人組だってさ。」

「席で近い四人ってもしかして俺とお前と羽島さんと吉岡君の四人ってこと?」

「そうだよ。このままいくとお前と二人で夢の国デートだよ。」

 野田がはぁーっと大きいため息をつく

「まじか、なんで遠足まで野田と二人で行かなきゃなんないんだよ。」

「そこまで言う?俺と星次の仲じゃんかぁ」

「鬱陶しい、お前もさっきまで嫌がってただろうが。」

 そのあと野田は部活へ向かい、俺は帰宅した。

「ただいまー」

 って誰も帰ってきてるはずないんだけどな、家事をある程度終わらせてから軽く勉強していると兄が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま、夕飯は?」

「もう温めれば食べられるようになってるからけどどうする?」

「じゃあ先に飯食う。」

 あらかじめ用意していた夕飯を温め、盛り付けて二人で食卓に着く。

「お前が来てから本当に楽になったよ。」

「住まわせてもらってるからな、これくらいはしないと悪いし」

 俺は去年、親父が再婚をしてから兄貴の家で暮らしている。新しい家族ができるのには反対じゃなかったけど、やはりうまくいかずに当時から一人暮らしをしていた兄の家に家出してきた。

「別に気にしなくてもいいって、急に年の近い女の子と急に一緒に暮らすのはさすがに恥ずかしいもんな」

「そんなんじゃねぇよ」

 家出したのは妹が原因というわけではなかったけど、確かに面識のない一つしたの女の子と一つ屋根の下で暮らすのはちょっときついものがあった。

「優佳可愛いんだし、血も繋がってないんだから狙っちゃえばよかったじゃん」

「そういうわけにはいかないだろ」

「うぶだな、お前も」

「ほっとけよ、そんなに言うなら兄貴が狙えばいいじゃんあっちだって兄貴にはなついてるし」

「俺、年下には興味ないから」

 今の言葉をこいつのファンクラブのメンバー全員に聞かせてやりたい。 

 渡辺誠也、兄貴のことを色で表すとしたら間違いなく『黒』だ。

 生徒にも他の教師にもいい顔をしているが、腹のうちは誰にも見せないし、何を考えているのかは弟の俺にも見えない。 

 まぁ悪い人間ではないんだけどな。

「ていうか教師が年下に興味がある方が問題だろ。」

「確かに。でもファンクラブまであるんでしょ?」

「らしいな、ほんとにどうでもいい。団地妻とかの方がいい。」

 真顔で何を言っているんだこの教師は。

「教師が不倫の方がダメだろ。・・・・・・そういえば話変わるけど今度のテスト明けの遠足って羽島と吉岡が来ないと俺と野田の二人で回らなきゃいけないの?」

「そうだな基本的には班の奴らと行動してもらいたいからな」

「マジか、じゃあ野田にもそう伝えておく」

「ちょっと待て」

「なに?」

「お前らも初めての遠足で男二人っていうのは嫌だろう」

「そうだけど」

 何が楽しくて男二人で夢の国に行かなくてはならないんだ。

「そこでだ、お前に頼みがある」

「俺に?」

 嫌な予感がするけど居候の身なので兄の願いを邪険にすることもできない。

「単刀直入に言うと羽島と吉岡のことを学校に連れてきてほしいんだ」

「ごめん無理」

 居候の身でも聞けないお願いくらいある

「もうお前しか頼ることができないんだよ、頼む。一生のお願いだ。」

 兄貴の一生のお願いを聞くのはこれで三回目だ。過去に二回俺のお年玉を貸してやったことがあるが、その時も一生のお願いという言葉を使っていた。

「兄貴の一生のお願いってなんかい使えるの?」

「過去の分は利息をつけて返したからチャラだ!」

「分かった。やってみるけど連れてこれるなんて確証はないし、自信もないから失敗しても文句は言うなよ」

「分かってるって」

「ってか兄貴がこんなこと頼んでくるなんて珍しいな」

「俺だってやれることはやったよ、でも吉岡君は友達ができる気がしないとか言い出すし、羽島さんは全然会ってくれすらしないから、どうしようもないんだよ」

 兄貴でもあってくれないとか俺なんかに会ってくれるのか。

「それに山田先生からの圧力が半端ないんだよ」

 山田先生とはうちの学校の体育教師で生活指導の担当教員だ教師なのにチャラチャラしている兄貴のことが嫌いという話を前に野田から聞いた覚えがあったが本当だったのか。

 山田力也は『赤』だなドラマから出てきたような熱血教師だ。

「あの先生うちの学校の成績優秀者に与えられる授業免除のシステムが嫌いらしくて、『頭がいいからって学校に来ないのは学生としてどうなんだ』っていつも職員室で言ってるんだよね、しかも俺に聞こえるように」

 言いたいこともわからなくはないけど学校に来なくても成績が一位なら本当に学校に来る意味もないんだろうな。

「だから頼む。明日の放課後遠足に行くかどうかの承諾の書類を配るんだけど行くにしろ行かないにしろ絶対に提出しなきゃいけないからその手紙を二人の家まで届けて欲しい、ついでにその時に説得をしてくれ」

 まぁやれるだけやってみるか


 翌日の放課後、渡された手紙と住所の書いてある紙を持って二人の家へ向かった。羽島の家には夕方の五時以降からじゃないといけないみたいだから吉岡の家から行けばいいか。

 兄貴からの情報によると、中学時代クラスの男子たちにいじめを受けて以来学校には行っていないと言っていた。本当にこんなやつ学校に連れていくことは可能なのだろうか。



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