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執行官

エーゲ平原。

 ここで扶桑連合国軍第五旅団とアリア国軍第十二師団が遭遇、大規模な戦闘が始まった。

 その中で一つ、異色を放つ部隊があった。それを指揮するのは将校付補佐官である女性中尉。彼女は旅団長の命により、アリア国軍との戦闘のため、前線に赴いていた。

 そして、その戦いで彼女は魔女と呼ばれる。

 ー序幕ー 


「全く、奴等と不意に遭遇した時はヒヤヒヤしたが…相手がコンティディンの無能で助かったよ。」

 アリア国軍の第十二師団団長、オットボール少将は目の前の平原で行われている扶桑連合国との戦闘を眺め、こう呟いた。

 「ええ、奴は扶桑連合国軍でも唯一の無能ですから…しかし運がいいですね少将。こうして楽に戦果を上げることができるんですから。」

 そう隣の補佐官が答えたとうり、扶桑連合国軍の第五旅団総勢五千のうち半数以上が戦死又は負傷し、戦闘力を失っており、旅団長である愚将コンティディンの指揮でその数を減らしていた。

 あと数十分で敵を殲滅できる…そうオットボールは思った。その瞬間味方先頭…つまり敵本陣の近くで爆発音が響いた。

 「お、また敵の戦車をやったか?」

 そう言いながら双眼鏡を覗くとそこには砲塔が吹っ飛び車体のみとなって炎上している自軍のS型中戦車があった。それどころかその周りのG型重戦車やZ型歩兵戦闘車両までもが大破、炎上しはじめ、周囲には煙が蔓延する。

 「な…なんだ、敵の増援か!?」

 「偵察によれば半径五十キロ圏内に敵影は確認されていなかったはずだぞ!?」

 次々と撃破される味方を見て付近の歩兵たちが騒ぎはじめ、動きを止めた。


 そして動きを止めた瞬間に一人の歩兵の首が宙を舞った。


 その首が地面とキスをするのと同時に煙の向こうから雨あられの如く砲弾や銃弾が降り注ぎ、次々と歩兵が倒れていく。そしてそのまま味方の前線の一部を突破した。

 「せ…戦車三両に、歩兵小隊が全滅…それも一瞬で…!?」

 オットボールは悪夢でも見ているかのような気分だった。なにせさっきまで敵を一方的に屠っていた味方の部隊が一瞬でやられ、さらに他の敵部隊の士気がそれを見て明らかに上がり、我も続かんと猛反撃をしてくる。戦場は膠着状態に陥った。

 「こ…コンティディンにあんな事ができるわけが…!」

 すると一人の女が双眼鏡から見えた。黒く少しクセのある髪、白い肌、黒い軍服、鈍色の短刀、そして所々返り血を浴びて真っ赤になっている。そして不気味なまでの無邪気な笑みをその顔に浮かべていた。その後ろから同じような軍服を身にまとい、突撃銃を構え、パンツァーファウストを肩に担いだ男たちが十五人ほどと黒く塗装された多砲型の巨大な戦車が現れる。それを見てオットボールはこう呟いた。

 「悪魔だ…」

 これは奴の仕業に違いない、敵の軍団長は優秀な補佐官と精鋭部隊を連れていると聞いたことがあるから絶対にそうだ。コンティディンの部下は全員が馬鹿では無いということだ。いや、きっと馬鹿なのはコンティディンだけなんだろう。今までの戦いでも敵は少ないながらこちらと互角に渡り合ってきた。

 しかし…しかしだ。彼女は明らかに違う。今までにたった数人でこれだけ戦況をひっくり返すような指揮をする指揮官は一人しか見たことがない。だがそいつは男で女ではなかったし、補佐官でもなかった。いったい奴はなんなんだ。

 そう考えているうちに味方の前線は完全に他の敵部隊たちによって突破されていた。きっとこれも奴が指揮したからだろう…するとその女は近くに落ちていた我軍のライフル銃を二、三丁拾い上げると、数名の兵士と共に敵本陣の方へ消えていった。そこでオットボールは初めて気が付いた。彼女の左腕の袖が風に揺れていることに

 

 ー壱幕ー


 私、大坂ミヤコの後方には私の先ほど私の指揮下に入った204小隊二十人とオ号超重戦車二両が待機している。先ほど指揮下に入ってきたというのは、コンティディンの無能お付の精鋭部隊を無理やり借り受けてきたのである。私たちの目の前には、味方の部隊が敵と激しい銃撃戦を繰り広げている。必死なのか敵味方、双方共に私たちの存在に気が付いていない。好都合だ。

 オ号の戦車長が砲塔側面側面ハッチを開き砲撃準備完了の合図を送ってきたので、撃ての合図を送った。戦車長は了解の合図をすると、戦車内に消えていった。そして次の瞬間、オ号の125ミリ砲が火を吹いた。爆音が響く。続けざまにもう一両が砲撃する。また爆音が響き敵重戦車が炎上する。敵が対戦車兵器のようなものを使ってきたが、オ号のその分厚い装甲に虚しく弾かれるだけだった。

 撃ってきた方向に二両が同時に50ミリ副砲を撃つと、歩兵戦闘車両と思しきものが派手に吹っ飛ぶのが見えた。先ほどまで戦っていた味方の部隊は、最初こそ驚いていたが、二度目からは歓声を上げていた。

 私は立ち上がって地面を蹴った。隊員たちとは打ち合わせを済ませている行動だ、誰一人止めるような素振りはしない。他の部隊はまたも驚いていた。

 煙幕を抜けると間抜けにも動きを止めて炎上する戦車を見ている。私はベルトに挟んでいた短刀の柄に右手を伸ばし、そいつの首を跳ね飛ばした。首を撥ねるやいなや、味方に撃ての合図を出した。瞬間、幾つものの鉛球と砲弾が正面の動きを止めている敵に降り注ぐ。勿論私にも弾は飛んでくるが、全て掠める程度か、軍服の左袖を貫通して、敵に当たるくらいだ。これはとても気持ちがいい

 「Sturmangriff!」

 そう叫ぶと、「おぉ」と叫びながら味方が一斉に突っ込む。敵は完全に油断しきっていたようで、こちらの動きについてこられない。それどころか逃げ出すものもまでいる。他の敵部隊も今の攻撃で混乱し、隙を見せる。味方部隊はこれを見逃さずに、反撃に転じる。前線は完全に膠着状態に陥った。

 「頃合いか…おい、そっちの様子はどうだ?」

 無線機に語りかけると返事が返ってくる

 「はい、本陣には補佐官殿が小隊を連れて行ってくれたお陰で、コンティディンとその取り巻きが数名いるくらいですよ。」

 本陣近くに潜伏させていた偵察兵が本陣の状況を報告してくる。

 「そうか、ありがとう。おい、アーベル!ホルスト!」

 そう叫ぶと、近くに居た204小隊の隊員二人が駆け寄ってくる。

 「例のヤツ、始めるぞ」

 そう言いながら近くに落ちていた敵のライフル銃を拾い、動作と残弾を確認して二人に渡す。私は懐からナイフを取り出し、刃毀れなどががないか確認する。

 「ありがとうございます。あの、補佐官殿はそのナイフだけで良いのですか?」

 「あぁ、私はこういった得物しか上手く扱えないんでね。知ってるだろ?それに、これには面白い仕掛けがあるからな?」

 そういいながらナイフを仕舞うと、懐から拳銃の弾丸を三発ほど取り出して見せると、二人は「ああ」と納得したように頷いた。

 「んじゃ…行くかね」

 私たち三人は本陣に向かって歩き出した。


 


 目が覚めるとそこは床、壁がコンクリートで覆われドアには鉄格子が嵌めこまれており、いかにも拷問部屋ですといった感じの部屋だった。

 そして私はその部屋のど真ん中に上半身裸という格好で椅子に縛り付けられていて、水浸しだった。目の前には私に水をぶちまけたと思われる、いかにも人をいたぶるのが好きそうな痩身の男が立っている。

 「起きたか、全く…手間をかけさせないでくださいな。君には我軍に情報を提供してもらわないといけないんですから」

 男はそう口にして、空になったバケツを放り投げた。私は暫く何があったのかがわからず呆けていたが、体に刻まれた無数の傷や火傷跡をみて自分の置かれている状況を思い出した。

 アリア国軍との戦闘で我が方の旅団が敵に敗北し、私を含む殆どの兵や将校が敵軍の捕虜となった。

 そして旅団所属の将校達が、何か我軍が有利になる情報を握っているかもしれない…という理由で拷問を受けているのだった。

 私の場合は階級は中尉であったこと、その旅団長の補佐官でありその旅団長が死亡…恐らく私が一番の情報源だと睨んだらしく、最高の拷問をしてくれている。だが私はあくまで補佐官だ。そんな重要な情報を持っているはずがないことくらい、少し考えれば解るだろう。現に私は何も吐いていない、どうやらこいつらは能なしの馬鹿のようだ。

 「しかし、鞭に焼きゴテ、水責め…これまでしてもしても吐かないとは。やりますねぇ」

 関心したように男は言う。それに対して私は

 「だから…私は何も知らないただの補佐官だって言ってるでしょう。馬鹿ですか?」

 そう反論して、思いっきり笑ってやった。すると男は頭にきたのか、舌打ちをして忌々しそうに。

 「生意気な……おまえ!アレを出せ!」

 男が言うと、近くに居た兵士が大ぶりの何かを手渡した。

 「さぁて…これを前に…何時までその威勢が保っていられますかねぇ…?」

 そう言って私の左腕にそれを押し付けてきた。ひやりと冷たく、そして鋭く尖った刃のようなものがいくつも付いていた。何かと思って見てみると、それは巨大なノコギリをで、それで今から何をされるのかは用意に想像がついた。

 「じゃ、いきますねぇ?」

 私の体に悪寒が走ると同時に、肉が切り裂かれる痛みが襲ってきた。いや、痛いというよりそれは熱かった。痛い痛い痛い痛い痛いああ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。そう叫びだしそうになってしまうが、なんとか耐えることが出来た。

 が、それは一瞬だけだった。

 皮膚と肉に神経や血管、私の左腕に詰まっているそれがノコギリによって荒く切り裂かれていき、骨まで裂かんとしていた。

 「はっあっが…あっ…あぁあああああああああ!うあっぁああああああああああああ…!」

 身を捩らせ、泣き叫びながらノコギリから逃れようとする。しかし体は椅子に縛り付けられ、椅子もしっかり床に固定されていた。

 「あっははははは!いい声で鳴きますねぇ!もっと聞かせてくださいよ!」

 そう言って男は刃を拗じらせたり、傷口に塩を擦りこんだりしてくる。もう訳がわからないような痛みだった。私に出来ることといえば、泣き、叫び、気絶して、痛みで目が覚め、逃げられもしないものから逃れようとすることしか出来なかった。そんな痛みが数分間続いたかと思うと、急に左腕の感覚が途絶えた。

 何かと思い左腕を見てみると、そこにあるはずの左腕が二の腕あたりから無かった。どこに行ったのかと視線を巡らせると、床に無様な格好で私の左腕が落ちていた。

 「ひ…あ、あぁ…嘘…だ」

 それを最後に私は気を失った。耳には男の笑い声と、私を呼ぶ声がこびり付いていた。



 「ほさか…ぶふっ…!!」

 私が跳ね起きると、何かに思いっ切りぶつかった。何かと思って見てみると、204小隊の隊員…確かイダとか言ったか…が頭を抑えうずくまっていた。大丈夫か?と声を掛けるとイダは「はい」と答え、私に笑ってみせた。

 「いやぁ、補佐官殿がうなされていたので、大丈夫なのかなと思い顔を覗き込んだんですが…まさかいきなり飛び起きるとは…あ、もう本国に着きますよ」

 なるほど、どうやら戦闘を終了して、引き上げるために乗った兵員輸送車で随分と長い間眠ってしまっていたようだ。だって疲れてたしな。

 通常士官ならば個人に結構いい車とか、良い席に座れるのだが、私は皆と話すのが結構好きなのでこっちに座らせてもらっている。お陰でわざわざ時間を作らずとも兵士たちともよく話ができて、指揮に対する不満や改善点などを聞くことができ、色々改善することが出来るので便利だ。

 「もしかして…あの時のことを夢に見たんですか?」

 イダの隣にいた隊員が訪ねてくる。私は「ああ」と頷いた。

 「いつもこうだ、何故か戦闘の後はあれを夢に見てしまう…なんでだろうな」

 そう言って外の方に目をやると、扶桑連合国の本国である扶桑の首都にある連合国軍の本部が見えてくる。しばらくすると輸送車が止まり、降車ランプが開き次々に兵士が降りていく。 それに続いて私も降りると、後続車から何やらコンティディンの死体らしき物が降ろされてくるのが見えた。コンティディン少将は味方を鼓舞するために自ら前線で戦い、味方を勝利に導いたが、敵の凶弾に倒れ、戦死してしまったということになっている。

 私はそれを尻目に、この旅団が所属している第一軍の作戦司令官である本山大将に報告するために数名の兵士と共に本部へと入った。

 大きな木製のドアをノックすると、中から「入れ」と声がする。

 声に従って入ると部屋には高級そうな調度品やらが揃っていて、ドア正面の机に大将が鎮座している。

 「今回の作戦の報告書です」

 そう言って書類を差し出す。大将はそれを流し読みすると

 「今回の戦闘では実に優秀な男を亡くしたな」

 そう切り出した。

 「ええ、実に残念でした。まさかこの凶刃と凶弾に倒れることになろうとは」

 そう言って私は懐からナイフを取り出した。柄の部分には空薬莢が入っている。

 「しかし、その状況下でよく勝利出来たな」

 「いえ、あれは敵が撤退してくれました。勝ってはいません」

 そう訂正すると、大将は気を悪くする風もなく、むしろ笑いこう言った。

 「そうか、そうだったな!ところで、君の新しい仕え先《監視相手》だが…」

 「もう決まっているのですか?」

 「ああ、詳細はこの資料を見てくれ…それと、元コンティディンの配下だった204小隊は君に任せよう」

 「え…あ、了解であります!」

 「うむ、よろしい。では次も頼んだよ…大阪ミヤコ監視兼執行中尉」

 私たちは大将に敬礼をすると、体の向きを変え、退室した。

 その時、資料を少しだけ見たときに見覚えのある名前だったような気がするが、同名という可能性が高いだろう。

 「そうそう、君が補佐する新しい指揮官はたしか女性だったよ」

 ドアの向こうからそう聞こえた気がした。

アドバイス、質問がなどがあればお願いします

技術的な差は扶桑が戦車は第四世代戦車〜第二世代戦車、アリアが第二世代戦車〜第二次大戦時の戦車性能だと思っていただければいいです。銃や歩兵装備、航空機、艦船もそんなかんじです

物量の差は扶桑全軍が有事で五十万、アリアが有事で百十万です。弾薬も戦闘時の一人あたりの所持弾数が両軍同じです。 

 ハーメルンにも投稿しています



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