生活においての役割は性別で決めちゃダメ
馬車の中。ガタガタと揺れている。
「えーと、なんで俺、呼ばれたんスかね」
「知らん。それは姫に訊いてくれ」
「はい。すんません」
鎧で良く分からないが、この人は男なんだろう。しかもこの人ちょっと怖い。
というか姫って誰?知ってるわけない人間に呼ばれるとか怖いよ。何されるの?ナニされるのかな?字面を見れば期待できるね。文字って素敵。
などと現実から逃避してみるも残念、目的地に着いちゃった。
「よし。ついてこい」
男についていく形で城に入ると、
「うわあ……」
すごくお城でした。あれ?なんか全然感想になってないぞ?
ほら、あの、ド●クエとかに出てくる、作りはⅣに出てくるエン●ール城みたいな。すごくお城している感じ。わかりづらい説明になるのは俺のボキャブラリーが少ないからだ。勉強って大事。
そして階段を登って行くと、玉座におっさんと女の子が座っている。多分王様と話に何度か出てきたお姫様だろう。
「連れてきました」
騎士っぽい人が言うと、おっさんが
「ご苦労、下がって良いぞ」
なかなかのイケボである。妬ましい。
「ははっ」
騎士っぽい人はどっかに消えた。しまった、下がって良いぞの時に俺も後ろ向いて帰ればよかった!
今更そう思っても仕方が無い。
ところで何の用だろう。俺はこっちの世界で大したことはしてないし(女の子と会ったとかそういう大したことはあったけど関係ないはず)、何かこの人達の損に、害になるようなことは何一つとしてやっていないのだ。
「えーと、あの、すんません、俺に何か……?」
「あ、いえ、詳しいことは私ではなく娘に聞いてください」
王様の方が礼儀正しい!なにこれ俺よりあなたの方が地位は上ですよ?そういうのなんか慣れてないんでやめていただけないかしら?
「じゃあそこの、ちょっとついてきて」
「あ、はい。わかりました」
そこの、とか言われたことに関してはスルーの方向で進めていく。
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やってきたのは部屋。この部屋は一体どこだろうか。
「ここは私の部屋。じゃあその椅子に座って」
「あ、はい」
え、何?面接か何か始まるの?
「えーっと、今日呼んだのは理由があってね」
でしょうね、そうでもないとこんな新参者を呼んだりしないでしょうね。
「あなたも異世界人でしょ?だからその、あなたの力が必要なの」
「……? どういうことですか?」
俺ってなんかあったっけ?うーむ、逃げることだけには自信があるけれど、他には何も無いから力にはなれないと思うんだけどなあ。
しかし、彼女の話は続き、俺の塵のような理解力と、彼女の少々低めのプレゼン能力で俺が話を理解するのはなかなかの時間を要した。
つまり何を言いたかったのかと言うと、この世界には転生者がよくいること、そいつらが様々な異能なんかを持っていること、最後に重要なのはその力で国力の増加を図ろうとしていること、らしい。
が、俺は転生者などではなく、チート的な何かなんてなければもちろんそれでかっこよくいろいろ救ってハーレムだとか絶対にないことである。いや、ほんとにこの人には申し訳ないけどさ。
「っていうか、そういうのって王様がされることではないでしょうかね?」
こういうのは政治的なものが関わってくると思うのだけど。
「でも私のお父さん、そういうの分からないらしいから。大体王なんて飾り。この国政治は女性の仕事だから。形式的に権力があるのが王で、実質的な権力は王族の女子なのよ。血筋は全部母親から。つまり婿養子に来てもらうってことよ」
しゃ、喋るなあ……。実は1割も分かってない。多分要約すれば彼女が一番の権力者ということだろう。
「それで、どうなの?協力してくれるの?」
「……えーと、協力とか以前の問題で、そもそも俺転生者じゃないですし。ほんと、すんません」
「そうなの?でもあいつあの村にいるとか言ってたのに……」
独り言は誰もいない所か聞こえない位の声量で呟くといいですよ。独り言ばっかり言っている俺が言うんだ。ほら、独り言って指摘されると恥ずかしいよね。だから今の言葉は聞かなかったことにしておく。俺ってばマジ紳士。幼女を愛でるくらいには紳士ですな。これだと別の意味での紳士だろう。
「ま、いっか。えーと、あなた今成年?」
「あ、はい」
こないだ学生を終えました。こないだっていうかこっち来たときやめたんだけどね。でも俺大学受験落ちたから一浪するところだったんだな。そう考えるとこっち来てよかったね。
「身体に不自由なところは?」
「特には無いっす。というより、一体何を訊いてるんですか?」
体力のいることならほとんど無理ですよ?何度も言うが、俺は逃げることだけしかできないんだよ。ちなみに一度も逃げきれた記憶がない。逃げることすらできない感じだった。こんなだから大学受験落ちたんだ。ちょっと反省。
「この国実は徴兵制があるのよ。それであなたになってもらおうと思って」
「え、うわ、無理だわ……」
つい正直な感想が出てしまった。
「どうして?」
あ、なんか断れない雰囲気みたいですね。
しかし、こんなところで折れてたまるか、絶対に兵士なんかなるもんか。俺は平和主義者なんだよ。
「俺、体力知力共にないですし。これでもひ弱な文系野郎なんですし」
ちなみに知力は人並みで面白くもない記録ばかり取り続けた。さすがは俺だ。
運動は、うん、察して。
「……──あ…──ね」
何か呟いている。今度は聞かれない程度の声量だ。学習したな。
「ならいいわ。あなたのいた村に帰すから、目を瞑ってじっとしてなさい」
言われたとおりにする。
そして、彼女が一言発して、そのままぐるぐる回るような感覚に襲われ、脳がなんかぐちゃぐちゃになってしまったんじゃないかと心配になって三半規管は働かず、気持ち悪さと訳のわからなさでむしろ気絶したがましな頃になってようやくその感覚が収まった。
ゆっくり目を開けると、
「も、戻ってきてる……」
もしかして魔法か何かだろうか。良く分からないからいいや。
「あ、お帰りなさい、上田さん」
リナの目の前だった。どうやら帰ってこれたみたいだ。
「ちょっと寝てきていい?」
すごく疲れた。主に最後のあれが。
リナに確認をとって部屋へ向かう。そのまま倒れ込んで、意識を落とした。




