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仲間だ仲間だ!


クルリが俺の部屋に現れたのは、ベリアルとの戦いの翌日のことだった。それも、今回は珍しいことに朝方のお出ましだった。


俺のベッドでうつ伏になり、俺が用意したオレンジジュースをストローでの飲みながら漫画を読んでいた。


「そういえば、俺、前の戦いで二度くらい死にかけたけど、なんでノーダメージなんだ?」


クルリは本を閉じると、なんのことだろう、というように首を傾げる。


「ほら、敵に剣でざくってされたのと、炎で燃えたよね」


「あ、それなら大丈夫」


「なんでだ?」


「召喚士は、召喚の間、召喚獣の命を自分のMPと引き換えに守るの」


「へー」


「召喚獣の消費HP10に対して召喚士はMP1減っちゃうんだけどね」


「へーへー」


「これは、契約書にもちゃんとあって、契約第三条の三項」


 そう言うと、カバンをゴソゴソとあさって契約書を俺にちらつかせる。


無論読めるわけもなく「そ、そうか。じゃあ、向こうにいる時えらく疲れないのは……」と話を切り替えた。


「向こうの世界では常にHP満タン!」


「そりゃすげーな」


  現実ではありえないことを、そういう契約、と一言で片付けられるのはある意味爽快な気がする。ただ、恐らく多少クルリの認識は間違っているように思えた。まずダメージは受ける。ダメージを受けてからの瞬間的な回復であって、要は、なぐられれば痛い。ベリアルとの戦いでは何度死ぬかと思ったか。毎回自爆みたいな戦いは、よっぽどのマゾ属性がないと精神がもたないだろう。


「なぁ、属性にマゾってない?」


「何それ」


あるわけなかった。かなり欲しい属性なのだが。


「属性系のアイテムも向こうにはあるんだな」


「うん、あそこら辺にはないけど、テンダーならあるかな?」


「次の街だっけ?」


「うん」


「あぁぃうの良いな、俺でも装備出来そうだし。鎧じゃ日常で目立ってしょうがない。かと言ってクルリが持ち歩くわけにもいかないしな」


「そうだけど変なんだよね。なんで、あの敵は僧侶のペンダント装備出来たのかな」


「何言ってんだよ、ペンダントなんて気にせず首から引っ掛ければ良いじゃんか」


……


「そうか、そうだね。あと、敵に個別の名前なんてないはずなのに……」


「良いんじゃね? 名前くらいあっても」


……


「そっか、そうだね」


 RPGだったら当然かもしれないが、現実でかんがえれば名前なんて好きにつければ良い。同じ種類の敵が沢山いるならそれを総称しているのは学名みたいなもんで、それこそ個体を識別しづらくてしょうがない。ただ、俺にとって当たり前のことがクルリの世界では違うのだろう。最近は慣れてきてはいるが、やはり不思議な感覚がする。


「そういえば、レベル上がってパラメータどうなったんだ?」


「うん、レベル14、力4、体力6、素早さ8、知恵7、精神5、運81、HP55、MP48」


「おぉ、運すげー」


運のステフリ、初めは適当に出した指示だった。通常のRPGだったらクソキャラだが、俺たちの場合違う。 敵とのエンカウント率を下げ、さらに敵に気づかれる前に発見する。敵の姿を捉えた上で作戦を立てる時間があることが戦術上どれほど有利なことか。この能力一つで現実世界なら常勝無敗の天才軍師様だ。


運の要素はそれだけの効果に留まらないように思う。恐らく、運は戦闘そのものに影響を与え、有利にさせている。こちらの攻撃は当たりやすく、敵の攻撃は当たりづらくなる。これもまた、現実だったらとんでもないことだ。命中率や回避率は攻撃側の練度と用いる武器の精度に影響され、さらには天候や敵のサイズ、移動しているかなどでも大きく変動する。それをまるで無視して単純に率のみが変わるのなら、練度の低い新兵でもベテランと互角以上に戦えてしまう。極端な言い方をすれば、クルリが一人いればミッドウェイ開戦で負けずにすんだというような話だ。


「ちなみに俺のバラメータとか分かるわけ?」


「うーん」というと、カバンから四つ折りに出来る便利な魔法のタブレットを開き、俺を表示させる。


「力6、体力9、素早10、知恵14、精神11、運12、HP27、MP0だって」


「よく分からないけど、それってなんとなく……カスっってことだよな」


「うん、最弱の敵と互角くらい……」


「そっか……」


 モチベーション下がる話だなと思ってがっくりしていると「けど! あんな強い敵に一人で勝ったんだから関係ないよ!」とクルリにしては珍しくフォローを入れるのだった。


「 まぁ、今までの戦い、全部頭脳戦だったしな……」


そう言ってはみたものの、数値化されたパラメータの低さは、1と2ばかりの通信簿のようで素直には喜べなかった。


 ふと、なんで俺のパラメータが登録されているんだろうかと思った。何かと疑問の多いクルリの世界なのだが、俺のパラメータが存在することには妙な違和感を覚える。


「そういえば、ベリアルが言っていたルールブレイカーってなんのことか分かる?」


「うーん、初めて聞いた。なんだろ」


ルールブレイカー、そのまんま訳せばルールを壊す者か。なんのことだろうかと思うが、心当たりがまったくないわけでもない。俺には、向こうの世界の住人は妙なルールに縛られているように思える。ベリアルにしろ、クルリにしろ、機械的に動くだけの馬鹿じゃないし、安っぽい人工知能とも異なる。言ってみればこちら側の人間と何ら変わりがない。それなのに、何かが欠落している。僧侶のペンダントといったって、サイズが合えば装備出来るだろう。こちら側の世界では、女性物の服と定義されていたって男が着ていることもある。例え法律だって、それを破るか破らないかは個人の問題であって破れないということはない。向こう側にもそのような決まり事があるようだが、それはなんとなくRPGの設定に似ていて、ゲームの仕様にないことは出来ないのが当たり前というような感覚がする。俺なんかは、RPGの世界であるなら、あれもこれもと試してみたいことがあるんだがな。例えば、主人公パーティーの人数を制限しないで軍隊式にするとか。


「あ……」


 ベリアルとの一戦で感じた違和感が解けた気がする。


「どーしたの?」


「いや、なんでもない」


敵の方に、俺と同じようなことを考え、それを実現した奴がいるに違いない。 クルリの言葉通りなら、敵に個体名はないはずだ。ベリアルとは、何者が名付けたのだ。思い立ってパソコンの画面を開くと、ベリアルで検索をかけた。ベリアルは悪魔、堕天使の一人とされている。バアルという名前も出た。これも調べると、カナンの地で信仰されていた神だが、旧約聖書では悪魔として登場する。二つとも悪魔の名前だ。これが偶然とは到底考えられない。


「クルリ、バアルって名前の敵はいないか?」


「バアル? 聞いたことない。ちょっと調べてみるね」


クルリが調べたところ、やはり存在しない名前だった。こちら側の世界にしかいないはずの悪魔の名前を知っている、つまり敵についているルールブレイカーはこちら側から来た人間であるということだ。そして、そいつの名はツグミという。俺のオヤジと同じ名前だ。オヤジが失踪して1年近い月日が経っている。昔からよくいなくなる奴だったから気にもしなかったが、俺と同じように向こう側の世界にいるのかもしれない。


もし、あいつが敵に居たら最悪だ。


「ちなみに、ここら辺のボスはなんていうんだ?」


「ゾル・ダスカリアかな」


「そいつ強い?」


「うん、めちゃくちゃ強い。多分、レベル50台くらいないと勝てない。それに、ゾル・ダスカリアには四天王がいて、そっちも強いよ」


「そうか……」


 恐らく、そのゾル・ダスカリアはバアルだ。最悪な情報だった。レベル50というのは恐らく四人のレベルが50で相手は一人の想定だろう。その上四天王とか絶対に強い。普通のRPGだと、何故か個別に戦う謎の中ボスとしてプレイヤーにフルボッコにされるけど、まとまって来られたら相当なものだろう。


 しかし、オヤジという確証はないが、もしそうだとしたら味方ではなく敵につくところがオヤジらしい。個体のパラメータは敵の方が強いのだから、どちらをまとめた方が良いかは明確だ。


「ツグミって奴の名前が出たけど、それも分からないか?」


口にもしたくないオヤジの名前を口にすると、後で厄除けでもしないとなと思った。


「知らなーい。調べてみようか?」


「あぁ、頼む」


「これかな、召喚獣みたい。力8、体力9、素早11、知恵16、精神11、運15、HP24、MP0だって」


「そうか……」


 あいつは天才だ。それも、自分がやりたいことを実現する天才だ。オヤジは、殆ど投資で儲けたようだが、儲けた金で傾きかけている企業を買収、経営を立てなおしてはまた傾きかけている企業を買収、それを繰り返してあっという間に新山財閥を作り上げてしまった。面白そうか、つまらなそうかという価値観で行動するタイプなのだが、その面白いかつまらないかの感覚が歪で、常識では到底理解できない。


もしオヤジが敵側にいるとして、どうやって戦えというんだ。考えただけでゾッとする。味方にするとこれほど心配な奴はなく、敵にするとこれほど不安な奴はいない。正直勝てるビジョンが俺にはまるで浮かばなかった。だからといって、そのことをクルリにどう伝えれば良い? あそこは危険だから帰るな、というのか? そんなこと聞き入れられるわけがない。


「なあ、クルリ、後でこの世界を見て回らないか?」


 そう告げて気恥ずかしくなった。それは、この世界を好きになってもらえれば、いざという時こちらに移住させる話がしやすくなるんじゃないかと思ったからだ。


「え、良いの?」


「あぁ」


「わーいわーい! 行く行くー!」


 はしゃぎ回るクルリを見てまずいことを言ったかもしれないと後悔するのだが、『覆水盆に返らず』という故事成句が脳裏をよぎるのだった。



「お前、本当にその格好で外行くのか……」


「うん!」


 まぁ、今時コスプレも別段珍しい訳じゃないし。


…………


 ちらり。


…………


「だめだ、着替えろ」


「えぇぇぇー? なんでー!?」


「俺が恥ずかしくて死ぬからだ」


「そんなことない! いつも通りだよ!」


「いつもどおりだから問題なんだよ。良いか、お前の格好はこの世界じゃ痛い人なの!」


「ガーン……」


 肩を落としてしょんぼりとする。


「そりゃ、初期の装備ですし、特殊効果もないですし、地味かもしんないですけど……」


 派手だから問題なんだと理解してくれ。


「まぁいい、ちょっと待ってろ。絆に服借りてくる」


「え、絆!?」


 俺が立ち上がると、シャツの裾をくいくいと二度引っ張る。


 散歩前の子犬のように目をキラキラと輝かせる。着替え持ってくるより楽かと思った俺は、首をクイとしてついてくるように合図した。


 コンコン……絆の部屋のドアを叩く。


「絆、いるか、俺だけど……」


 少し時が止まる。嫌な時間の経ち方だった。


「あ、はい……」


 絆の声が聞こえる。部屋を歩くかすかな振動がした。やりづらいな、と思った。その思いが、ドアから俺の顔を背けさせた。背けた先のクルリと目が合う。その目はきらきらと光り輝いていて、なんというか、戦隊物のヒーローショーの開演を待つ子供の目だった。俺の心情なんて知るはずないのは分かるのだが、何かしら感じることはないのだろうか。


 ドアがゆっくり開く。絆は顔だけちらりとする。


「あのさ、クルリが外行きたいって、その、なんか適当な服ないかなって……」


「え!? クルリちゃん?」


 ドアが大げさに開け放たれた。


 絆はキョロキョロあたりを見渡す。俺の後ろに控えていたクルリと目が合うと「あーーー!」と声を上げた。


「わーーー!」


 クルリは、俺を押しのけて絆に抱きつく。二人は、久しぶりに出会った旧友のようだった。このまま絆のとこに置いてこう、そう思いつくと俺はそっと足を引いた。


「で、マモルさんどうしたの?」


 ち、さっきまでの警戒心はどこにいったんだよ。


「あぁ、クルリが着れる服ないか?」


「服? どうして?」


…………


「外、連れてってやろうかなと思ってな」


「きずなー、ひどいんだよ! 私の格好が派手でえぐくてきもいって言うんだよ!」


「誇張すんな!」


「マモルさん! デリカシーのない男の人は嫌われますよ!」


「そうだそうだ! マモルのばか!」


「前から思ってましたけど、だいたいマモルさんは頑固だしひねくれてるしナルシストだし……」


 あー、はいはい。もうどうとでも言ってくれ……


 そんなわけで俺は二人から散々罵られ、クルリはそのまんまの格好、絆も同行するという最悪な結果を迎えることになった。まったく、近所をぷらぷらしてれば満足して帰るだろうと思ってタカをくくっていたのに、つくづく運がない。


 ショッピングに行こうと言い出したのは絆だった。当然俺は反対したが、女二人に猛攻撃されて諦めた。


「へー、マモル! なにこれ?」


「それはつり革と言って……」


「うぬぬー、届かないー、マモル、持ち上げて!」


 クルリの声が電車内に響くと、ひそひそ話が聞こえる。時折「ゴホン」といかつい咳の音がする。


「マモル! あれ何!? あんなかに人がいるの!?」


「あれは、テレビと言って……」


「マモル! この世界でも魔法があるの? ドアが自動で開いたり閉じたりしてるよ!」


…………


 何もかもが珍しいのか、ウロウロしながら俺の方を見ずに大声を出す。まるで4歳か5歳くらいの子供と一緒にいるような気がした。耐えられなくなって一度そっと逃げだしたが、運パラが高いせいか気づかれ、大声あげて突進された。


 耐えられん……かといってこのおしゃべりに付き合うのもきつい。そう思っていると、再びつま先立ちでつり革につかまろうとしたクルリは、足元のバランスを崩してふらふらと倒れかける。とっさに俺は手を伸ばすと、クルリの手を握りしめて引っ張った


「あぶねーな、たく」


俺がボソリと呟くと、クルリは妙な顔をして俺の顔を見上げ、「ありがとう」と言ってニッコリと微笑んだ。


急に、自分の顔が真っ赤になったような気がする。心の中では、逃げたい、クソ、何で俺が、クソクソ……こんな奴の手握ってなきゃいけねーんだよ! と思いつつも、それはまるで何か別の感情をごまかす方便か強がりのように思えて尚一層歯がゆい思いをするのだった。


「お前コケるから、手握っとけよ……」


長すぎる数秒間の葛藤を越えて、俺はボソリと呟いた。


「うん! 」


その声の方に目を向けるのを意図的に避けた。すると、別の方から熱い視線がする。


「なんだよ……」


 絆の方をチラリと見る。満面の笑みを浮かべている。言葉より多くを語る表情だった。馬鹿、誤解すんじゃねーよと言いかけたが、またニッコリと笑い顔を浮かべて、はずかしがっちゃって、みたいに俺の予期せぬ方向で思い込まれるのは耐えられなかったので口を閉ざしたままにした。


 クルリは、周りから見たら小学4年生くらいなのか? そう思ってチラリと視線を移した。身長差はお父さんと娘だよ、あ、ひょっとするとお兄さんと妹っぽいかも。そう思うと、わずかだが気持ちが落ち着いた。それにしても白くてでかい帽子、ふわふわの素材、多分この世界にはないものだろう。一見ウールというか、厚みがあるわりに軽そうな素材だが、微かに輝いているように見える。


「マモルー! あそこの宮殿行ってみたい!」


「あぁ、あれはらぶほ……」


「らぶほってなーにー?」


 視線が一層痛い。


 神様、えぇ、一度も信じたことないです。だからってなんで、こんな罰与えなくてもいいじゃないですか。ええ、信じますよ、信じますから、これからはお祈りもしますよ。だからなんとかしてくれぇぇぇ……と、心の叫びが響き渡るのだった。


 家に帰った俺は、前回の戦い以上に疲労している気がした。結局家を出てショッピングをして、都心をウロウロして、家に帰ってみたら夜の10時だ。


 俺のパラメータ、精神力高いと思う。いや、絶対高い……


「どうした、マモル? 元気ないぞ?」


 俺がベッドに横臥で丸くなっていると耳元でクルリがささやいた。


「ほうっておいてくれ……」


 精神の疲労が俺を一人の弱い男にしていたのか、いわゆるいじけるという現象をほぼ人生で初めて経験していた。すると、クルリはベッドの上にぴょんと乗った。


ベッドがたわむ。部屋の壁側を向いて横になっている俺の耳元のすぐ後ろに居るのを感じた。


今度は何しでかそうってんだ、と思った瞬間、俺の頭を両手でぐいと乱暴に持ち上げるとひざの上においた。それは、いわゆる膝枕とかいうやつだ。


「今日はありがとう」


 条件反射的な拒絶よりわずかに早いその言葉は、俺の動きを微かに止めた。そして、次の瞬間、俺の頭をなでる。一度、二度、三度……再び起こる拒絶反応よりわずかにタイミングの早かったそれは、俺の動きを完全に止めた。


 きっと、これも運の仕業か、と勘ぐった。


「なんか、はしゃぎすぎちゃった」


…………


「今日は本当に楽しかった……そういえば、前の戦いもありがとう、まだ言ってなかったね」


 そして、また頭をなでなでとする。


俺、なにやってんだよと心の奥で呟いた。今となっては、クルリの膝枕を拒絶したいのではなくて、昂揚感と幸福感の混ざって心地よいような歯がゆい感覚に、もっとこのままで居たいと思ってしまう自分がいた。


「お前、仲間まだなのかよ……」


分かりきっていることをボソリと呟いた。


「――ん、なんかだめだね、私」


「そっか……」


 急にしおらしくなられると、嫌味の一つも思い浮かばない。今までのガキっぽさが消え、ちょっと影のある美少女的な雰囲気に様変わりしていた。姿が見えないという視覚効果も手伝ってか、なおさら普段とは違う女っぽさを感じさせられた。


「仲間ができて、もっと強い召還獣できるまでは俺がいてやる」


 そして、俺の口から出たのはこの言葉。


うわー、うわー、俺何いってんの? てか、何この雰囲気、うわー、やばい……と、つい飛び出した言葉に耳まで赤くなったように感じた。


「ありがとう……」


 そして、俺の頭を優しく包みこむ。


 今更になって気づく、ほのかな香り。微かに甘い……


 今更になって気づく、膝のぬくもり……


 いわゆる、人生初のひざまくら。いわゆる、女の子座り、いわゆる……


 ていうか、なんだよこの繊細さ。思わず助けてやりたいという気持ちになる。


 いや、絶対ない! ない、絶対ない!


 雰囲気に飲まれてシリアスになっている自分と、自分らしさを主張する自分とが主導権を取ろうと勝負のつかない川中島の合戦のようにせめぎ合っていた。それでも、わずかにシリアスに飲まれていく感覚は否めなかった。そして俺は、ボス戦で『逃げる』を選択する勇者のように自爆を繰り返し、追い詰められていくのだった。


「お前さ、向こうに居場所なかったら、こっちにずっといたって良いんだからな」


何故か分からないが、今その言葉が突然口からこぼれ落ちた。


「うん、ありがとう」


どんな気持ちでその言葉を返したのか分からなかったけれど、俺には優しい拒絶に感じられた。魔王を倒す、という使命があるのだから当然だろう。だが、ツグミが敵にいるかもしれないあの世界では、いつかはクルリを守りきれなくなるだろう。俺はどうしたら良いんだろうか? 分からない、だけど、とにかく今はクルリを守るために出来ることだったらなんだってやりたい気分だった。


「なんか、新しい召喚獣探さないとな……」


とりあえず強い仲間を得ること、それはこれまでと何も変わらないことだが、つい先日まではゴールだったことが、今はクルリを守るための過程となった点であまりにも大きな変化だった。


「そう、だね……」


「なんか適当なのいないのか?」


「えーっと……」


 魔法版スマホを取り出して画面を表示する。


「あ、これなんか……」


「どれどれ……」


 覗き込むが、説明だけで絵はない。そういやRPGでも、会ってない敵の情報とかは非表示だ。この世界では情報が出るのは少しだけ違う。


「グラン・サンドルといって、レベル10くらいで仲間にする召還獣で、ランスによる物理攻撃だけ。パラメータも、素早さが高いだけだ今までの敵のほうが怖いくらい」


「よし、とりあえずこいつからいくか!」


「うん!」


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