表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

─さわやかな、あお。

 もっと、いっぱい、一緒に、行きたかった……。

 こんな事になる前に、もっと、時間を大切に使えば良かった……。

 そうしたら、きっと──たのに……。






(……次は海が見たいなぁ)


 バスの揺れに身を任せていた少年はそんなことを思った。

 バスの中は相変わらず少年だけで、明るく、温かく、優しかった。最近、このバスにどこか懐かしさを感じる少年は1人でも寂しくはなかった。


 1人になる機会が多くなっていた少年は、部屋の隅で泣いていた。電気をつけても、日がでていても、部屋の中は温かくも明るくもなかったことを思い出していた。

 確かに、運転手らしき人はいる。しかし、姿が見えない運転手はいないも同然、バスには少年ただ1人。


 少年はバスの座席に深く腰掛けた。











 ──さて、準備はいいですか?












「……海だ」


 少年が降りたのは真っ白い砂浜の上だった。少年は靴と靴下を脱いだ。素足に感じる、ざらざらとした砂の感触、くすぐったさが少年の心を躍らせる。


 広がるのは、青い青い海。


 どこまで続いているかは少年には分からない。目を凝らしてみても、ずーっとずーっと奥まで青い。

 耳を澄ませれば、ざざーっという波の音が聞こえた。水が波打つ音、少年が歩くと鳴る砂の音。


 ついに少年は駆け出した。

 ズボンの裾をまくり、足を入れる。ちょっぴりひんやりとした感覚にまた、楽しくなる少年。


「……おいおい、水着とか着ろよ」

「ウィラ! でも、水着なんて」


 ウィラはニヤリと笑い、自分の陰から何か取り出した。


「もしかして……それ、水着?」

「イエース! いっぱい泳ごうぜ!」


 さっそく水着に着替えた2人はうきうきとした気分だった。

 ウィラもいつの間にか自分の水着を用意していた。そのことを少年が指摘すると、当たり前だという表情をしたのだった。


「いこうか、ウィラ」

「はい、待った」

「え」


 ウィラ手をあげて、呆れたように大きくため息を吐いた。


「学校で習わなかったか? まずは、準備運動だろ」

「ああ、そっか! 準備しなきゃね」


 2人で並んで1、2、1、2、と準備運動をしていた。どこまでも広い海と砂浜に2人の元気な声が響いていた。

 水面が揺れる度にきらきらと光を反射させる海は輝いて、きれいに見えた。


 少年はその美しさに心奪われていると、横からひょっこりウィラが顔を出した。そのことにも気が付かない少年の横でウィラは静かに海を眺めた。


「……あ、ウィラ。泳ごっか!」

「そうだな!」


 パシャパシャと海の水が跳ねる。

 少年は走ってそのまま海に飛び込んだ。ゴーグルを着けていたため、目をそっと開いてみた。

 そこには、色とりどりの魚、大きい魚、小さい魚、海藻や貝類、たくさんの生き物がいた。


 海藻はゆらゆらと波に揺られ、魚たちは優雅に泳いでいる。たまに、岩陰に隠れていたり、海藻から頭を覗かせているのがなんとも可愛らしかった。


 それから少年はしばらく泳いだ。遠く遠く、どこまでも。


「お、おい。遠くに行き過ぎ」

「ねぇ、ウィラ。海って、どこまで続いているの?」


 プカプカと、青い海の上に2人がぽつんといた。


「どこまでも、だよ」

「そっか……」


 どこまでも続く海を2人はしばらく眺めていた。大きな海、終わりのない様に見える海。

 少年は世界の大きさと果てしなさを感じた。


 だからこそ、ワクワクした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ