─さわやかな、あお。
もっと、いっぱい、一緒に、行きたかった……。
こんな事になる前に、もっと、時間を大切に使えば良かった……。
そうしたら、きっと──たのに……。
(……次は海が見たいなぁ)
バスの揺れに身を任せていた少年はそんなことを思った。
バスの中は相変わらず少年だけで、明るく、温かく、優しかった。最近、このバスにどこか懐かしさを感じる少年は1人でも寂しくはなかった。
1人になる機会が多くなっていた少年は、部屋の隅で泣いていた。電気をつけても、日がでていても、部屋の中は温かくも明るくもなかったことを思い出していた。
確かに、運転手らしき人はいる。しかし、姿が見えない運転手はいないも同然、バスには少年ただ1人。
少年はバスの座席に深く腰掛けた。
──さて、準備はいいですか?
「……海だ」
少年が降りたのは真っ白い砂浜の上だった。少年は靴と靴下を脱いだ。素足に感じる、ざらざらとした砂の感触、くすぐったさが少年の心を躍らせる。
広がるのは、青い青い海。
どこまで続いているかは少年には分からない。目を凝らしてみても、ずーっとずーっと奥まで青い。
耳を澄ませれば、ざざーっという波の音が聞こえた。水が波打つ音、少年が歩くと鳴る砂の音。
ついに少年は駆け出した。
ズボンの裾をまくり、足を入れる。ちょっぴりひんやりとした感覚にまた、楽しくなる少年。
「……おいおい、水着とか着ろよ」
「ウィラ! でも、水着なんて」
ウィラはニヤリと笑い、自分の陰から何か取り出した。
「もしかして……それ、水着?」
「イエース! いっぱい泳ごうぜ!」
さっそく水着に着替えた2人はうきうきとした気分だった。
ウィラもいつの間にか自分の水着を用意していた。そのことを少年が指摘すると、当たり前だという表情をしたのだった。
「いこうか、ウィラ」
「はい、待った」
「え」
ウィラ手をあげて、呆れたように大きくため息を吐いた。
「学校で習わなかったか? まずは、準備運動だろ」
「ああ、そっか! 準備しなきゃね」
2人で並んで1、2、1、2、と準備運動をしていた。どこまでも広い海と砂浜に2人の元気な声が響いていた。
水面が揺れる度にきらきらと光を反射させる海は輝いて、きれいに見えた。
少年はその美しさに心奪われていると、横からひょっこりウィラが顔を出した。そのことにも気が付かない少年の横でウィラは静かに海を眺めた。
「……あ、ウィラ。泳ごっか!」
「そうだな!」
パシャパシャと海の水が跳ねる。
少年は走ってそのまま海に飛び込んだ。ゴーグルを着けていたため、目をそっと開いてみた。
そこには、色とりどりの魚、大きい魚、小さい魚、海藻や貝類、たくさんの生き物がいた。
海藻はゆらゆらと波に揺られ、魚たちは優雅に泳いでいる。たまに、岩陰に隠れていたり、海藻から頭を覗かせているのがなんとも可愛らしかった。
それから少年はしばらく泳いだ。遠く遠く、どこまでも。
「お、おい。遠くに行き過ぎ」
「ねぇ、ウィラ。海って、どこまで続いているの?」
プカプカと、青い海の上に2人がぽつんといた。
「どこまでも、だよ」
「そっか……」
どこまでも続く海を2人はしばらく眺めていた。大きな海、終わりのない様に見える海。
少年は世界の大きさと果てしなさを感じた。
だからこそ、ワクワクした。