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─きらきら、きいろ。

 空気が澄んでいて、電気の明かりが少ない場所は星がとってもきれいなんだよ。


 ぼくも見てみたいな!


 今度、行こうか。


 うん!











 ──間もなく到着します。











 窓の外は真っ暗だった。


 少年はその暗さに驚きと不安が生まれる。やはり、暗いところというのは怖さがある。

 しかし、外とは違い、バスの中は相変わらず明るかった。それが少年にとっては救いであった。たった1人で暗い中バスにいるのは耐えられないだろうと少年は考えた。


 外が暗いということは時間が流れ、夜にでもなったのだろうかと少年は思った。しかし、急に暗くなった様子からそれはないのかもしれないと考えた。

 ここは現実とは少し違う、それは少年でも分かり切っていることである。だから、暗くなったことにだんだんと疑問を持たなくなっていった。


 そして、バスは緩やかに停止し、中央の扉が開かれた。


 扉の外は窓からも見えたように暗かった。

 どうしても、外に出ようとは思わなかった。何よりもここは自分の行きたいところではない、と少年は思っていた。


「降りてこいよ! な?」


 聞き慣れた声が、少年を呼んだ。


「ウィラ、でも……」

「だいじょーぶ、大丈夫! きれいなもん見られるぞ」


 バスの明かりに照らされたウィラは手招きしている。その顔は笑顔で楽しそうだった。

 その表情に安堵し、言われるがまま少年は外へ踏み出してみた。そこで見たのは、たくさんの輝きだった。




「わぁ……」




 上には無数の光が散らばっていて、暗くて本当は怖いはずなのに、全然そんなことはなかった。怖いというよりもきれいという思いの方が強く、少年は感じた。


 きらきらと輝く、光。


 大きさも、光り方もそれぞれ違う。その違いもそれらをきれいと思う要因になっていたのだ。

 少年は上を見上げたままゆっくりと歩いていた。ウィラは楽しさで輝く少年の顔を見て笑い、同じように上を見上げた。


「ぼく、こんな初めて……」

「きれいだろ?」

「うん、きれい」


 少年は手を伸ばして一つの輝きと手を重ね、手を握りしめた。まるでその光を掴んでしまったようだった。

 そして、手を開くとまたきれいな光が現れる。

 そんなことをしていると手に何か当たった。


「え」


 手の平を自分の方へ戻し、それを目の前に持ってくると、そこには光る石のようなものがあった。少年の手にちょうど収まるくらいの大きさだった。

 何だろうと見つめていると、表面が欠けていて、中が空洞になっていた。


 少年は中をのぞき込んだ。そこには自転車をこぐ小さな、小さな羽の生えた妖精みたいなものがいた。

 少年はびっくりして、その様子を見ていた。妖精は自転車をこぐ、そして、少しそれをやめていると光が弱まった。しかし、またこぎ始める。休憩を何度か挟んでいた妖精の額には汗がにじんでいる。

 ウィラも少年と一緒にそれを覗いていた。


「ウィラ」

「これ、この中にいる星の妖精の頑張りで光っているんだ」


 まさかの自家発電ということに少年は驚いた。


「上にあるの全部。こいつは、たまたま落ちてきたんだな……」

「全部って……全部の光はこの妖精さんのおかげなの?」

「イエース。すごいよな」


 もう一度少年はそれをじっと見つめたが、すぐに光は少年の手を離れ、上へ上へと昇っていった。


「必死に輝いているんだね」

「一生懸命って、きれいだよなー。そう思わないか?」

「うん、妖精さんの頑張り、きれい」


 しばらく少年と小人は上を見上げていた。


「ぼくね、こういうの見てみたかったんだ」

「良かったな、見られて」

「う、ん……」


 ウィラはいつものようにニカッと笑っていたのだが、少年は笑顔ではなく、少し複雑な表情をしていた。楽しさと切なさ、寂しさが入り交じっている。


「どうした?」

「……ううん。何でもない」


 少年は自分でもどうして複雑な気持ちになったのかいまいち理解することができなかった。さらには、なぜだか温かいものが目から零れ落ちていく。

 少年は自分のことであるのに驚いた。


「お、おい……」

「な、何でもないはずなのに……とまんない……」


 ウィラは隣で泣いている少年をどうしたらよいかとわたわたしていた。が、そのあと思い出したかのようにピタリとその動きを止めた。


「なぁ、そろそろ、来るぞ」


 ウィラが意味ありげにそう言ったので少年はウィラを不思議そうに見る。

 すると、ウィラは上を向くように指示した。言われるがまま、零れる涙を手で拭いながら上を見た。



 光がいくつもいくつも流れ落ちていた。



 光は通った道筋に光を残しながら流れていった。その場で輝いていたのもきれいだったが、流れる光は迫力があった。いつしか少年の頬に流れるものはなくなっていた。

 そのうちの1つの光がだんだんと大きくなってきた。


「!?」


 目の前まで接近してきた光に少年は目を閉じた。

 光を感じなくなり、そろそろご目を開くと、ウィラが両手で光ものを大事そうに持っていた。


「これ、は?」

「落ちてきたものだ。妖精たちは新しい光る素に替える。これはいらなくなった光る素」


 でもさ、とウィラはそれを持ったままバスの明かりの近くまでよった。少年もついて行き、ウィラの行動を見ていた。

 ウィラはバスの光にそれをかざした。

 すると、それは黄色く光り始めた。


「これは光にも反応して光るんだ。これ、持って行きな。だから、泣くなよぉ」


 ウィラは少年の手のひらにその光る素、透明な石みたいなものを置いた。

 少年はそれをぎゅっと握りしめ、笑った。






 光はいくつもいくつも懸命に輝いていた。








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