元王妃の真実
短編シリーズ第3弾
元王妃視点。
前世があるというのも面倒な話だ。何故かって……そりゃな、今の俺は股の下に立派なブツが付いてる訳だ。正真正銘の男である。が、俺の前世は所謂異世界ってヤツから迷い込んだ元王妃だ。今でこそ違和感を感じることも無いが、生まれて数年はそれこそ何十年と女として生きた記憶があるから色々と大変だったわけ。流石に今ではもう割り切ってるけどな。
まあけどやっぱ、俺の前世を題材にしたこの劇だけは何度見ても恥ずかしくなる。当時の宮廷音楽家の弟子だったブ何とかって奴があの男の死後に作った脚本が、こうやって後世にまで受け継がれてしまったのが運の尽きか。一応前世の俺、斉藤恵麻の名誉の為にも訂正おくが、話の半分以上は嘘である。王の妃となるべく異世界より渡りし運命の乙女云々〜とか、本気であり得ねぇ。風呂に入ろうとしたら偶々顔だけは極上王子が馬で走っていた所に落ちただけだし、仮に運命だとしてもそのへたれ王子は城に着くや否や、真っ先に自分の大好きな女の所へ走ってった時点でアウトだ。イリヤさんすっごい良い人だったけどね。でもって今は俺の妹だったりするが。姉みたいに慕っていた人が自分の妹になるとかギャップ萌えだよ!しっかりしてるのに、時々甘えてくるところとかイリスたんかわゆすwあの男もこんな気持ちだったのだろうかと想像すれば何やら腹立たしいが。いや、でも確かイリヤさんの方が年上だった筈だから……まあいいか。
お、丁度イリヤさんとあの男のシーンだ。あの男が一目惚れした恵麻の事をイリヤさんに相談し、イリヤさんがアドバイスをする。
あはは!それ恵麻とイリヤさんのポジションが完全に逆だって。ウケるわ〜。あのへたれ、見つめるとか手を繋ぐだけで想いが通じると思ってたんだよなぁ。確かにあの男とイリヤさんは阿吽の呼吸だったけど、それは主従としての、であって残念ながら恋愛に関しては完全な独り相撲だ。頼まれて仕方なくイリヤさんに聞いてみたら、畏れ多くも姉として慕って頂いているのですよ、って。案の定だったんだよな。
しかも珍しく一日出掛けて行ったと思ったら結婚してきたってんだから、正に青天の霹靂だ。旦那さんはこう、包容力のある落ち着いた人で、収まるところに収まったんだなってすんなり受け入れる事が出来た。約1名は駄目だったけど。傷心の果てに家出した時は流石に焦ったよなぁ。王様が家出とか洒落にならねぇよ。結局、イリヤさんが連れ戻してきてくれたんだけどさ。それから暫くあの男はイリヤさんにべったりで、新婚なのに可哀想なことさせたよな。その後も何かと理由つけては旦那不在のイリヤさん宅に押し掛けてたっけ。一応、変な噂が流れないように恵麻を連れていく配慮はしてたけど、お陰で恵麻は散々だった。イリヤさんはあの男が王子様時代から傍にいた腹心だったし、御宅訪問もあくまで恵麻の付き添いという形を取っていたから良かった。でも恵麻は違う。身元の知れない娘が外面だけは煌びやかな王様の近くにいたら、そりゃあ面白くないのも当然だ。物を隠されるのは当たり前、危うく毒で昇天しかけた事もある。
どうか私の手をお取りください〜とか、あの男が言うなんて絶対に無い!大体、恵麻と結婚したのだって、イリヤさん似の女の子が生まれたからだ。恐ろしいまでの執着心というか、光源氏計画を実行しなかっただけマシだと思ったが変態に違いはない。そうと決まればとばかりに、近くにいた恵麻を殆ど強引に孕ませ(恵麻はへたれ国王が嫌いではなかった)、議会には異世界の住人である恵麻は背後関係が一切無いことや、持っている知識に価値が認められる云々と認めさせて無理矢理王妃の座に就かせた。どうせ手を付けるなら何も恵麻でなくとも正式な愛人の誰かとすりゃあいいだろと思ったが、イリヤさんの子供を誰とも知れぬ女との子供に嫁がせる気かと脅されて、しかもイリヤさんと親戚になるんだぞと言われれば、折れるしかなかった。しょうがないだろ!恵麻もイリヤさんが大好きだったんだから。
舞台で演じられているロマンスの欠片もない理由で王妃になった恵麻だが、まあ悪くない人生だったんじゃないだろうか。自分の妻子そっちのけで余所の妻子ばかりを気に掛ける旦那は良い意味で放任主義だったし、恵麻も旦那より子供達とイリヤさん優先だったから、夫婦関係は良好だった。元の世界に戻ることはなかったけど、その代わりに新しい家族を得る事が出来、今でも恵麻の血筋は残っている。
今や王族の証とされる黒髪もエマ妃が生きた証拠とされています。世にも珍しき黒髪の乙女とカクトゥス王の恋物語はこれにて終幕とさせていただきます。
演じた役者達が全員で舞台に出て拍手喝采を浴びている。突っ込みどころ満載ではあったが、これも国誕祭の一部だから仕方ない。
「いい加減俺のイリスたんから離れろってんだよ、このへたれ王子!」
元王妃様の中では
子供達=女官長>>>国王
という感じです。
因みに今世では、
兄:王妃
妹:女官長
王子:国王
です。
ではでは、無いようで有るのか?!な次回予告は、旦那様視点か子供視点かはたまた侍従視点か。
ごめんなさい、決めてないです。