序章 彼の王は目覚める -※某ネズミの国とは無関係です
序章 彼の王は目覚める ―※某ネズミの王国とは無関係です
そこは遠い昔に堕ちた城の中。
1000年ぶりに彼の王は目覚めようとしていた。
パキッ
封印が施されている水晶に罅が入り、紅玉の瞳がカッとを見開かれた。
バキッ バキバキバキィッ!!!
刹那、水晶は激しい音をたてて砕け散り、魔王はゆらりと立ち上がった。
「ふっ・・・ふふふ・・・ふはははははは!!!」
嬉しげに哄笑を上げ彼の王は蘇ったのです。1000年という膨大な時を超え。
「跪けぇ、愚か者共!!この俺を封じ込めるとはなかなか大した奴らだ。
今すぐ八つ裂きにして街中にばら撒いてやろうぞ!!」
シーン・・・
誰一人いない大広間に陛下の声が木霊した。
もちろん1000年経ってるんですから、彼を封じた人間たちが生きているはずもありません。
それにここは魔王の城なので、すぐに立ち入りを禁じられたはずです。
封印の水晶が解けないようにと何重にも封印をして。
その所為で普通長生きのはずの他の魔族たちも皆死に絶えてしまったようです。
1000年封印され爆睡していた魔王陛下以外。
いやぁ、ロンリーですね。
「やかましい!!好きでロンリーやってんるんじゃない!!」
一人怒鳴り散らす魔王陛下。どうやら寂しくなったようですね。
いつも周りにシンパ引き連れて偉そうだったし。
「だいたい、ああ、そうだ、レイ!!何処にいる!!」
そう魔王が叫ぶとちょろりとネズミが駆け寄って来た。
少し離れたところで立ち止まり、『ちっ』と声を上げてネズミが魔王陛下を見上る。
「何だ、下等種。寄るな。」
しっしと手を振る魔王陛下にネズミはのんびりとのたまった。
「セラ様がお呼びになったんじゃないですかぁ。」
「・・・ぎゃああああああああ!?」
突然言語をしゃべったネズミに絶叫を上げ驚愕に目を見開いて硬直した魔王。
実は陛下、いつも偉そうにしていても超繊細飴細工のようなハートをお持ちのお方。
ファンタジーにはありがちの動物が喋るメルヘンチックな展開にその硝子の心は脆くも崩れ去ってしまったようです。
「1000年の間にこの世界はディ○ニーに侵食されたと言うのか!?俺はし、信じないぞ!!
止めろ、寄るな、近づくなー!!」
ととと、と近寄ってくるネズミにぶんぶんと手を振ってどうにか遠ざけようとする魔王陛下。
ネズミはその小さな肌色の手を上げてのたのたと近づいてまいります。
「落ち着いてくださいって。相変わらず脆弱な精神構造っスねぇ。」
のたりのたりと落ち着いた口調で話すネズミをそろそろと覗い見て魔王陛下は恐る恐ると口を開かれました。
「ま・・・まさか、お前、レイか?」
「そうスよぉ。」
ふらー・・・・ぱたん
魔王陛下はよろめいて後ろに倒れたままぴくりとも動きません。
どうやらショックで死んでしまったようです。
「死んでませんよー。ショックで気絶しただけです。よくあることですから。」
まったく繊細なんだから、とレイがやれやれと肩を竦めた。
「陛下ー、セラ様ー?俺、ネズミなんスからベットまで運べな・・・あれ?」
レイは小首を傾げた。
「・・・何か、縮んでるよーな?」
そうです、なんと魔王陛下は水晶に封印される時に膨大な魔力を人間どもに奪われてしまったのです!!
その所為で、あんなぷぷ・・・餓鬼のようなお姿に・・・
「笑うのは別にいいんすけどねぇ。あの人、いつ起きるんですかぁ?」
レイがそう言って見下すような視線を魔王陛下に向けられます。
彼がまた深い眠りについてもう・・・1年が経ちました。
このまま彼はそのまま永遠の眠りに・・・
「着くかぁ!!」
がばっと勢いよく起き上がりツッコミを入れる魔王。
「ちょっと起きるの遅いですよぉ、陛下ぁ。俺の紹介、1年後になっちゃったじゃないですかぁ。」
「1・年・後!?待て、俺は1年寝ていたと言うのか!?」
「えぇ、1001年でようやく復活ですねぇ。」
だいぶ語呂が悪くなりましたね。
「せっかく、計算して蘇ったというのに!!」
「あ、やっぱり計ってたんですねぇ。そういうところこだわるから駄目なんですよぉ。」
「こうなったらぐずぐずしてられん!!レイ、剣を持て!!」
魔王はもたもたとマントを着こむ。陛下、裏表逆逆!!
「俺、ネズミだから無理ですよぉ。」
「あぁ、そうだった!!というか、何でお前はネズミなんだ!?某ネズミの国の許可は取ったんだろうな!?」
陛下の力を以てしてでも勝てそうにないですもんね。
ちなみに先ほどから出てるあのネズミ。
魔王が世界を征服する際、軍師として背後から操っていた魔王陛下セラの右腕。
というかむしろ脳みそと言って過言ではないですけどね。
「セラ様の頭、とろとろのラ・フィネぐらいしか入ってませんからねぇ。」
ラ・フィネとはスセラムに暗黒ソースをかけた魔界原産のヨーグルトみたいなお菓子です。
魔王城にお越しの際はどうぞおひとつ。
「何でネズミなのか、と言われればまぁ、器がこんぐらいしかなかったしか言えないですけどねぇ。俺の器は1000年前に壊れましたし。俺は魂の盟約であんたの傍から離れられませんしぃ。」
「えぇい、のろのろと喋るな!!それなら早く外に出て新しい器を探すぞ!!
一刻も早く俺の魔力を取り戻し元のすぎゃはっ!!」
べしゃっ
焦って走り出した魔王陛下は見事にスセラディングいや、転びましたね。
子どものお姿になって間もないので頭とのバランスが取れないんですね、きっと。
大して脳みそ詰まってないくせに。
「・・・・。」
「セラ様、泣かないでください。さすがに後1年不貞寝されたらネズミとして楽しい人生過ごしますよぉ。」
「ならん!!ならんぞ!!お前、ネズミとして楽しい人生過ごすってことはあれだ、ネズミと結婚してネズミの餓鬼をこさえて孫たちに見送られながら最後には永眠するんだぞ!?
おい、なんだその遠い目は!!そんな人生もいいかな、みたいな顔をするんじゃない!!」
がくがくとネズミ基レイをひっつかんで激しくシャッフルする魔王。
そんなに振っても新しい曲は再生されませんよ、陛下。
「そそそれででででらららいいいささままままああああ。」
「う、キモい・・・な、なんだ?」
手を止める魔王。
高速でブレながら喋るレイは思った以上に気持ち悪かったですね。
「その姿でどうやって剣持って人間たちから魔力を取り戻すつもりで?」
「うぐ。」
「まさかそのお姿で剣を振るつもりじゃないでしょうねぇ。元々振り回すぐらいしかできないのに。」
「うぐぐ。」
「っていうか、俺の援護も期待しないでくださいねぇ。大体俺、しがないネズミですしぃ・・・」
「ぐだぐだ喋ってないで、策を出せ!!軍師!!」
レイの長い説教にどうやら嫌気が差してきたらしい魔王陛下はそう怒鳴られました。
「分かりましたぁ。とにかく旅立つ準備をしてください、セラ様。」
「ああ、分かった・・・って、何か話の展開早くないか?もしかしてページ切れか?」
いえいえ、ぐだぐだ続くだけの話なのでページは無駄遣いします。
ピシッ
「いえ、ただ1000年も経ってますし、建築法なんて魔界には元からありませんしぃ。」
ピシピシッ
「・・・ちょっと待て。」
「ここ、何年かずっと嫌な音と城の軋みが止まないんですよねぇ。俺、不眠症になってしまってぇ。」
魔王陛下はバタバタと何やら走りまわっております。
また繊細なハートが壊れてしまいそうなのでしょうか。
「いやぁ、本当にセラ様が起きてよか」
「出るぞ!!」
魔王はレイを片手にひっつかむと城の窓から飛び降りた。
その瞬間、陛下の少ない魔力が無くなったのも影響したのでしょう、城は完全に崩れ去ってしまったのでした。
「俺の城が・・・建てるのに100年かかったのに・・・。」
がくりとその場に膝をついて魔王は嘆いた。目の前には跡形もなく崩壊した魔王城。
レイは感慨もなく見事に崩れましたねぇなんて人事のように呟いています。
「それに持ち出せたのもこれだけか・・・。」
そう言ってかざした剣。人々をいやこの世を悪の世界へと陥れたとか陥れてないとか魔剣"闇を称えよ"。
「・・・いかにも厨二病な名前の付け方だな。」
「しょうがないじゃないですが。セラ様の存在が厨二病みたいなもんですし。」
何時もなら元気よくつっこむ魔王陛下は寂しげに笑ってそうか、と呟かれました。
「俺みたいなへたれ魔王には厨二がお似合いか・・・。」
「そうへこまないでくださいよぉ。」
すでにプセラドも何も元からない魔王陛下はそう言って小さな体を丸めて絶望モードに突入なされてるようです。まぁ、子どものお姿なのでまだ可愛げがあります。
かつて陛下が20歳半ばの姿で膝を抱えているお姿には、さすがのレイも城を出る覚悟を決めたほどの破壊力でした。
それを思い出したのかその愛らしい姿に嘲・・・微笑みを浮かべつつ、レイが静かに堕ちる夕日を眺めました。
「ま、いいじゃないですかぁ。とりあえず俺はいますしぃ。」
魔王陛下は少し驚いたように言葉を失くした後に偉そうにふん、と鼻を鳴らしました。
「まぁ、悪くはないか・・・。」
「そうですよぉ。これから魔力集めしないといけないんですから。いちいち落ち込んでたら先に進めませんよぉ。」
っというか、ぶっちゃけ面倒だし。と笑顔でレイは心の中で呟きました。
そんな彼を知ってか知らずかそうだな、と気持ちよさそうに両手を上にあげて伸びをした魔王は
瞳を輝かせて唯一の臣下に命令を下す。
「さぁ、ゆくぞ!!付いて来い、レイ!!」
「はいは・・・」
パッカラパッカラパッカラパッカラ!!
高らかな馬の歩みを聞いて魔王陛下は振り返ります。
そのまま馬は魔王陛下の前を通り過ぎ、そのままネズミのレイに突っ込んだ・・・
というか見えてないんでしょうね、ネズミですし。
高らかに上げられた馬の脚が、レイの頭上に影を作った。
そして、着地点をレイに定めたまま、馬の脚は振り下ろされ・・・
「あ゛」
ぷちっ☆
なんて愛らしい音ではありません。
グシャアッ
「ぎゃぁあああああ!!レイーーーーーー!!!!」
序章 彼の王は目覚める ―※某ネズミの王国とは無関係です 終
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第一章 魔王陛下、部下を弔う ―世界を統べる者はGすらも殺す