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ダニエルの言う吸血鬼の習性及び注意点をまとめると以下の様になる。
・日中起きれない、と言う事はないが、日中は力が弱くなる。
・気を付けていないと鏡やガラス、映像に映らない(気を付ければ映る)。
・あまり血液を摂取していない、力の弱い状態だと宗教に関するあらゆるものが畏怖の対象になる(ダニエルはある程度は平気)。
・姿形が変わらない不死の存在であるため、定住する事は出来ないので、定期的に引っ越しが必要。
・不死の存在の為、仮に性交したとしてもエンジェルが発症することはない。今まで真赭はダニエル一人だった為、妊娠できるかどうかは不明。
・喉が渇いた→人間(罹患者)。お腹が空いた→発症者。発症した人間の血液しか力にならない。発症した人間の血液を吸血する際は、激しい苦痛を伴う上に、吸血された相手は必ずその場で死亡する。発症していなければ砂塵となり、発症していれば失血死のような状態で死亡する。
・赤い服を着た者には気を付けよ。猩猩緋以下教会の組織する「エクソシスト」の可能性がある。
話を要約し終えて手帳を見ながら、やはり魅霞は口を尖らせる。
「発症した人の血液しか受け付けないのに、苦しまなきゃいけないんですか」
とんでもない呪いだ、と思う。しかも相手は必ず絶命するとなればなおさら嫌だ。
「こちらも苦しい思いをする上に、とんでもなく不味いぞ」
「えぇー。最悪」
「そうだな。だが、それでも喜ぶ者がいるのだから、仕方がない」
「え?」
意味が分からずにダニエルを見上げると、「その内見せてやる」と言われた。
ふと、再びダニエルの体が揺れ、ダニエルが踏みつけると揺れが収まる。
「とりあえずコイツは病院で預かっておこう。どうするか少し考えろ」
「はい」
ダニエルの足元で伸びている、水萌みなもを殺した少年を見つめながら返事をした。ここに来る途中に事情を話すと、早速ダニエルは少年を拉致してくれた。逃げられても面倒だし、病院にはイロイロと機材があるのでただ殺すよりはイロイロやった方が余程面白い、と言う理由も兼ねているらしい。魅霞としてもただ殺害してしまうよりも、こんな少年でも最後に人の役に立たせてやった方が気分がスッキリすると言う物だ。
時間が遅かったので、ダニエルがアパートまで送ってくれた。アパートの前で礼を言って頭を下げた。
「あの、あたし本当に誰にも言いませんから、仲間にしてくださいね?」
確認の意味も込めてそう言うと、ダニエルが可笑しそうにした。
「そのつもりでなければ、僕の事を話すと思うか?」
それもそうだと納得した。
「ありがとうございます。また明日病院に伺いますね。お休みなさい」
「あぁ、お休み。せいぜい悪夢を見ないように」
「あはは、うなされそうです」
帰っていくダニエルの後姿を見ながら思う。その背中が背負っているたくさんの病人たちの魂。それまでの長い人生の中で背負ってきた、たくさんの感情。
彼の背中は荷物で一杯で、彼の心の中もたくさんの感情が渦巻いて、その脳もたくさんの思い出が詰まっているのだろう。
長い長い時を生きる、新世界となったこの世界の創世から生きる――――真赭の吸血鬼。