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「実はあたし凄くテンパってたんですぅ」
「……そうか。道理で小説の話なんぞが出てくるわけだ」
「本当ですよねぇ、あたしも何言ってんだろって思いましたもんアハハ」
魅霞は笑っているが、ダニエルの方はと言うと、コイツは本当に大丈夫なのか、と訝しそうにしている。 それに気付いた魅霞がやはり笑って言う。
「だぁいじょぉぶですよぉ。バレないようにしますってぇ」
魅霞は自信満々だ。一応根拠はある。「諦観者の箱庭」は犯罪者及び予備軍の溜まり場なのだが、その為か変わり者が多い。多少の奇行は無視してくれるのがこの町の特徴だ。
ついでだが縄張り意識も強い。強盗なんかに襲われて「助けて!」と叫んだら被害が増大するだけだが、「コイツΛラムダ区のスパイだ!」と叫べば助けてもらえる。ちなみに 魅霞が老婆と暮らしていたアパートはΔデルタ地区で、ダニエルの棲みかはΕイプシロン地区だ。
なにより魅霞が最も驚いたのは、ダニエルの棲みかだ。何度も足を運んだ、箱庭の住人達が全幅の信頼を寄せる医者の家だった。ちなみに闇医者だ。
どういう事か尋ねてみると、食料の調達の為らしい。
「あそっか!病院なら輸血用の血液が手に入りますもんね!」
手を叩いてそう言うと、ダニエルは溜息を吐いた。
「いや、輸血用の血液を飲んでも何もならない。必要ではあるけど、人が水を飲む事と変わりはない」
栄養源にはならない、と言うことのようだ。
となると、疑問が浮かぶ。老婆も彼自身も吸血鬼だと言ったのに、血を飲まないとは矛盾している。首を捻っているとダニエルが言った。
「魅霞は本当に僕の仲間になりたいのか」
「はい」
そう言ったし、その理由も説明した。 尚もダニエルは確認を重ねた。
「覚悟が必要だ」
「わかってます」
「定住はできないし、僕の仲間になったところで殺人の罪は消えない。それどころか増える一方だ。君にそれが背負えるのか?」
「……はい」
少し答えに詰まったが、頷いた。
魅霞の返答を聞き、ダニエルはやはり溜め息を吐いた。
「そうか、ならば教えてあげよう。我々『副産物』の血を引くなら、必要なことだ」
ダニエルが語る、「副産物」と揶揄された所以。