第6話 返せ
ゆうきは、少しの寒気と同時に、後悔もする。
____なんで、「はい」なんて答えたんだろう。
十吾は、すぐさまこう言った。
「初仕事だ。ばれない様に中の様子見て来い」
「え?」
「いいから」
十吾はゆうきを勢いよく押した。
そしてゆうきは、ビルの中に入る。
いや、この場合は入れさせられたと言った方が正しいだろう。
ゆうきは即座に辺りを見回す。
するとゆうきは、1つの部屋を見つけた。
さらに、その部屋からは声も聞こえる。
____怪しいな、この部屋。
耳を澄まし、ボロボロのドアに当てるゆうき。
その瞬間、ドアから人が出てきた。
____なんてタイミングなんだ!!!
出てきた人物は、先刻はじめて見たばかりの少女。
そう、大沢夢戸だ。
夢戸は驚いた声で話した。
「ゆうき君・・・だったよね。どうしてここに?」
そういった彼女だが、ゆうきの服を見て、納得した。
「そっか、そうゆうことね。君も敵なのね。」
「は?」
服でばれたことに気づき、しまったという顔をするゆうき。
すると、彼女はこんな恐ろしいことを言い出した。
「じゃあ抹殺するわね。」
そういうと、手に熱らしきものを溜め、ゆうきに発射した。
「うわぁぁぁ!!」
一般人では到底理解できない状況に、ゆうきは混乱する。
発射された熱は、速いスピードでゆうきに向かっている。
混乱しながらも、間一髪で熱をかわす少年。
熱は壁に当たると、壁自体を勢いよく溶かした。
____こんなもん人に飛ばすなんて、なんて奴だ。しかもクラスメイトにだぞ!
優しかった彼女とは一変、まるで何かにとりつかれたように、そしてそれを隠していたかのように、言動が変わり果てていた。
「ちっ、外したか」
「お前の本性はそっちなのか?」
少女は答える。
「ええ、そうよ。前の中学校もこれで騙せたわ。今回馬鹿ばかりで助かったわ」
「馬鹿にすんな!俺が皆に言いふらすかもしれないぜ?」
「いいのよ。皆あなたの言うことなんて聞かないわ。」
____悔しいが、そうだ。こいつの言う通りだ。
____クラス内でも普通な存在の俺より、色々と才能があるこいつの方が信頼されている。
____転校生の癖に!
「それに、あなたは今ここで死ぬのよ!」
そう言って夢戸は、隠して溜めていた熱をゆうきに向けて走らせる。
____しまった・・・油断していた。やばすぎる、人生で今のところ一番やばい状況だ!
もうかわせない距離。
ゆうきは、あきらめるしかなかった。
ゆうきは、終わりだと悟り、こう叫んだ。
「返せよ。」
ゆうきの言った言葉に、夢戸は嘲笑して聞き直した。
「はい?」
ゆうきは、もっと大きい声で叫ぶ。
「返せ!俺の日常を返せ!!」
____終わった。大きい声なんて、あまり出したこと無かったから。
____理不尽な死に方だな、俺。
____でも、なんか、すっきりした。
そう思い、目を瞑る。
その刹那、目の前ではじきあうような音がした。
ゆうきは目を開けると、目の前には若い男が立っていた。
男は、ゆうきにこう話しかけた。
「大丈夫か、新入り?」
____十吾さんじゃない、誰だ?
生きていたこと、助けられたこと、前の男の人の正体、いろいろな疑問が脳内を駆け巡るが、これだけは解る。
この人は人じゃない。
結構今回は山場です