悪女なんです、信じて下さい!
「皆、聞いてくれ!」
私の婚約者、皇太子の紫土さまが壇上で高らかに叫んでいる。
義母と義妹の白百合はどこか不安そうな顔をしているけれど、私は澄ました顔のまま、内心全力で紫土さまを応援していた。
「俺は、婚約者である京緋と!」
来た! 決定的な言葉が!
紫土さま、おっしゃって! 遠慮なく、そして力いっぱいおっしゃって!
『婚約を破棄し、新たに白百合嬢と婚約をする!』
私は口元に手を当て、呆然とする準備をした。そして台詞を言う準備も、悔しそうな顔をする準備も万端に整えた。
「明日、結婚式を挙げると、ここに宣言する!」
「そ、そんな、どうしてバレて──えっ!?」
え? 結婚? 誰が? 明日? どうして?
「あ、あの、紫土さま、いきなり明日、という暴挙は置いておいて、結婚するのは義妹の白百合ですわよね? 今のはうっかりお間違えになったのでしょう?」
思いっきり「京緋」と私の名前を呼んでいたけど、それは聞き間違いかもしれない。
いや、むしろ聞き間違いでないと困る。
「? なぜ、俺が白百合嬢と?」
「なぜって、え? だって……」
私は義妹に顔を向けた。義妹は嬉しそうに微笑んでいる。
「……どうして、そんなに嬉しそうなの」
「お姉さま、おめでとうございまーす!」
「お、おめでとう……?」
おかしい。
どうしてこの子が私を祝福──は、いったん置いておいて、どうして紫土さまは私を糾弾なさらないの?
「……あの、紫土さま。私は、義妹の白百合を、いじめて」
「あぁ、キミが義理の妹である白百合嬢を虐げていたというアレだな。安心しろ! 俺はそんなくだらない噂、いっさい信じていない!」
茶色がかった紫の髪をかき上げ、私に向かって笑いかける紫土さま。その整った精悍なお顔立ちが、今は無性に腹立たしく見える。
「いえ、噂ではなくてですね、私は──」
「京緋!」
「っ!? は、はい!」
「俺は信じている! 婚約者のキミを!」
無駄に熱い。
けれど、夜会に集まっていた貴族たちの間からわぁっという歓声があがった。中には涙を流しながら拍手をしているご婦人もいる。
いやいや、ちょっと待って。待ってよ。
どうしてこうなるの?
「そっちじゃない方向で信じていただきたいのですが!?」
「お姉さまー、ごきげんよう」
そこに、義妹の白百合が毛先だけ薄緑色をした真珠色の髪を揺らしながら私に近づいてきた。
「白百合!? ちょっと、今の聞いてたでしょ? 貴女もなんとか言いなさいよ!」
「あらぁ、言うってなにを?」
「しらばっくれるんじゃないわよ! 私に虐められていました、って、本当のことを言いなさいっていってるの!」
キッと睨みつける私に怯むことなく、白百合は肩を竦めてみせた。なんなの、この子。普段はこんな仕草、絶対にしないのに。
「うふふ、やっぱりお姉さまも転生者だったのね」
「え、お、お姉さま“も”?」
「そうよー、わたしも転生者なの。もっと言っちゃうと、あのゲームの開発チームの一員だったのよ」
──あのゲーム。
和風ファンタジー恋愛シュミレーション『色咲き乱れる透明な世界で』。
私は、それを従姉妹から借りてプレイしていた。
“前”の記憶を思い出してから薄々思っていたけど、やっぱり私はあのゲーム世界の中に転生してしまったらしい。
「“イロセカ”は大ヒットだったよねー。わたしね、次の作品も──」
「……待って。ねぇ、その略称止めてくれない? 嫌いなのよ。なんで皆そんな風に略すのよ。そのまま言ったって大して時間の節約にならないじゃない。そういう略称使うヤツって相手もわかってる体で言ってくるから腹立つのよ。“えっ、なんの略?”って思わず考えるこっちの身にもなってくれない? それから勝手に略される“さきみだれるとうめいな”と“いで”にも謝りなさいよ」
一気に喋ったせいで、酸欠気味になってしまった。
肩で息をする私の前で、白百合が拍手をしているのが見えた。
「よくそんな長い台詞を一息で言えたわね」
「そっ、そんなこと、どうでもいい、のよ!」
──この『色咲き乱れる透明な世界で』のヒロインは義妹の白百合。
そして私は悪役令嬢。
といっても顔があるような重要な立ち位置ではない。ゲームの始まりの時点ですでに、攻略対象にして皇太子である紫土は婚約者だった私、侯爵令嬢の京緋と婚約解消をしている。
「なんか気が合わない」というふんわりとした、ある意味リアルな理由で成された婚約解消。しかし私、もといゲームの京緋は納得しなかったらしい。
手紙を送ったり皇宮で開催された舞踏会で紫土に詰め寄ったり、となかなかの未練を見せていたようだけど、最後は実家の領地に引っ込みそこで後を継いだ兄の補佐をすることになった。
その後は皇帝になった紫土と結ばれたヒロイン白百合の侍女が「元婚約者の京緋さまが、病に倒れて明日をも知れぬ命らしい」とさらっと口にするくらいで、結局彼女がどうなったのかは誰も知らないのだ。
つまり前回の私はヒロインに嫌がらせをしていない。ちょっぴり紫土につきまとっただけで「悪役令嬢」呼ばわりもどうかと思うけど、プレイヤーの中で京緋はそういう立ち位置にいる。
それが今回の京緋、つまり私は納得がいかなかった。
「ところで、お姉さま」
「なによ」
「なんでわたしを虐めたりしたの? しかもわざわざ紫土さまの好みに合わせて動いたりして、おかげでわたしと出会ってもゲームと違ってまだ二人は婚約を継続してた。そこまで努力したのに、私を虐めたらなんの意味もないじゃない」
そう。
私はめちゃくちゃ努力して、紫土から“ふわっとした理由”で婚約解消される道から外れた。
その後、父がずっと好きだったという幼馴染の娘である白百合を勝手に引き取り、勝手に養女にした。そこで私は手の平を返したように傍若無人に振舞い、義妹白百合に執拗な嫌がらせを繰り返した。
「……気に入らなかったからよ」
「気に入らなかった? あ、平民の私が養女になったから?」
「違うわ。そっち方面で言うなら憎んでいるのは、脳内お花畑の父親。そうじゃなくて、運命が気に入らなかったの」
「運命? こう言っちゃなんだけど、京緋のその後はそう悪いものじゃないでしょ?」
確かにゲームでは婚約解消されても、追放も処刑もされていない。少し結婚が遠のいただけで、仕事だってちゃんとしてる。のちに病気になったのは紫土のせいじゃないし、もちろん白百合のせいでもない。
「あのね? ゲームの京緋がつきまとったのは愛してたからかもしれないけど、一番は納得していなかったからでしょ? それは、紫土の断り方に問題があったんじゃないかと考えたの」
「断り方?」
「そう。ヤツがいい感じに上手く事を収めてくれていれば、京緋にも新しい婚約者ができたはずなのよ。京緋はゲーム内ビジュアルこそなかったけれど、“燃えるような赤い髪に紅玉のような瞳の美女”と言われていたでしょ?」
正に、今の私。
攻略対象の紫土は熱血キャラ。そしてヒロイン白百合は「病んだ元婚約者にまとわりつかれるちょっと疲れた皇太子」に紅茶を淹れて癒してあげることにより、紫土ルートに入る。
ちなみに紫土ルート以外の紫土は、ヒロインに選ばれなかったのがショックだったのか皇位継承権を放棄し皇都を出ていってしまう。それでも、ちゃっかりどこかの令嬢と結婚して温かな家庭を築く、というある意味最高のハッピーエンドを迎えるのだ。
「紅茶程度だったら、京緋も淹れてくれたんじゃないの? っていうか、皇太子が毒見もなしに元婚約者の義妹が淹れた紅茶をホイホイ飲むなってのよ」
「お姉さま、紫土殿下のことが好きだったの?」
「ううん、逆」
「逆?」
そう。
私は紫土に腹を立てていた。
「ふわっとした理由で婚約を解消しておいて後は放置ってあり得ない。だから復讐しようと思ったの。必死で紫土好みの女になるよう努力して、ヤツが“この女しかいない!”なんて思ったところで、実は義妹を虐めたおす陰険な女だったってのが判明して、ヤツの顔に泥を塗りたかった。ただそれだけ」
「ぇ、待って、嘘でしょ!? たったそれだけのために、最悪追放刑にされる危険なルートに足を突っ込んだっていうの!?」
「まぁ、そうね」
私はね、昔──それこそ前の人生から復讐心が強い性格なの。「報復はなにも生まない!」って言葉が大っ嫌いなの。
そんなことをして、恥ずかしくない?
いいえ、ぜんぜん恥ずかしくない。
それなのに。
「京緋! さぁ、キミのために仕立てておいたドレスが届いている! 早くこちらにおいで」
「皇太子殿下! 私、京緋はここに申し上げます! 私は義妹白百合を虐めておりました! そんな私が、皇太子妃になどなれるはずがありません!」
「京緋、いいんだよ。もう、そんな嘘をついて悪者にならなくても! 大丈夫、俺が守るから!」
なんでこんな暑苦しく叫んじゃってんの、皇太子殿下は。
「いや、だから虐めたんだってガチで!」
「俺は、信じない!」
「信じてよ! ホントに虐めたの! 虐めたのよ!」
なんなの、こいつは!
「いじめたっつってんのに、なんで信じないのコイツ!」
もう、言葉づかいを取り繕ってなんかいられない。私は悪女。くだらなかろうが逆恨みだろうが、決めた悪は最後までやり遂げてから華々しく散りたいの!
「やめときなさいよ、お姉さま。本当に追放されたらどうするの? 現実の追放刑はね、物語でよくあるようなファッション追放じゃないのよ? 都合よく隣国の騎士団とか通りかからないし、イケメンの盗賊頭に保護されたりなんかしないの」
うっ、そこまでは考えていなかった、けど。
「わたしはね、開発段階から紫土は推しじゃなかった、っていうかむしろ嫌いだったの。なんなら苦手だった熱血コメンテーターをモデルに作ったキャラだから。でも、お姉さまがどうしても無理っていうんじゃないなら、このまま結婚して皇后陛下になるのもいいんじゃない?」
「ううん、無理」
これは好き嫌いの問題じゃない。
そもそもヤツが私ラブになっているのは、私が頑張って自分を偽ってきたから。
本来の私は紫土にとって「なんとなく合わない」存在なわけだし、私もこの先なん十年も演技しながら暮らすなんて辛すぎる。
「大丈夫じゃないかなぁ、本当の自分で突き進んでも」
「勝手なこと言わないでくれる? だいたい、何回も言うけど私は貴女を虐めてたのよ?」
──聞こえよがしの悪口。無視。私物を隠す。ドレスを汚す。嘘のスケジュールを教える。
周りの目に留まらないといけなかったし、私も覚悟を決めていたから相当ひどいことをした。
にもかかわらず、こんなことになっている意味はわからないけど少なくとも私のような人間が皇后になっちゃいけないことぐらいはわかる。
「確かにいじめられたけど、お姉さまのいじめ程度は大したことないの。前の人生はもーっと、ひどい目にあっていたから」
「……え、どんな?」
「言いたくない」
思いがけず、白百合の闇に触れてしまった。
「……白百合。謝ったところでやったことは消えないから謝らないけど、私は紫土と結婚するつもりないの。貴女が皇后になりなさいよ、ヒロインだし王道ルートなんだから」
「あの男は嫌いだって言ったでしょ? わたしの推しは雑貨屋の薄柿さんなんだから」
──薄柿。
ヒロインが買い物に行くだけのただの雑貨屋にしては、顔が良くてキャラが立ってるなーとは思っていたけど前の白百合の推しだったからなんだ。
「私だって嫌。もう一回言うけど、“なんとなく合わない”っていう理由にもならない理由を突っ込んできた紫土のことは憎んでいると言ってもいいわ」
そんな軽々しい物言いで、人生捻じ曲げられたのよ? 嫌いになるなって方が無理でしょうよ。
「あー……ごめん。それは、裏設定のアレがあるから」
「裏設定のアレ?」
「そう。お姉さま、説明するからこっち来て」
白百合は私の手を引き、端にある長椅子に座らせた。
「あのね、京緋は元々、勝気で活発な性格なの。けど、六歳で婚約したとき五つ上の紫土に一目ぼれしたのね。それで年頃になっていくにつれ、紫土に嫌われたくなくて自分を抑え込むようになって、それが結果的に婚約解消に繋がったの」
「……それが裏設定?」
「うん。紫土が疲れていたのは、京緋にまとわりつかれたからじゃないんだよ」
京緋にストーカーされていたからじゃなかったの? それなら他に、どんな理由があるっていうの?
「紫土は気づいてたの。自分といると京緋がなにも言えなくなるって。だから京緋を解放してあげたかった。けど、なんの非もない京緋を悪者にするわけにはいかないし、だから“なんとなく合わない”っていう理由で周囲をけむに巻いたって感じ」
「そう、だったんだ」
「思いがけず追い縋ってくる京緋に嬉しくなったんだけど、一度皇族側から解消した婚約は元に戻せない。それなのに、剥き出しの感情をぶつけてくる京緋が可愛くてしかたがない。それで病んでいったの。白百合と結婚したのも、その苦しみから逃れたかったから」
え、予想以上に重たい。紫土ルートのスチルの価値が一気に下がった気がするじゃない。
「でも、普通に考えていじめをするような女は駄目でしょ。アレよ、“国母に相応しくない!”ってやつ」
「まぁね、たまたま今回は私がダメージ喰らわないタイプだったから良かったけど、そうじゃなかったら心を病んでたかもね」
「でしょ? それなのに、なんで紫土がああまで私を信じてるのかわからないんだけど」
物語の悪役令嬢は冤罪をかけられるパターンが多いけど、私の場合はなんていうの? 冤徳?
「それは、わたしのおかげ。あ、わたしのせい、って言ったほうがいいかな」
「どういうこと? 虐められてなんかいません! って言い張ったとか?」
私、まぁまぁ堂々といじめていたと思うけど。
「ううん。それだと庇ってると思われるじゃない。だから普通に“詳しくは言えませんが、お姉さまは使命によりこのようなことをなさっているのですわ、”って言ったの。詳しくは言えませんが、っていうのがポイントね。あー、なんかあるんだー、って勝手に色々想像してくれるから」
これを言い張った白百合も大概だけど、信じた周りもどうかしてる。
「それにね、お姉さま」
白百合は人差し指をぴんと立てた。
「お姉さまほど国母に相応しい女性はいないと思うわ」
「どこが。いじめ女よ?」
「うーん、お姉さまって、善政を敷いたと言われる為政者たちが全員“いい人”だとでも思ってるの?」
それは、そうでしょ。“賢王”や“賢妃”として教科書に載ってる人の伝記とか読んでるといい人エピソードに事欠かなかったりするじゃない。
「いい王さま、っていうのはね、あくまでも“そこの国民にとっては”なの。極端に言えば自国の五人を守るために他国の五百人を見殺しにできる。それが“いい王さま”なの」
私は紫土に視線を向けた。紫土はさっきの暑苦しい感じを引っ込め、穏やかに微笑んでいる。
慌てて目を逸らした。なんだか胸がドキドキしているけど、これは色んな事実を知って混乱しているからだと思う。
「……紫土はちょっと無神経だし脳筋系だけど、優しい人でしょ? そんな判断ができるとは思えない」
「ところが、彼の設定はそうじゃないの。紫土殿下は見る目があるし、頭もいい。包容力も求心力もある。皇太子を放って長々お喋りしてるのに、誰もわたしたちに近づいて来ない。それはさりげなく彼が気を配っているから」
私は周囲を確認した。本当だ。不敬と言われても仕方がない状況なのに、誰も咎めてこない。
「そして彼のあの熱さは、反対方向にも熱いのよ」
「反対方向?」
「慈悲ではなく、残酷さに関しても、ね」
それは今ひとつ信じられないけど、でも。
「ねぇ、そこまで紫土のことをわかってるならヒロインの貴女が結婚すべきじゃない? ヤツを嫌いなのかもしれないけど、国のためになるんだから少しくらい我慢しなさいよ」
「ほらぁ、そういうとこ」
「え……?」
「国のため。あなた今、国のためにわたしに我慢しろって言ったのよ? 私なら言えない、嫌いな男に嫁げだなんて」
「そ、それは……」
別に、普通に考えたらそれが一番いいと思っただけ。
でも、なに?
私みたいに嫌な女のほうが、皇后に向いているってこと?
「あ、お姉さま。放置が長くてさすがに寂しくなったみたいよ。紫土殿下がこっちに来るわ」
「え!? ちょ、ちょっと待ってよ……!」
「じゃあね、お姉さま。わたし、明日の準備をしなくちゃ」
白百合はさっさと立ち去って行く。
私は歩み寄って来る紫土に謎の圧を感じながら、それでも力いっぱい叫んだ。
「私は義妹をいじめた悪女なんです! お願いですから、信じてください!」
********
皇太子との婚約は無事に解消され、私は領地に引っ込むことになった。
「京緋、そろそろ休憩しないか? 餅をついてみたんだが、小豆と黄な粉だとどっちがいい?」
「なんでお餅? ……まぁ、いいけど。小豆がいいわ」
「よし。じゃあ夕食のあとに食べる分もついて──」
「いらないいらない」
「遠慮しなくていいんだぞ、俺はいくらでも餅をつける!」
暑苦しい。それからほんのちょっぴりだけどうっとうしい。
「……やめて、紫土」
白百合から聞いた裏設定その二。
紫土ルート以外の紫土は、皇太子の座を譲り皇都を出て行く。そしてどこかの令嬢と結婚して穏やかで幸せな人生を送る。
ここまではゲーム内で語られるから、私も知っていた。
知らなかったのは、その“どこかの令嬢”が京緋である、ということ。
『ナレーションの背景が、紫土の後ろ姿だったでしょ? 紫の布地に赤い縮緬が入ったような着物着て。実はあの赤が使われてる部分、拡大して繋げると“京緋”って書いてあるの』
──あまりにも怖すぎるから、領内中の仕立て屋に「これこれこういう衣装の発注が来ても受けないように」というお達しを出しておいた。
そして白百合は王太子妃になった。
あの雑貨屋の薄柿さん。
彼は皇帝の隠し子だったらしい。優秀過ぎた彼を疎んだ皇后がこっそり追放していたのだという。それは前の白百合ですら知らない、裏の裏設定だったみたいだ。
『なんでこんなことにー! 隠し攻略キャラでもなんでもないのに余計な設定つけ加えないでよー!』
留学して海外で暮らしたかったという夢が遠のいたのはかわいそうだけど、やっぱり国のためには白百合が次期皇后になるほうが断然いいと思う。
「……自分の国にとってはいい人、か。」
領地に戻ってすぐ、妻と実娘の許可なく幼馴染の娘を養女にした父親には退場してもらった。
初恋の、清楚な女性だと思い込んでいた幼馴染が父の悪口やいかにちょろい男だということを書き連ねた日記帳を見せた。それを読み、絶望の表情を浮かべた父を兄が冷静に切り捨てた。
父は現在、領地の端にある小さな家で引きこもりになっている。
その日記帳を白百合から預かり、父に見せたのが私。
手足の骨は折れても月日が経てば回復するけど、心をバキボキに折られたら回復はかなり難しい。万が一にも返り咲いてこないように、徹底的にやっておいた。一度“恋のお花畑”に囚われた者は再び囚われないとも限らないもの。
「白百合が言ってたのって、こういうことかなぁ。私ったら充分すぎるほど悪女じゃない?」
「キミは悪女じゃないぞ、京緋! 俺は信じないからな!」
「はいはい」
結局、最後まで悪女だって信じてもらえなかったけど、これはこれで良かったと思う。




