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16.5 セノーデン伯爵家の夜その2

「ヒロインのやつ、王子ルートで確定だと思っていたのに今更ルートを変更してくるなんて……!」


「まさかヒロインがこんなにすぐ王子に見切りをつけるなんて想定外でしたわ!しばらくの間は心変わりをした王子を説得しようと躍起になるだろうと思っておりましたのに……!」


 その夜、再び開催されたセノーデン家作戦会議でアーノルドとアーシャは眉間に皺を寄せてギリギリと爪を噛んでいた。


 ちなみにエトランゼは弟の前では気丈に振る舞っていたが、ロナードが伯爵家の馬車に乗って帰宅したのを見送ると悩まし気にため息をついているのを見てアーノルドが早めの就寝を勧めた為にすでに眠っている。疲れが出たのかすぐにぐっすりと眠っしまったようだった。そんなエトランゼの寝顔を盗み見しようとしたアーノルドはミッション達成寸前にアーシャに捕まってしまったので余計に機嫌が悪いのは言うまでもない。


「てっきりヒロインは王子と悪役令嬢の両方を手に入れようとしているのだと思っていたんだが……スパイに鞍替えするということはそれほど王子ルートに思い入れはないのだろうか?

 くそっ、ヒロインめ!エトランゼ嬢に不安そうな顔をさせた報いを受けさせてやる……!」


「王子ルートは攻略レベルチョロQですから手っ取り早く進めたいなら最適でしたし、悪役令嬢を手に入れるのだけが目的なら攻略対象者を変更するのもわかりますが……それにしてもあれだけ王子に執着していましたのに、諦めるのが早すぎませんか?スパイルートでスパイと恋に落ちる為の条件がすぐに揃うとは思えませんもの」


「そうだな……。ヒロインとスパイが恋に落ちるのは、まずスパイが悪役令嬢を利用して国の情報を手に入れてからのはずだ。奴はまだエトランゼ嬢の前に姿を現していないし接触はあり得ない。一体どんな裏ルートがあるというのか……」


 負のオーラを漂わせながらどんどん眉間のシワを濃くさせるふたりだったが、父親であるセノーデン伯爵のひと言によりそのシワは別の意味で濃くなる事になる。





「あ、そのスパイならうちのギルドで働いてるよ?」




「「…………はぁぁぁぁぁぁ?!」」



 息ぴったりにハモった兄妹にセノーデン伯爵はにっこり笑いながら「あれ?言ってなかったっけ?」と首を傾げて「ごめんね!テヘペロ」と今は懐かしい母の味がするというソフトキャンディーのキャラクターのような顔をした。どうやら夫婦ふたりして忘れていたようで夫人の方も「あらあら、おほほほほ」と誤魔化し始め出す始末だ。


 アーノルドとアーシャにとったらぶちギレ案件である。


 そう、おかしいとは思っていた。この緊急事態にいつもならより一層騒がしいはずのふたりがやたら落ち着いて優雅にお茶を飲んでいるなとは思っていた。思ってはいたが、まさかその口からそんな発言が出てくるなんて考えもしなかったのだ。


「……攻略対象者たちに関する情報は全て共有する約束のはずです…………」


 ゆらり。と、負のオーラを纏い始めたアーノルドに対して、下手くそな口笛を吹くセノーデン伯爵。アーノルドが「チッ!」と舌打ちをするとセノーデン伯爵は視線を泳がせながら慌てて言い訳を始めた。アーノルドは本気で怒らせたら怖いのだ。


「いや、だからさぁ~。塩湖の件が片付いた後にふいに前世の記憶の断片が蘇ってね?そういえば、とある条件でスパイが隠し子を抹殺しようとする隣国の王家から命を狙われる隠しルートあったなぁーって。それで散歩ついでに探してみたらなんとびっくり、怪我をして死にかけてるスパイを拾っちゃって?せっかくだからヒロインに見つかる前に回収したんだけどこれが結構有能だったから、そのまま偽の身分証作ってギルドで匿っちゃぇー的な?」


「その条件とは?」


「えーと、ほんとは条件というより人為的バグかな。裏技ってやつ。制作サイドのお遊び的なブラックジョークで作ったバグがなぜか人気が出たみたいでそのままってわけさ。その裏技を発見した人だけのお楽しみってね」


「なんでそんな大切なことを今まで忘れてましたの?!」


「いやぁ、そのうちサプライズしようと思っててすっかり。でもいい子なんだ!暗殺者のせいで顔に怪我をして大きな傷が残ってるから仮面をつけて生活してるんだけど、これが正規ルートだったら悪役令嬢にあんな酷いことをするなんて思えないくらいいい子なんだ!あと王家が嫌いだから平民の生活も普通に喜んでるし、商売上手だし、元スパイだけあってそのへんのゴロツキなら片手で倒しちゃうし!というか、本当に攻略対象者なの?っていうくらいヒロイン情報に無反応だったし!だからこれでスパイルート完全に潰せたなぁーって安心したらすっかり忘れていただけなんだ!」


「だったらなおさら忘れないで下さいましな!!」


 怒り心頭のアーシャにお説教されるセノーデン伯爵の姿を見ながらアーノルドは母であるセノーデン伯爵夫人にチラリと視線を送った。


「で、母さんの言い訳は?」


 ドスの効いたその声にビクッとしながら「だ、旦那様がサプライズで話してあなたたちを驚かせたいって言っていたから……。うっかり」と似た者夫婦と言わんばかりに「テヘッ」と首を傾げていた。つまり、夫婦揃って本当に伝え忘れていたようである。


「まったくこの夫婦は……」


 セノーデン伯爵一家は家族であり、全員が転生者という仲間でもある。全ては悪役令嬢を守るために一致団結しながらもそれぞれが動いているので多少の連絡漏れは致し方無いが、重要案件を伝え忘れるのは勘弁してもらいたいとアーノルドは深いため息をついた。そういえば、この夫婦は記憶を思い出す前から仲睦まじかったらしい。だからこそ自分とアーシャが生まれて前世の記憶を取り戻す事が出来たのだ。一応は両親のことなのに、記憶を取り戻す前の事は何も知らないな。と、ふいに思ってしまった。


「いや、今はエトランゼ嬢の方が先だ」


 不安そうだったエトランゼの顔を思い出す。もう大丈夫だと安心させてあげなければ……。


 エトランゼへの説明をきっちりかっちりするために、もっと詳しい情報を求めて父親であるセノーデン伯爵を締め上げようと指の骨をポキポキと鳴らすアーノルドであった。












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